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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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閑話二十八 織田信秀 義元会見

義元公との会見です。





天文十七年三月 織田信秀



吉田城へと戻る前日、儂は海路高天神城へとやっておった柴田権六と面会した。

高天神城を見事奪取し、今川方の有力国人である朝比奈勢を少なくない兵力と共に貼り付けた。

結果としては目的を達成し、役目を果たしたと言えような。

初の総大将で初の城攻めに籠城戦にも関わらずそれを成し遂げたのではあるが…。



「権六、此度の役目見事果たしたな。

 初の総大将の上初の籠城戦、難しい役目であったがよくやってくれた。

 朝比奈勢が太原雪斎についておったらと考えると背筋が寒くなるわ」


すると、権六は喜ぶのかと思えば青い顔をして平伏した。


「備後様、お褒めの言葉恐縮なれど、某は…。某は…。

 面目次第もござりませぬ。

 城は…、某の不手際で落城寸前でござった…。

 ただ今川方の都合で落ちなかっただけにござる…」


権六は平伏したまま嗚咽する。


儂は若手でも特に目を掛けておる権六に武将としてさらなる成長をさせたかった故に初めて尽くしのこの役を与えたのだ。

権六はこれで更に武将として良き成長をするであろう。

人一倍、学ぶことにも鍛えることに惜しみがない権六なれば。

儂はこうなる事も含めて権六にこの役目を与えたのだ。

だからこそ、与力に頼りになる孫介を付けもした。


「権六、どうであれ目的は達され役目は果たしたのだ。

 そなたがそれを誇らねば、帰ること叶わなんだ者は浮かばれまい。

 此度のこと、既に教訓としたのであろう?

 ならばそれで良い。

 城は元の小笠原殿に返す故、そなたは胸を張り兵らを連れて尾張に戻るのだ。

 帰ること叶わなんだ者らの家族に見事役目を果たし決して無駄死にではないと伝えてやるのだ。

 それが将たる者の務め。わかったな」

 

「備後様…。

 某、此度の教訓無駄にせぬよう更に励みまする。

 死んでいった者らが誇れるよう胸を張りて帰りまする」

 

「うむ。それで良い。

 儂も明日には吉田城へと戻る。

 ではな」


「はっ」




翌朝、早朝より出立すると日が暮れる前には吉田城へ到着した。

そして翌日、今川治部大輔殿と対面することとなった。

敗れたりとはいえ、将軍家に連なる家柄ゆえ粗略な扱いは出来ぬ。

それ故、武衛様のご意向もあるが此度も武衛様同席での対面となる。

特別に用意した対面の場で、武衛様と二人で待って居ると治部殿が連れてこられる。

捕縛されてこの城に護送されてより、座敷牢にてこの日を待っておったが、ただ静かに過ごしておられたそうだ。


「今川治部大輔様にござりまする」


案内の者が声を掛ける。


「お連れせよ」


声を掛けると、部屋に入ってきて用意された席に座る。

治部殿を間近で見るのは初めてであるが、歳の頃は三十位だと聞いておる。


「今川義元にござる」


ただ静かに、さながら僧侶の様な雰囲気を漂わせる。

だが、井伊殿からは血なまぐさい話も聞いておる。


「初めてお目にかかるな。

 斯波義統である」

 

「織田備後守信秀にござる」


一通り挨拶を交わすと、お互いを見定めるかのように暫しの静寂が訪れる。


そして、治部殿が先ず口を切る。


「一つ伺いたい。

 何故、余を討ち取らなかったのか。

 縄目の辱めを受けさせ、武衛殿の父上の仕返しがしたかったわけではあるまい」


武衛様が答えられる。


「遠江を取り戻すには、それも必要であった事は間違いない。

 我が父もまた討ち取られることは無かった故な」


そう答えると、儂に視線を送る。


「単刀直入に申しましょう。

 治部殿に居なくなられては困るからでござる」


それを聞き、治部殿は驚きの表情を浮かべた。

先ほどの武衛様の言葉には眉一つ動かさなんだのにだ。


「…ふむ。

 何故余が居なくなると困るのだ。

 余が討ち取られれば、後継はまだ元服も済ませておらぬ龍王丸が後を継ぐ故、仮に雪斎が健在であっても弱体化は免れまい。

 寧ろ余が居なくなった方が好都合に思えるがな」


「我らは駿河に野心はござらぬ。

 遠江は失地ゆえ返して頂いただけにござる。

 尾張からは駿河は遠く、また北には武田、東には北条と油断ならぬ国があり我らの手には余る」

 

それを聞き治部殿はフッと笑う。


「なんとも都合の良い話よな。

 余がその武田、北条と結んで遠江奪還に来るという事は考えぬのか?」

 

儂が聞きたかったのは正にその言葉であった。


「駿河に野心のあるその二国と結んで、駿河に野心の無い国を攻めるとは面白いことを仰る」


治部殿は不敵な笑みを浮かべる。

やっと本気の顔を見せてくれたな。


「ふふ、血縁にて結んで同盟を作る事も出来るのだぞ。

 まあ良い、それで余を生かして何をさせたいのだ。

 まさか、武田と北条の盾にしたいからだけなどとは言わぬだろうな?」

 

それを聞き武衛様が答えられる。


「ははは、武田を信用すると碌な目に遭わぬと余は思うがな。

 同じ足利に連なる者として、一つ忠告しておいてやろう。

 備後守、そろそろ本題を」


「はっ。

 治部殿、武衛様は今川家と和議を結ぶ意向にて。

 

 条件は現状の変更をせぬこと、三河、遠江の国人らの人質を返すこと、その上で我らと同盟を結ぶことの三つでござる。

 

