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忘却の戦士  作者: カナメ
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流されるままに

壇上から降ろされた私は、言われるがままに歩かされ、商品として奴隷商人から買い取り先へと引き渡された。

新たな主となる、中年の男。

・・・特に特徴らしい特徴はない。強いて言うなら頭に巻いてる赤いターバンくらいのものだ。

さて、この主は私をどう扱うのだろうか?



「俺がこれからお前さんの新しい主だ。少々、お前さんは値が張ったが丈夫そうな肉体だし、元はとれるだろう。頼むぞ」



・・・良いとも、悪いとも判断できない。

期待しているようで、しかし私個人の人格には欠片も興味がないという事は、何となく察した。

話が一方的に終わったのが、その証拠。

私の受け答えなど、どうでもいい。牛馬のように丈夫であれば、奴隷の人格など、気にも留めない。

そういう事なのだろう。珍しくはない。

こうして私は、銀貨300枚で引き取られ、主と共に奴隷会場を後にする。

これからどこに連れて行かれるのだろうか?

主の足取りに迷いは微塵もなし。目的地が決まっているのは明白。

私はただただ離れないように付いて歩くのみ。



「戻ったぞ」



会場から少し離れた場所にある、馬車の停車場。

ここでようやく気付く。どうやら私を買い取った主は、資金が豊富な持ち主のようだ。

主が声を掛けた先には護衛と思われる数名の傭兵たちが居たし、この周辺が自分達の縄張りだと言わんばかりに、大きい荷台付きの馬車を囲んでいたからだ。馬車の持ち主は・・・考えるまでもない。

そして荷台の中を見て、私は結構・・・いや、かなり驚いた。

荷台の中には、私と同じ身分であろう、屈強な労働奴隷が十人ほど乗車していたからだ。

私一人でも銀貨300枚の値打ちだ。これら全員を同じ価値と査定すれば・・・・・・恐ろしい。

まあ、銀貨1枚がどれほどの価値があるか、私は知らないのだが、人間一人がそう安く売買される事はあるまい。



「おい、新入り。荷台に乗れ。どこか適当に空いてる所にでも座っておけ」



主に促され、空いていた荷台の隅に座る。そして荷台の中をチラリと一瞬で見渡す。

皆が皆、体格の良い男ばかり。どう見ても肉体労働の為に買い集められた人選内容。

・・・連れて行かれる先は鉱山か?

はたまた広大な荒地か?

どちらにしても、厳しい未来が待っていそうだ。

そしてどうやら、買い集められた奴隷は私を含め、寡黙な人物ばかりのようだ。誰一人、一言も口を開かない。ただ、静かに黙して、自分のこれからの未来を悲観したり、楽観しているのだろう。今の私のように。



「旦那、もう今回の分はこれで終わりかい?」



チラッと声がした方に視線を向ける。

主の元に、傭兵たちの頭と思われる男が、気だるそうに話しかけている。



「ああ、今回はここまでだ。ちょいとばかり予定より出費がかさんでな。これ以上の奴隷買い付けは無理そうだ。当初の予定だとあと二人ばかり欲しいところだが、まあ仕方あるまい」



「そうですかい。・・・そのわりには機嫌が良さそうで」



「わかるか?まあ、どの奴隷も健康で丈夫そうだし、赤字にはならないと自負している」



「赤字にならないようで何より。おれも部下を食わせなきゃならないんで、雇い主の懐事情が寂しいと辛い



「ふん、お前さんは相変わらず、歯に衣着せぬ物言いだな」



「性分なもので」



・・・何と言うべきか、互いに信頼など全く感じさせない、ビジネスライクな関係性が、あの短時間で垣間見えたやり取りだったな。

いや、それとも・・・遠慮がいらない関係性なだけか?良くわからない雰囲気だ。



「なら、早速帰りますか?旦那の故郷へ」



「ああ、そちらの準備は?」



「既に終わってますよ。あとは旦那の許可があればいつでも出発可能ですよ」



「ほう、今回は随分と手際がいいな。前回は・・・」



「ええ、前回はこちら側の不手際で、出発が遅れたんで。だから流石に今回もは不味いでしょうよ」



「良い心がけだ。今回もそちらの不手際で出発が遅れたら、報酬を何割か削ろうと思ってたからな」



「うへえ、勘弁して下さいよ!」



傭兵頭が心の底から嫌そうに叫ぶ。

その様子に、部下である傭兵たちも思わず苦笑いしている。



「時は金なり、だ。さあ、いつまでも無駄話をしている暇はない。出発するぞ。しっかり報酬分の警護をしてくれ」



「あいよ、お任せあれ。お前ら、出発だ!!」



傭兵頭の号令のもと、傭兵十五人ほどが馬車の前後に散らばっていく。

しばらくして街の出入り口である門で通行料と税を支払い、馬車は城壁の外へと出た。

その直後に、傭兵たちは馬車の全周囲を囲むように散開していく。

傭兵頭以外は徒歩の為、馬車の速度は非常にゆっくりだ。

・・・なるほど、だから傭兵頭以外は全員が軽装なのか。武器もかさばる槍や斧ではなく、短剣が目立つ。戦闘そのものより、移動を重視しているのだろう。

そのコンセプトはいかに疲労を抑えるか。それに尽きる。

傭兵にしては規律もとれているようだし、意外にあの気だるそうな傭兵頭は、優秀な指揮官かもしれない。



・・・・・・傭兵にしては?

なぜ、私がそんな風に感じた?

記憶のない私が。

・・・以前は傭兵として働いていた?

それとも、それに関わる仕事を?

・・・・・・・・・駄目だ。いくら思い出そうとしても、何もわからない。

私はいったい何者なんだ?










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