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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第九十三話 加藤さんの帰還

大事な仕事を頼んでいた加藤さんが戻ってきました。





『加藤殿の報告』



天文十七年三月中旬、夜自室に下がってから千代女さんに頼まれた小型の弩の図面を引いていると、障子の外から声がします。


「姫様、戻りましてございます」


そろそろ戻る頃かと思っていましたが、遠江に行ってもらっていた加藤さんが戻ってきたようです。

部屋に招くと加藤さんと向かい合って座ります。

家でさっぱりしてきたのか、きっちりと側仕えの武士の格好で来ています。


「長旅、大儀でした。

 それで、如何でしたか?」

 

「はっ。

 まずは、松平殿の影守にござるが。

 姫様の読み通り、今川の出兵要請を渋った広忠殿を亡き者にせんと動きがありました。

 岡崎に入り込んでおった今川の手の者が広忠殿が一人で居る所を不意を打ち申した」


「やはり、動きましたか…。

 広忠殿は大丈夫でしたか?」


「はっ。

 危うき所で今川方の間者を討ち取り、阻止しもうしたが広忠殿が少し手傷を負われました。

 幸い傷は浅くすぐに治療しておきました故、大事にはならぬかと思いまする。

 姫様より預かりし書状もお渡ししておきました」

 

「そうでしたか。

 それは何よりでした。

 実に見事な働きです、難しい仕事をよく成功させてくれました。

 これにより、松平宗家は和議を受け入れ臣従してくるでしょう」


「ははっ。

 お褒めに預かり光栄にござりまする。


 次に遠江の戦に関してですが」

 

「はい」


「結果から申しますと、お味方の勝利にござりまする」


「勝ちましたか」


「はっ。

 備後様は尾張の兵を率い天竜川の上流より渡河し今川本隊の後背に周り、三河衆に遠江衆を率いた安祥信広様が今川本隊を天竜川の西の平原にて迎え撃ちました。

 安祥信広様の巧みな用兵にて今川本隊を包囲して天竜川に追い詰め、川向こうに別働隊の備後様の織田木瓜が翻ることで、今川は抗戦を諦め降伏したよしにござりまする」

 

「そうでしたか。

 兄上に届けた本が役に立ったのかどうかはわかりませんが、これで兄上と三河衆の武名は甲斐の武田や相模の北条にも届くでしょうね」


「左様、此度の見事な勝ちを収めた結果、遠江の国人らは尽く臣従し短き間にて平定されたのでござりまする」


「武名に勝るものなしですね。

 しかも、今回の戦には武衛様もご出馬されておられるとか」

 

「はっ、武衛様は最初吉田城へ入られ、三河国人衆らの臣従を受け、更には曳馬城にて将兵を鼓舞し遠江の国人らも臣従させたと聞きました」


「ご自分の役割をよく分かっておられますね。

 武衛様は中々の名君ですよ」


「はっ」


「さて、武衛様は恐らく今回の戦での勝利で本来の武衛家の威風を取り戻すでしょう。

 しかし、尾張では半ばお飾り守護とされていたのもまた事実。

 岩倉は当主が父の義弟でもあり関係も良好ですから私は動かないと思いますが、清洲の大和守家でなにか動きがあるかも知れません。

 なにか動きがないか、監視をしてほしいのです。

 あそこは武衛様の居られる御所のすぐ隣で、万が一のことがあれば取り返しがつかないことが起きるかも知れません。

 何かあった時は宜しく頼みますよ」


「ははっ、承りました」


「今回の仕事は実に見事で、本来であればもっと賞されるべきだと思うのですが…。

 姫の身の私に出来ることはこのくらいしかありません。

 今回の仕事に対する報奨です」


そう言うと、用意しておいた箱を指さします。

加藤さんが箱を受け取ります。


「中を開けてください」


「はっ」


「その瓶は隣の唐国の紹興酒というお酒です。

 鈴木殿に取り寄せてもらいました。

 日ノ本では珍しいお酒ですが、なかなか美味しいお酒だそうです。

 それと、いい仕事をするにはそれなりの資金が必要でしょう。

 津島の大橋殿の裏書きのある手形を入れておきましたので、それを報奨としまた仕事の資金としてください」

 

加藤さんは手形を見て驚きます。


「姫様…。

 拙者は姫様に禄を頂いておる身にござります。

 更には過ぎたる屋敷まで頂いておりまする。

 その上、この様な過分な報奨を頂いては…」


「良いのです。

 見事な仕事には見合う報奨によって報いるのが私のやり方です。

 いずれにせよ、私個人はあまりお金をつかうことはありませんし、色々と手がけている事業で結構な収入もありますから、こうやって家臣にお裾分けしないと死に金になってしまいます」


加藤さんは暫し考えます。


「死に金…、でござりまするか…。

 差し出がましい事を申しました。

 されば頂いた報奨は死に金とならぬように有効に使わせて頂きまする…」

 

「はい。

 そうしてください。

 これからも頼りにしていますよ」

 

「ははっ、励みまする」


そう言うと、加藤さんはまた静かに去っていきました。


本当に頼りにしているのです。

何しろ私の壱の家臣ですから。



さて、清洲は大丈夫なのでしょうか。


彦五郎様は大和守家の当主ではあるのですが、養子であり立場が弱いのです。

若くして養子になった時より譜代である坂井氏や河尻氏らが、同じく若くして守護を継いだ武衛様を軽んじていたのを見て育ったこともあり、彦五郎様も武衛様を軽んじて居たのです。

しかし、自分も同じく彼らにお飾りとして軽んじられており、同じ立場であると気がつかれてからは嫌気が差したそうなのです。


それからは大和守家を率いて戦にも参陣し、勝ち戦続きなので家中の雰囲気は悪くはないと思うのですが、結局は大和守家の本来は軍奉行に過ぎない弾正忠家が伸長し、実質的に守護様に次ぐ立場であるという事に、何も思わぬ筈はないと思うのですね…。


先代の達勝様はまだ健在の筈ですが、今の状況をどう考えられているのでしょうか。

ちなみに、先代の達勝様と父上は非常に良い関係で、祖父や父がここまでに勢力を伸ばすことが出来たのも達勝様のお陰ともいえますね…。



加藤さんが戻ってきたということは、父上も近い内に戻ってきそうですね。

今回も論功など後始末が大変そうですが、過労で倒れたりしないと良いのですが。

何しろ、史実では早ければ今年辺り亡くなってる可能性もあるのがちょっと不安なのです。

父信秀が亡くなったのは史実では三年後。しかし、三年は死を伏せた、あるいは病に伏せていた可能性があるのです。


食生活が以前よりかなり改善されているので、戦に行く前は至って元気そうではあったのが救いなのですが。


いずれにせよ、早く元気な顔を見たいですね。





吉姫は加藤さんに活動資金を手厚くしました。

加藤さんは有効活用するそうです。やはり漢の有効活用というと飲む打つ買うでしょうか?w


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