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忘却の戦士  作者: カナメ
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武具調達

「さて、これで晴れてハンターの一員になれたわね」



「・・・なれたのか?あれで?」



いい仕事をしたと言わんばかりに、メルヘイムは満足気なご様子だが、正式な手続きを一つも踏んでないぞ。



「大丈夫、あたしが認めれば大概のことは問題なしだから」



「なら、なんでわざわざ協会に立ち寄ったんだ?」



「受付に貴方の顔だけでも覚えてもらわないと、これから先、色々と不便でしょう?あと、協会の場所も覚えてもらいたかったし。あたしは別に四六時中、ずっと貴方に付いて回るわけじゃないんだから」



「なるほど、確かに」



「とりあえず、これからの予定だけど、エルヴァース周辺を探索がてら、近辺にいる魔物を学びながら討伐するとしましょう。貴方がハンターとして独り立ちできるようになるまで、あたしが面倒みる約束だしね」



「・・・いいのか?支部長自らが、わざわざ新人を教育するなんて」



「あたしが後ろ盾になって推薦したんだから、それ位は、ね。それに貴方・・・魔物関連には特に疎そうだし。一応聞いておくわ。魔物について何か覚えてる、記憶喪失さん?」



それを指摘されると、言い返せない。

今の私は、魔物に関しては無知そのものなのだから。

だからここは、正直に返答する。



「いや、まったく。・・・荷馬車が襲撃された時はずっと隠れていたし、見たのは・・・事切れた魔物の死体くらいか」



「記憶を失う前の貴方が、魔物に遭遇していたなら、魔物と戦っていく間に思い出せるかもね。魔物と言っても一言では言い表せないくらい、多種多様に存在するから」



「そんなにか?」



「魔物も日々進化して、どんどん一つの種から派生しているのよ。新種の魔物を発見したら、それをハンター協会に報告するのも、ハンターとしての仕事よ。・・・ちなみに貴方たちを襲った魔物はベルルクという種類よ。あいつらは縄張り意識が強いから、多分だけど襲撃された理由はそれね。」



「・・・なるほど、覚えるべき事は山ほどありそうだな」



迂闊に奴らの縄張りに入ってしまった結果があれか。

つまりあそこに戻れば、奴らはまだ居る。

そういうこと、か。



「まあ、いきなり全てを覚えるなんて無理よ。あたしは大雑把に教えるから、細かいところは自分で追々、補完していって」



「・・・別にハンターだからといって、魔物を狩るだけが仕事じゃないだろ?」



「そうだけど、ハンターの仕事内容の大半が、危険地帯に足を踏み入れるわ。つまり、それだけ魔物との遭遇率も高いわけ。自然と、高い戦闘能力をもつ人材が求められるわ」



「魔物という存在は、避けては通れない問題・・・そういうことか」



協会支部では詳しく聞けなかったが、中々に死亡率の高そうな職種だな、ハンターというやつは。



「ハンターだけじゃないわ。この大陸に住む者にとって、魔物は常に日々関わってくる問題よ。農民しかり、商人しかり、兵士しかり、ね」



人々が生きていく過程で、まさに隣人のように存在しているわけか。

厄介な生き物だ。



「魔物そのものの根絶は不可能か?」



「今のところ、夢物語ね」



そう断言したメルヘイムが、ハンター協会から出て、歩き続けていた足を止める。



「ここで貴方の装備一式を調達するわよ」



ハンター協会の時と同様、行き先も知らぬままただ付いてきたが、どうやらここが、今回の目的地だったらしい。

私の目の前には、武具屋の看板を掲げた二階建ての建物があった。

店から視線をそらし、私は深刻な表情でメルヘイムを見つめて、とても大事なことを告げる。



「私は手持ちがないぞ」



だがそんな私の杞憂を、メルヘイムはあっさりと払拭する。



「あたしが貸してあげるわよ。武器にこだわりはある?」



「・・・わからない。多分、自分の手で触れば、何かしら感じるものがあるかもしれないが」



「ならそうしましょう。入るわよ」



「あ、ああ」



若干、気後れしつつも武具屋の中へと足を踏み入れれば、視界一面に広がる武器という武器。防具という防具。

店内に、所狭しと商品が陳列している光景は、まさに圧巻だ。



「・・・すごい品揃えだな」



一般的にポピュラーな剣はもちろん、槍、斧、弓・・・中には一見してどう使うかも分からない仕様の武器さえある。品揃え豊富な店だ。

武器だけではない、防具も全身甲冑から、動きやすそうな軽装まで一通り、揃っている。

もしやこの店、二階部分も商品で溢れているのか?