 約束通り既に今川勢は無事に駿河へ返し、今川と関係の深い国人共もまた遠江を退去する事で話を付けておりまする。

 既に遠江の国人らは尽く武衛様に臣従し、遠江は平定されたのでござる」


治部殿は流石に驚く。


「な…、戦が終わってまだ数日の筈…。」


儂と武衛様の表情を見て事実だと悟ったのか、大きなため息をつく。

そして話を続ける。


「和議の件はそれで構わぬ、既に遠江は平定したのだろう。

 ならば遠江の人質はもはや今川には必要ない。

 遠江を失ったならば三河に手を出すことも難しかろう。

 どうせ、三河のまだ臣従せぬ国人共との交渉に使うのであろう。

 いずれにせよ今川にはもう必要ない者共故皆戻そう。

 だが、なぜ戦をしたばかりで長年敵対しておった我が今川と同盟を結びたいのだ。

 ならば戦などせず話し合いも出来たであろう」


武衛様が笑い答える。


「ははは。

 此度の戦の前に和議の話をしたならば、治部殿は遠江の返還を条件に出したろう。

 返さねば和議はせず力で取り返すまでと強気に出たはずだ。

 遠江を取り返せば結局は三河に手を出し続ける。

 織田が代替わりなどで混乱すれば和議を放棄し攻めぬとも限らぬ。

 そうではないか?」

 

治部殿も笑われる。


「ふはは。

 よく分かっておるではないか。

 いまさら戦の前の事を話しても詮無きことか。

 和議は良いとして、同盟はまた話は別だ。

 何故同盟を結びたいのか聞かせてもらおうか」

 

武衛様が儂に頷かれる。


「我が弾正忠家が何故力を得たかご存知だろうか」


「財力が他家に圧倒するからであろう。

 度々と戦を繰り返しながら禁裏や伊勢にあれ程の銭を出せるのだ、生半可な財力ではあるまいよ」


「ほう、ご存知でしたか。

 左様、我が家は銭の力で力をつけたのでござる。

 特にここ数年で貫高を倍に届く程に伸ばしました」


「なんだと?

 安祥を入れてもとても倍にはならぬだろう」


治部殿は興味がそそられたのか身を乗り出す。

それを見て武衛殿がニヤリとされる。

何処までご存知なのかこの守護様は…。


「先ほどの話は尾張だけの話にござる。

 安祥は半ば別家扱いで、税は全て三河で使っておりますれば」


更に目を見開かれて驚かれる。


「な、なんと…。そのような事が可能なのか…。

 いや…、まてよ何か聞いたことがあるな。

 そうだ、最近駿府でも出回っておる醤油は尾張の津島から仕入れておると聞いたことがある。

 他にも新しい酒も聞いたことがあるな。

 あれらはもしや全て備後殿が出処なのか?」


「左様、我が領内の産物でござる。

 他にも新しい農法を取り入れることで石高も多く増やしましたぞ」


「そのような事までか。

 戦ばかりかと思っておったら、内政でもそれほどの事を…」

 

「我が娘が言うのです、義元公なれば銭の力を知っていると。

 商圏を伊勢から駿府まで広げることでどれだけ途方もない富を齎すのか、すぐに理解してもらえるはずだと。

 儂には会ったこともない治部殿を何故そこまで評価するのか分かりませなんだが、今日直接お会いしてそれが正しかったと分かりました」

 

「なんと、備後殿の娘が何故余を知るのかは解らぬが、その娘の見立てはあながち外れてはおらぬ。

 余は何とか国を富ませようと内政に特に力を入れておるのだ。

 銭の力、商圏の拡大、余にはそれが解るぞ。

 伊勢から余の駿府まで一つの商圏として連なれば、戦をするのが馬鹿らしい程の富がもたらされよう」

 

「娘が言っておりました。

 豊かさは民百姓まで行き渡ることで、更に大きくなるのだと。

 民百姓まで豊かになるには戦が起きぬことが大事だと。

 治部殿が我らと同盟を結べば、我らは共同して武田や北条らの侵入を阻むことが出来まする。

 我らと同盟を結び戦をせず内政に専念すれば、駿河は遠江を失う前の国力をすぐに超えましょう。

 我らと結べば新しい農法や産物を手に入れることも出来るのですからな」

 

治部殿はまるで夢でも見るような表情を浮かべる。

それを見て武衛殿が何故か笑いを堪えておられる…。

そして、治部殿が膝を叩いて答える。


「うむ!

 相わかった、武衛家と和議し同盟を結ぼう。

 同じ銭の力を知る家同士で争うのは馬鹿らしい事だ。

 具体的な話はまた後日家臣を交えてするとして、この事の証明として誓紙を書き同盟を結ぶことを誓おう」

 

武衛様が微笑まれる。


「では治部殿、これよりは同盟相手。

 末永く誼を結べることを願っておる」


「治部殿、明日には駿河へお連れしましょう。

 先に駿府に知らせます故、一筆下され」

 

「うむ、わかった。

 後で筆と紙を頼む。

 それと備後殿の娘御に一度会ってみたいものだな。

 会ったことも無い余の事を何故そこまで知って居るのか、是非聞いてみたい」


「はっ。

 では、後ほど筆と紙を届けさせまする。

 娘はいずれ機会があれば…」

 

吉を会わせるのは正直怖い気がするのだ…。


こうして今川と和議がなり、同盟を結ぶことが出来たのだ。

大体は吉の話しておった通りとなったのだが、何故そこまで治部殿の事を知っておったのかは儂も聞きたい故戻ったら聞いてみるか…。


さて、明日には出立して安祥に寄るとしよう。



これで今川との和議と同盟がなり、尾駿同盟が成立しました。

豊かな尾遠参三国に駿河という石高だけで言えば武田や北条を圧倒する同盟が出来上がりました。


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