プロローグ
何故、自分は今ここにいるのだろうか?
訳もわからず、目の前に広がる光景に、私はただただ戸惑うばかりだ。
声高に「130!」「150!」と数字を叫ぶ中年の男達。それらを嬉々として煽るように、数字をつり上げていく、進行役であろう司会者の胡散臭い笑顔の男。
手枷、足枷された私は、ただ見ていることしか出来ない、一連の流れ。
・・・どうやら、私は奴隷として競売にかけられているようだ。
その経緯を、私が全く覚えていない事が、とても不安だった。
犯罪を犯した?誰かに騙された?奴隷狩りに捕まった?
・・・・・・どれも実感がわかない。
だが事実、私はここにいる。商品の一つとして。
そんな困惑する私を、しかし誰も気にも留めない。時間は無慈悲に流れ、買い手も徐々に限られてきた。
「300!!」
一際大きな声がまるで合図だったかのように、静まりかえる会場。
進行役の男が、満足したように頷きながら
「では、こちらの労働奴隷はそちらの赤いターバンのお客様が300で落札!おめでとうございます!」
めでたい?
本当に?
・・・いや、あの男にとっては、それが本心からの祝福の言葉なのだろう。
私を競り落とした客も、いい買い物が出来たと満足気だ。
ここでは例え同じ人間という種族でも、奴隷になれば物として扱われる。
ならば、それで正しいのだろう。少なくとも、この場所では。
「さて、続いての商品は・・・」
流れ作業のように、進行役の男が次の商品・・・もとい奴隷紹介が淡々と続行。私はもはや過去の商品。無事に売れた物。あとは買い取り先の客に引き取られて、永遠の別れ。もう会うこともない。
・・・きっとこの先、私を買い取った男は元をとるために、私を家畜のように使いつぶす気だろう。
それは避けようのない未来だ。
だが・・・寝床もあり、食事も少なからず与えられるなら、飢えや寒さで死ぬよりはマシな未来だろう。
幾つもの雑音、ねばつくような熱気の中、私はそういう結論に行き着く。
しかし・・・やはりわからない。
先ほどから何度も思い出そうとしてるが・・・・・・何故、私は奴隷になったんだ?
それ以前に・・・私は誰だ?