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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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閑話二十六 織田信秀 信広との対話

信秀視点、信広から今度の戦のあらましを聞きます。





天文十七年三月 織田信秀



武衛様にお言葉を頂戴した後、儂は信広を訪ねた。


「信広、疲れておるだろうに済まぬな」


「いえ、構いませぬ。父上こそお疲れでしょうに。


 …此度の戦の事ですか?」

 

「うむ。実に見事な采配であったそうだな。

 此度は信広に曳馬城の偽装以外は全て任せた故どの様な戦であったのか、直接聞いてみたいと思ってな」


「此度の戦は、そう一言で言えば『カンナエの戦い』を再現したのです」


「環苗の戦い…、とな?

 …未だ聞いたことがない戦いであるな」

 

「父上、カンナエです」


そう言うと、信広は懐から一冊の本を取り出すと差し出した。


儂はそれを受け取ると表紙を見てみる。

それには綺麗な文字でこう書かれておった。


『ポエニ戦争』


信広がこの本について話す。


「今より千八百年程前の遥か西域で行われた大国同士の戦の歴史が書かれてある本です」


「吉か…」


「はい。吉から戦の前に貰った書物です」


「ほう…」


儂は本を開いて中を見てみる。


このローマというのは大秦国の事か?そしてこのカルタゴという聞いた事もない国。

その二つの国の戦を書いた歴史書か。

相変わらず綺麗で読みやすい文字で書かれておるな。

戦の背景や推移ばかりではなく、地図、軍の配置や陣立て、更には兵まで描かれており実に分かりやすい。


そして、これがカンナエの戦いか。


装備兵数共に優勢なローマ軍と、全てにおいて劣勢なカルタゴ軍との野戦。

儂はそれに目を通すと、思わずため息をついた。

なんと勇壮な大国らしい大軍同士の戦いよ。

ローマの精鋭重歩兵はカルタゴ軍の備えを優勢に突き崩して本陣に迫り、勝ちを確信するが気がつけば包囲されておるのだ。

だが、この戦の鍵となっておる騎兵部隊というのは三河衆にも遠江衆にも存在せぬはず。


「カンナエの戦い。このハンニバルという将軍の采配見事であるな。

 しかし、このカンナエの戦いはカルタゴの騎兵が鍵となっておる。

 今の日ノ本にはこの様な規模の騎兵を持つ国は居らぬと思うのだが…。

 如何したのだ」


「はい。

 父上が言われるように騎兵が居らぬのでそのままでは使えぬと思いましたが、今川方にも騎兵は居らぬという事に思い至ると、どうすればこの見事な包囲戦が再現できるのかを勘助の知恵も借りて考えました」

 

「ふむ」

 

「守備に優れども具足が重い安祥西三河勢とより身軽な東三河、遠江勢の三隊に分け、日の明けきらぬ早朝より出陣、本隊の西三河勢を中央に伏せて配し予め南北に配した東三河勢、遠江勢を密かに先行させ敵の側面に回り込ませました。

 そして今川本隊の渡河が完了した所で本隊の存在を明らかにし敵に攻めさせました。

 敵は誘いに乗り魚鱗にて本隊を貫き本陣を急襲せんとしましたが、それに対し西三河勢はわざと崩れたふりを装い敵を通しました故、本陣手前に揃えた精兵に止められるまで奥深く突き進みました。

 本隊奥深くに誘い込んだ所で攻勢に転じカンナエの戦いの如く包囲殲滅したのです」

 

「…ほう。

 この吉が記した書物を元に、それを見事再現してみせるとは。

 実に…、実に見事であるぞ、信広。

 父はそなたを誇らしく思う」


我が子ながら末恐ろしい将器よ。

儂は誇らしくも、見事巣立ってみせようとする我が子に一抹の寂しさを感じた。


「ち、父上…」


信広は感極まって涙する。

儂もはからずも目から涙が出る。

庶子だと粗末な扱いをしたつもりは無いが、やはり嫡子に比べればその処遇は比較にならぬ。

よくぞ歪まずここまで成長してくれたものだ。

信広といい吉といい儂は良き子に恵まれた。


だが、勘十郎…。

嫡子たるそなたは元服したばかりとはいえ悪評ばかりで何の功もない。

嫡子というだけではもはや我が後継者とは成れぬだろう。


だが、信広に言い渡さねばならぬことがある。


「信広、此度のこと。

 全て信広が腹心らと考え采配し勝利したということにせよ。

 吉の話、出してはならぬぞ。

 意味は解るな?」

 

「…はっ。

 そのようにします。

 此度の事は直接吉に会い礼を言う時だけに」


「うむ。それでいい。

 儂は吉が女子として幸せになってほしいのだ。

 男子なれば話は違ったろうが…」

 

「吉が嫡男なれば、儂は喜んで仕えましたのに」


「だが、吉は姫故な。

 詮無きことよ。

 儂は明日から遠江の戦の後始末をする。

 農繁期も近い故、兵らは先に戻らせる。

 そなたも兵を率いて安祥に戻って構わぬ。

 帰りにはまた立ち寄るやも知れぬ」

 

「はっ、ではその様に致します」


「うむ。ではな」




戦後処理の前に、信広から戦の事を聞きました。

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