閑話二十七 織田信秀 遠江後始末
遠江での後始末です。
天文十七年三月 織田信秀
翌日、戦の後始末をやるつもりであったが、武衛様が同席されることになった。
今回の戦で敵方だった者も含め、新たに臣従する者は基本的には皆安堵が約束され、引き続き今川に仕える家は遠江から退去するという事になるだろう。
「二俣城城主、松井宗信にござります。
松井家は武衛様に臣従いたしまする」
武衛様が松井殿に声を掛けられる。
「松井殿、此度事情はあったにせよいち早く我等に味方してくれて嬉しく思う。
約束通り安堵致す故励まれよ」
「ははっ、有難き幸せにござります」
儂からも声を掛ける。
「松井殿も此度の戦の論功の対象になっておる。
後日改めて沙汰致す。
これからもよろしく頼む」
「はっ」
松井殿が下がると、次に包帯を巻いた国人らが入ってくる。
「天方城城主天方通興にござります。
此度の戦では敵方でござりましたが、改めて武衛様に臣従致します」
「犬居城城主天野景貫にござる。
同じく、此度の戦では今川方でござりましたが、改めて武衛様に臣従致します」
「匂坂城城主匂坂長能でござる。
此度は敵方にござったが、改めて武衛様に臣従致します」
「高天神城城主小笠原氏興にござる。
今川方に御座ったが、改めて武衛様に臣従致します」
「久野城城主久野忠宗にござりまする。
敵方にござりましたが、改めて武衛様に臣従致します」
五人の遠江での有力国人が改めて武衛様に臣従を申し出た。
皆、此度の戦で敵方として戦った者ばかりだ。
「臣従の申し出を差し許す。
安堵致す故これより後は武衛家の臣下として励まれよ」
「「「ははっ、有難き幸せ」」」
儂からも声を掛ける。
「つい昨日首を獲られかけた相手と翌日こうやって対面するとはな。
天方殿、匂坂殿、両名の武勇この備後守しかと見せて貰った。
早く傷を癒されて、その武勇を武衛家にて奮って下され」
「我等もここでこうして対面叶うとは想像もしておりませなんだ。
敵方であったにも関わらず、武衛様の慈悲により臣従を許され安堵まで頂戴した。
この上は、我等の武勇が役に立つのであればいつでも御下知下され」
「これよりはお味方故、宜しくお願い申す」
「「「お願い申す」」」
「うむ。
今川家には遠江の国人衆の人質を返すように要求する故、そう遠くない時期に人質を返せよう。
我等は縁を結ぶことはしても人質は取らぬ。
人質をとった所で裏切る家は裏切る。詮無きこと。
なれば遺恨を残すようなことはせぬので安心されよ」
「なんと…。
ご期待を裏切らぬよう、励みまする」
「「「励みまする」」」
武衛様が声を掛けられる。
「その意気や良し。
頼りにしておるぞ。
では、早く戻り安堵を家のものに知らせてやるがいい」
「「「はっ」」」
その後、ほぼ全ての国人領主の臣従を以て事実上の遠江平定となり、掛川の朝比奈など今川と関係の深い家は駿河に退去することとなった。
負傷者の療養や戦場の後始末などは井伊殿に託し、武衛様と儂は翌日吉田城へ戻ることとなった。
吉田城にて義元殿と面会し、正式な和議と今後について話し合わねばならぬ。
遠江の後始末は、今回は遠江平定で安定を最優先に基本安堵の方針で臨んだ為、あっさり臣従して終わりました。