・・・てっきり住居スペースだと思っていたんだが。



「この都市には幾つもの武器屋、防具屋があるけど、ここは特に評判の良い店よ。わざわざ北地区や、西地区からも客が来るくらいだから。もちろん、都市の外からもね。・・・その分、値は張るけど」



「・・・良質な材料を使っているんだ、納得も出来る」



店内に置いてある武具、その全てが大量生産品ではなく、一品物だ。

これらを作成した鍛冶師のこだわり、信念じみたものが、こうして見ているだけでも伝わってくる。



「触ってもないのに分かるの?」



「ああ、なんでだろうな?自分でも分からないが・・・見ただけで、十二分にわかる。金属の材質からして、ただの鉄とは一線を画している。これは・・・なんだ?」



とある一本の剣に、無性に目が奪われる。

一見して銀のようにも見えるが、通常の銀とは違う。

普通、銀の剣といえば儀礼用だが、これは明らかに実用的だ。



「魔導銀ね」



「魔導・・・銀?」



当たり前だが、初めて聞く金属名だ。



「軽量かつ硬い金属よ。魔法との相性がいいのも利点ね。加工できるのは一流の鍛冶師に限られるけど」



「・・・なるほど」



魔法との相性と言われても、私にはサッパリだが、これが良い物であることは間違いないらしい。



「それにする?」



正直、その提案は非常に魅力的であった。

だが、断腸の思いで、それを拒否する。

この剣は、今の私にとっては宝の持ち腐れだとわかる。わかってしまうのだ。



「・・・・・・いや、今回はやめておこう。もっと私の身の丈に合う剣にしよう」



「別に遠慮なんかしなくてもいいわよ」



今だけは、メルヘイムの優しさが辛い。それとも、わかっていながら誘惑してるのか?

いいんだ、今回は諦めるんだ。

これは、今の私には過ぎた剣だ。



「どんな物であれ、自分で買った方が愛着も湧くし、大事に使うだろう?それに、実戦でちゃんと剣を使いこなせるかどうかも、今のところは分からないしな。使い捨てる事も視野に入れるなら、この魔導銀の剣は、私の手では持て余すことになる」



苦しい言い訳だが、半分は本音だ。

どうせ買うなら、私が自分で稼いだ金で買う。・・・いつ買えるようになるかは不明だが。



「・・・そう。そこまで考えてのことなら、これ以上は余計なお節介になるわね。なら別の商品を探しましょう」



「ありがとう」



そういうわけで、無難に鋼鉄製の片手剣を一本と、剣帯一式を、メルヘイムの私費で購入してもらった。

ついでに今現在、私が装備している皮の装備一式がメルヘイムには不評で、特殊な加工を施された、足元まである長い外套がいとうも購入し、半ば強引に押し付けられた。

「これで少しはマシな外見になったわね」と、メルヘイムはご満悦だ。

メルヘイムいわく、体格のいい男が皮の装備一式では、隣を歩くあたしが恥ずかしい・・・との事。

どうにも、私の格好はエルヴァースという大都会では浮いていたようだ。

まあ、傭兵たちの死体から無断拝借した物だから、センスどうこう以前の問題だが。そもそも、これ以外の選択肢は、血まみれの布切れだけだったしな。

しかし、まあ・・・結局は随分と高い買い物になってしまった。

個人的には剣一本で充分だったんだが・・・押し付けられた外套の値が、かなり法外だった。

メルヘイムは、返すのは剣の代金だけでいいと言っていたが、私個人が使う物だ。はいそうですかと素直に受け取れない。金額も金額だしな。

いずれはきちんと返さなくては。

装備一式の総額は・・・・・・うん、とてつもない。

私が奴隷として買い取られた金額の何倍だ?いや、何十倍か?

完全返済するのに、何年かかるんだろう、これ。

お金、大事。





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