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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百話 鉄砲談義

気がつけば本編も百話です。





『鉄砲談義』



天文十七年三月末、例によって人払いして佐吉さんと相談です。

先の千代女さん用ハンドクロスボウは佐吉さんがうまいことこしらえてくれたのですが、試しに使ってみるとこれはちょっと色々やばいですねえ…。

これを千代女さんにあげても良いものなのかどうか…。


例の熱田の宮大工さんの紹介で若いのに腕の良い指物見習いの人と知り合ったとかで、箱物とか木工細工等の仕事が頼めるようになったそうです。

それで、今回のハンドクロスボウの弾倉の箱やグリップ等がその人の手によるものになってます。

まだ板金作りに手間のかかるこの時代、鉄で箱作るのも一苦労です。

真鍮とか使えるようになるともう少し楽なのでしょうか?

いずれにせよ、坩堝が無いと鉄の熱加工は難しいでしょう。

流石に高炉は構造が解るとはいえ、腰を落ち着けるまでは作る気になれません。


ハンドクロスボウはほぼ図面通りのカラクリでテコの原理で弓弦を引き射つことが出来るのですが、意外に威力があるのです。

しかも弓の部分を折り畳めるようになっていて、持ち運びにも優れるという、忍び仕事の人が見たら欲しがるでしょうねえ…。

というか、千代女さんは織田家中の誰かに輿入れするのでは無いのでしょうか。

私が父の言う通り婿を取ることが出来れば別ですが、他国に輿入れという話になると千代女さんも輿入れという話になるような気がするのですが。


とはいえ約束してしまいましたから、護身用に使うのだと思うことにして差し上げることにしますか…。


さて、今日の佐吉さんとの相談は先の話です。

個人的には強力な鉄砲隊を持つことは心強いのですが、それを戦で使うのはちょっと躊躇われます。

今の矢と槍が主力武器の戦と、鉄砲隊が出てくる戦では死ぬ確率が格段に跳ね上がるのです。

鉄砲の弾が鉛というのも有るのですが、ライフリングされた銃でなくともかなりの威力でいかな武勇に優れた勇将であっても鉄砲で撃たれれば無事では済みません。

とはいえ、鉄砲はいずれ普及しますから、備えて置かなければならない事には変わりないでしょう。

戦で負け落城の憂き目にあえば、どんな目に遭うかわかったものではないですから。


『佐吉さん、鉄砲と言うと火薬ですが火薬というとやはり硝酸カリウムですね』


『そうですね。歴史はさっぱりですが高校化学で習うハーバーボッシュ法が出てくるのは第一次世界大戦の頃でしたか』


『ハーバーボッシュ法はプラントを作った事がありますが、あれはやっぱり無理ですよね』


佐吉さんはうーんと云うと腕を組んで頭を巡らせる。


『今の鉄加工技術でプラント規模のタンクや鉄パイプを作るのはちょっと現実的ではないと思います』


『ええ、そうでしょうね。溶鉱炉作って製鉄しないと無理だと思います。

 いずれ鉄にも手を出す必要があるかも知れませんが、今ではないですね』

 

佐吉さんは意外そうな表情を浮かべます。


『そう…なのですか?

 ところで、この時代は硝酸カリウムってどの様に手に入れていたのですか?』


『この時代は基本的には輸入が殆どですね。

 中国辺りの天然物の硝石を東南アジアに進出していたヨーロッパ人から買っていたのですよ。中国はこの時代鎖国してますから』


『なるほど、ザビエルとか学校で習った気がします』


『そうですね。そのザビエルとか、ポルトガルやスペインが九州に来ているはずです。

 この時代だと南蛮人って呼ばれていますが』

 

『南蛮人って何か聞いたことがあります』


『ええ、宣教師がキリスト教布教に丁度この頃来ているはずです。

 宣教師と一緒にスペインやポルトガルの商人もやって来て硝石やヨーロッパ、中国、東南アジアの産物を日本に持ってきて、日本からは刀とか銀、銅なんかと交換していた筈です。そのうち日本から売るものに事欠いて戦時捕虜なんかが売られていったと聞きます』

 

『日本人が売られていたのですか?』


『意外と知らない人が多いですが、日本から結構な人数の人が売られているのですよ。まだこの時期はそういう事はないはずですが』


『ひどい話です。日本には奴隷なんて無いと思っていました』


『この時代の歪んだキリスト教の教えだと異教徒は人間ではないので家畜扱いで売られていたのですよ。歴史の闇というやつですね…』


『火薬は鉄砲を撃つために必要だとは言え、人身売買などおよそ為政者がする様な行為だとは思えません』


『ええ、まあ宗教はアヘンなのでしょう…。

 この時代戦乱が続いたせいで国土や人心は荒廃し、誰もが生きていくのに必死。

 日本の歴史の中でも宗教に救いを求める気持ちが一番強かった時期なのかも知れません…』


『…私は今の日本の現状を体験していますから、身につまされる話です。

 ところで、硝石は他の方法では手に入れることが出来ないのですか?』


『硝石は古土法、培養法という手法で作ることが出来ます。

 しかし、時間がかかる上に取れる量もそれほど多くはありません。

 ただ、平成の世と違って使用用途が火薬だけと云うことを考えると、それだけでも十分な量かも知れませんが…。

 後は船が要りますが、確か渡り鳥が群生している離島でも天然の硝石が採れたはずです』


『それならば海外から輸入するよりは自前で作ったほうが良さそうですね。

 どのくらいの値段で輸入されているのかは知りませんが、人と交換する位ならば安くはないのでしょう』

 

