第一話 戦国時代へ転生したでござる。
『序』
いわゆる歴女の私は総合商社に勤める営業である。
営業とはいえ、総合商社ともなると扱う商品に関して広い知識が要求されるのだ。
今日も仕事で製品展示会に説明役として参加するため、展示場近くのホテルに宿泊し展示会で出典する製品の資料を確認し、眠りについた。
夜中、ふと目が覚めると、辺りから大勢が足を踏み鳴らす音や、悲鳴やら叫び声が聞こえてくる。何かと思い外を見れば何やら明るくなっているような。
鼻をつく何かが焼けた臭いに入り口の方を見ると、既に煙が入り込んで来ていた。
運悪くスプリンクラーは作動していない。
急な出来事に頭がパニックに陥っているとたちまち煙に巻かれてしまい迂闊にも吸い込んでしまった。
激しく咳き込みそのうち意識が遠のいてくる。
まだ三十を少し過ぎたばかりなのに。
部下も出来て仕事もこれからなのに。
なんてことが頭を過ぎったが後の祭り。
視界が真っ暗になり死を感じそのまま意識を手放した。
『目覚め』
ふと目が覚める。
死んだと思ったら、どうやら助かったらしい。
しかし、そこは病室などではなく、照明もない和室。
更には、身体が縮んでる。
女では長身の部類だったノッポの身長がまるで子供のように。
自分の手を見ると、やはり子供の手だった。
半ば混乱して辺りをキョロキョロ見回していると、襖が開いた。
そして、古風ないでたちの女性が入ってきた。
死んだと思ったら過去に転生してしまったでござる…。
『戦国時代へようこそ』
目を覚ましてから集めた情報から推測すると、ここは那古野城で今は天文七年。
自分は織田弾正忠信秀が正室土田御前の初めての子で長女で既に四歳、名は吉というらしい。
あの織田信長の父の信秀の娘というのも驚きだが、私の記憶が正しければ、今生の母の最初の子は長男で吉法師では無かっただろうか。
そして、弟に嫡男の勘十郎が居るらしい。
この世界では信行が最初から嫡男…。
母たる土田御前は弟勘十郎につきっきりで、長女たる私は既に疎まれているらしく、ここに母が訪れることはない。
疎まれてる理由は、なんでも男子を期待されてたのに女だったかららしい。
それでか期待の嫡男である勘十郎は生まれながらに傅役が四人も付く期待のされようで既に勝幡城を与えられそこで母達と暮らしている。
私はというと、父信秀の住む屋敷で乳母と女中らしい女性たちと暮らしている。
はじめてみた父は三十前の所謂イケメンで、前世ならドキドキしたろう。
今は娘だけどな。
大きな手で抱き上げられて頬ずりされると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
閑話休題、信長の居ないこの世界、恐らく平行世界と言うやつなのだろう。
イケメン信秀の娘なのは良いが、平成の御代と違い、独立するまで親元で育ち、いずれ好きな相手と巡り会い結婚する。という当たり前だった常識がこの時代では通用しない。
前世では残念ながら行き遅れてしまった感のある私だが、それでも好きな相手と自由に付き合うことは出来た。
しかし、この時代では恋愛の自由など無く、早ければ小学校卒業のような歳で、政略結婚させられ嫁ぎ先に行かされてしまうのだ。
しかも、嫁ぎ先が敵になれば、運が良ければ離縁して送り返して貰えるが、悪くすると殺されてしまうのだ…。
それだけは絶対に避けなければ。
それに、身体が幼いまま子を産まされるのも勘弁だ。前世の知識から考えてもできれば二十歳、早くとも十八。十六歳以下とか犯罪だろうよ。
そう考えると、ある程度のワガママが効きそうな、父の家臣に嫁ぐのが一番マシな気がする。歳が近いというと丹羽長秀とか柴田勝家なんかだろうか。
彼らが妻に望むように仕向けなければ。
既に生き残るためのサバイバルは始まってるのだ。