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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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閑話十三 織田信秀 出陣の時

信秀視点、出陣のシーンです





天文十七年三月 織田信秀



今年は今川が恐らく遠江を取り返しに来るであろうと予期し、そのための準備を進めておったが、儂の見立てより早く今川は二月には陣触れが出たと報せがあった。

三月早々には出てくるであろうから、後手に回るわけには行かぬ故、儂も直ちに陣触れを出した。

先ず間違いなく、太原雪斎が出て来るであろう。あの黒衣の宰相は些かも侮ることは許されぬ。

故にこの度は美濃との同盟がなったこともあり、尾張には五千ほどの抑えの兵を残すのみで総力を挙げて出陣する腹づもりよ。



出陣に先立ち、守護様に出陣のお伺いを立てに清洲の守護館を訪ねた。

一種の儀式と化しておったこのお伺いは、先の吉と会見以来明らかに変わった。

以前はあからさまに傀儡扱いの大和守や奉行どもに見るからに侮られておったが、あの会見の後、威厳ある主君となられた。

吉は『君臨すれど統治せずでございます』と話をしたと言うが、ここまで変わられるのか…。

儂は守護様を奉じる立場の者、悪い言い方をすれば権威を利用する立場故、守護様の権威が高まることは寧ろ好ましい。

儂のように庶家の者なれば、特に権威を立て、権威を活用せねば人は動かぬ。


元々、儂は武衛様を侮ったことは無かった。幼年で守護を継いだ故、お飾りの守護ではあったが、よく世の中の見えておられる方だと常々思っておったのだ。

戦のことにせよ、領内のことにせよ、実に良く把握しておられる。

京の事情に至るまで、この清洲に居ながらにしてよく知っておられるのだ。

どことなく掴み所のない飄々とした所もあるが、その眼光は決して暗愚のそれではない。

案外、元々優れた御仁であったが、それを見せれば大和守らに殺される可能性もあった故、気弱なお飾り守護を演じて居られただけであったのやも。

それが、先の吉との会見を機に、偽りの仮面を脱いだだけなのかも知れぬ。


そんなことを考えておったら、守護様の到着を告げる声が掛かる。


「武衛様のお成りでございます」


此度は総力戦故、義弟でもある岩倉の守護代信安殿、そして清洲の守護代信友殿の両名も同席している。


三名、平伏して武衛様を迎える。


「大儀である。

 面を上げよ」

 

「「「ははっ」」」


「出陣の話であろう」


「はっ」


「申せ」


「然らば。

 前年、遠江の一部の奪還に成功したのはご報告の通りにござりまする」

 

「うむ」


「今川が奪還に来るであろう事は明白で、前年より準備をしておりましたが、すでに二月には陣触れがあり、今月には遠江に大軍で攻め寄せることは確実にござります」


「…続けよ」


「はっ。

 予想される今川の兵力は恐らく二万」

 

それを聞き、武衛様は目を見開く。


「指揮するは間違いなく、かの名高き太原雪斎殿、そして義元殿自身が出陣する可能性もありまする。

 万が一、遠江で敗れることがあれば、武田や北条はここぞとばかりに駿府を狙いましょう程に、故に負けられませぬ」

 

武衛様は生唾を飲み込むと話される。


「そうであろうな、して我らはどれ程の兵を用意していくのだ」


「はっ、美濃とは前年和議を果たし、同盟関係にござります。

 相手は蝮故信用なりませぬが、前年は散々に叩きましたので、何れにせよ動けぬ筈にござります。

 しかし、北伊勢の国人共が尾張を荒らさぬとも限りませぬ故、五千の兵を留めおきまする。

 我らは二万の兵を動員しまする。そして、三河より一万、遠江より五千の三万五千の兵にて、これに当たるつもりにござりまする」

 

武衛様の表情が緩む。


「三万五千か…。

 それは大軍であるな。

 …それであれば…。

 三郎殿、此度の出陣は我が武衛家、そして織田家の悲願である遠江の奪還はなるであろうか」


「相手は今川でござりまする故、遠江全土の奪還は約束できませぬ。

 しかし、今奪還しておる天竜川より西は守り通してみせまする。

 無論、二度と我らに手向かえぬ様、散々に叩く心積もりではおりまする」

 

武衛様は大きく頷かれる。


「うむ。それで良い。

 此度の戦、負けねば我らの勝ちである。

 今川が遠江で二度も負ければ、遠江の国人共は斯波の治世を思い出すであろう」

 

なんと、そこまで見ておられるのか…。


「ははっ」


「三郎殿、此度は余も出るとしよう

 なに、戦の邪魔はせぬ。吉田城辺りで、東三河や遠江の国人共の相手でもしていよう。

 三郎殿の手助けにもなるはずだ」


守護様ご出馬ともなれば、士気は大いに上がる。

三河や遠江の国人共は大いに奮うであろう。

しかし、これはますます無様な戦は出来ぬな…。


両守護代の反応を見ると、二人共頷いた。


「守護様のご出馬、誠に有難く。

 我ら懸命に励みまする」

 

「うむ。期待しておる」


「「「ははっ」」」


まさか、守護様御自らご出馬されるとは。

やはり、守護様は変わられた。





出陣式は去年までは那古野であったが、今年は守護様のご意向で清洲で行われることになった。

我が弾正忠家と両守護代の軍勢を前に、守護様御自ら訓示し、出陣の儀の音頭を取られる事となったのだ。

今年は、異例づくめであるな。


武衛様が自ら、将兵らを前によく通る声で訓示される。

そして、三献の儀の後、掛け声となる。


「えい」「おう」

「えい」「おう」

「えい」「おう」


「出陣じゃ!」


「「「「おう!」」」」


中々に見事なものだ。


尾張の軍勢は三河南部を通り、目指すは吉田城。

儂は途中安祥に寄り、信広と話し合わねば。



今までは書いてこなかった、出陣のシーンを書きました。

今回は、守護様出馬という特別なイベントでした。


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