『そうですね。かなりのボッタクリ価格で売られていると思います。

 直接船を出して買い付けに行けば安く買えるかも知れませんが、海賊も出ますし』

 

『では火薬作りは姫様にお任せするとして、私を呼んで鉄砲の話をしたということは先日の鉄砲の試射に関してですか?』


『はい。

 正直、今の火縄銃は色々無駄が多くて。

 一つ形を考えては居るのですが、黒色火薬で実現可能かどうかがちょっと心配なのです』

 

『先の試射での姫様の発言から推測すると、連射性の悪さでしょうか』


『そのとおりです。

 自動小銃の様な物は無理としてもせめてもう少し早く撃てればと思います。

 それこそ、弾を込めたらすぐ撃てる位の』

 

『今の火縄銃に無くて未来の鉄砲に有るものと云うと、薬莢でしょうか』


『そう、薬莢です。

 薬莢を作るべきだと思うのです。

 試行錯誤が必要だとは思うのですが、真鍮か鉄で薬莢を作り、それに火薬を詰めて弾頭を付けた物を用意すれば一々弾込めの手間が省けるのではないかと。

 鈴木殿が早合を作ろうとしていますが、あれも結局一発分の炸薬を小分けにしておいて、それを流し込むだけですから』


『ふむ…。

 まあ薬莢は例の旋盤があれば作れるでしょう。

 削るのに必要な冷却材を用意してもらえれば、旋盤で金属加工も出来るでしょうから』


『冷却材は一応考えてあるので秋以降には試しに作ってみることが出来るでしょう。

 その時には撹拌機が必要なので、それまでに作っておいて貰う必要がありますが』

 

『撹拌機ですか…、考えてみます。

 それで薬莢を作るとしても、それに着火する為の雷管が必要でしょう。

 それはどうするんですか?』


『一つは雷管式ではなくて、火縄式の薬莢を使った単発銃を考えています。

 着火部分に一工夫必要そうだけれど、今のよりはマシかなと』


『うーん、そうですねえ。

 まあなんとかなるかも知れませんが…、まずは図面を頂いても?』

 

『ええ、一応案を出すのでそれを実現してほしいのです。勿論、無理そうなら別の案で実現してもらっても構いません。

 もう一つは、あまり気乗りはしないのだけど、雷汞を作れないことも無いと思います。

 作り方は知っていますし、元祖銃社会の米国なんかだと粗末な瓶を使って露天で作っていたなんて写真も見たことがありますから、多分作れる…かな?

 問題は、水銀を使う点』

 

『水銀は怖いですね。

 ならば火縄式の薬莢をまずは作ってみましょうか』


『それが良いと思います。

 問題は黒色火薬を燃焼させるとカスが残るのですが、それによって薬莢の再挿入が可能かどうかなのですね。

 薬莢式が可能になれば椎の実形の平成の世で見慣れた弾頭も使えるようになるのですが』

 

『そればっかりは、実際に試してみないとわからないですね』


『やはりそうですね。

 では、絵図面を起こすのでまた作って下さい。

 銃自体も中折式が良いと思うのですよ』


『中折式ですか、古風ですね。

 でも確かに火縄ならそれでも良いかも知れません。

 なんとなく頭に形が浮かびましたよ』

 

『うふふ、そうでしょう。

 ではそちらの方も絵図面は起こしますが、どういう風にするかは佐吉さんにおまかせしますよ』

 

『わかりました』


『では、よろしくおねがいします』


『はい、絵図面お待ちしています』


というような会話を英語でしたのでした。

誰かが盗み聞きしていても、多分意味が分からないでしょうね。


「千代女さん」


すると千代女さんが入ってきます。

やはり、盗み聞きしていたのでしょうか。


「人払いは大丈夫でしたか?」


「勿論です。誰も姫様達の話は聞いておりませんよ」


目が泳いでますね。


「私は佐吉さんと唐国の言葉の勉強をしていたのです。

 唐国の言葉がわからないと、唐国の商人と取引する時に困りますからね」

 

「そ…、そうですか。そうですね」


「そうです。

 そうそう、これが頼まれていたものです。

 分かっていると思いますが、譲渡禁止です。

 貴女の身を護るときにだけお使いなさい。

 貴女は織田の家中に嫁ぐ身でしょう?」


「あ、有難うございます。

 もも、勿論ですとも。

 私は織田家の家中の方に嫁いで望月と織田家の縁となる様、父に言われてますので…」


「ええ、聞いています。

 きっと父が良き相手を見つけてくれることでしょう」

 

「た、楽しみにしております。

 この弩は小さくてとても良いものですね。

 早速使ってみたいので、これで失礼しても?」


「ええ、構いません。

 下がって結構です」

 

「はい。それでは…」


千代女さんが逃げるように去っていきました。

まあ、これで盗聴は諦めるでしょう。

好奇心は身を滅ぼしますよ。本当に。


佐吉さんと鉄砲関係のお話でした。

実際にお披露目するのは先になるでしょうね。

モノづくり一日にして成らずです。

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