第九十一話 土管の完成
頼んでた土管が完成しました。
『土管と陶器革命』
天文十七年三月上旬、以前土管を頼んでいた瀬戸の陶工の孫左衛門さんが訪ねてきました。
「姫様、先日頼まれておりました土管でございますが、一先ず形になりましたのでお持ちしました」
一緒に来た若い人たちが土管を並べます。
確かに頼んだ通りの物の様です。
ただ、私が見慣れていた茶色の土管ではなく、正に瀬戸物の色をした土管なのです。
しかし、厚みなど、要求仕様は満たしているように思います。
「孫左衛門さん、大儀でした。
確かに、私がお願いした物の様に見えます」
「姫様に教えて頂いた技法、あれは土管以外にも色々と応用が効きますな。
試しに皿や湯呑みなども木枠にはめて作ったのですが、簡単に大量に作れます。
とは言え、ろくろ独特の味わいがなくなってしまいますので、どれにでもという訳にはいきませんが、とにかく安くて数を揃えるのにはとても向いた技法に思います」
「そうでしたか、確かに皿など全て形が綺麗に同じであればこそ逆に映える物と言う物もあると思います。
更には、薬など入れるビンと蓋など精度がある程度要る物にも使えるでしょうね」
「はい、その通りにございます。
元々土管づくりに教えて頂いた技法ですが、工房の方ではどんな使い方があるのか、皆が色々と試している所にございますよ。
また、こちらの方も良きものが出来ましたら、お持ち致します。
では、土管ですな。
おい、お見せしろ」
「へい」
若い人たちが、目の前で土管を組んでみせます。
今回作ってきたのは五本。全部つなげるとそれなりの長さです。
「姫様、このような感じになります」
実際に、きっちりはまってるかどうか、動かしたりして見せてもらいます。
確かに、綺麗にはまってるようですね。
「綺麗につながりますね。
見事な出来です。
さて、では実際に水を通してみましょう」
屋敷の者に頼んで、桶と水を用意してもらいます。
桶に立てて、上から手桶で水を流し込んで貰います。
口が桶で塞がっていますので、水が土管にどんどん溜まっていきます。
しかし、流石にこのままだと水が滲んできますね。
パッキンというか何かで隙間を埋めないと駄目かもしれません。
でも、用途的にはこれで十分です。
後は、強度ですね。
「やはり、少し水が滲み出しますね」
「はい、流石に陶器の筒を繋いだだけでは水が滲みます。
この部分を何かで埋める必要がある様です」
「ええ、ですが先は兎も角、今回はこれで十分です。
あまりに水漏れが酷いのは駄目ですが、このくらいならば多分大丈夫だと思います」
「そうでございますか。
それはようございました」
「後は、強度です。
陶器ですから、割れないと言うことは無いと思いますが、用途に耐えられない場合は、改良が必要だと思います。
土とか、窯の熱とか」
「はい。姫様、よくご存知で。
流石、以前陶芸をやられただけありますな」
「うふふ。
そのときには新たな窯を作らねばなりませんから、また相談いたしましょう」
「はい。
ところで、この土管、どの様に使いますので?」
「これは、一先ずは農業で使うのですよ。
どの様に使うのか見たほうが今後土管を作るのに役立つかもしれませんので、実際に使う際に、見学に来ますか?」
孫左衛門さんの目が輝きます。
やはり、この人は私の仕事にずっと付き合ってきただけに、好奇心旺盛の人ですね。
「はい。是非に同行させてください」
「わかりました、では日にちが決まったら報せますので、また古渡に来てください」
「はい。承知しました。
では、お待ちしております」
そうして、孫左衛門さんは意気揚々と帰っていきました。
奥から千代女さんが出てきて、土管を興味深げに見ています。
「姫様、この筒はなんでしょうか」
「これは土管という土を焼いて作った筒ですよ」
「先ほど繋いで水を入れていましたが、水を通す筒なのですか?」
「そんな感じのものですよ。
これを繋ぐだけで、中に水を通して離れた場所に流すことが出来ます」
「それは便利ですね。
これがあれば、水を井戸や川で汲んで運ばなくて済みますか?」
「その様な使い方も出来ますよ」
「素晴らしい。
望月の里にもこのような物があれば」
「尾張の望月の里にならば、そのうちそういう物が付くかもしれませんね。
まだまだ先の話でしょうが」
「尾張の望月の里は随分人が増えましたが、甲賀の望月の里が最近心配なのです」
「中々見に行くことは叶いませんね。文でも出してみてはどうですか?」
「文ですか、そうですね。早速父上に近況伺いを出してみます」
そう言うと、千代女さんは奥にかけていきました。
いつか堺や京の都を見に行ってみたいものですね。
歴女としては、やはり実物を見てみたいのです。
一先ず土管は完成です、後は実際に使ってみてという事になります。
平成の世でもそうですが、こう云う配管系は使い手が豊富です。