第6話 たかが一匹でも、されど一匹
「なん、何なんだよ。これッ!」
「ぅんー~~巨大な手だねー」
驚く俺を他所におじさんも、にこやかに俺でも分かることを言う。だから、俺もおじさんに言い返してしまうのは当たり前じゃないだろうか。
「っそ、そこじゃねぇよっ!」
苛立って言い返す俺に、本当におじさんは飄々と、笑いながら受け答えをするんだ。それが余計に癪に触れてしまうのは、誰だって同じじゃないのか。
「そうだねーくまちゃん」
「くまちゃんじゃない! てか、化け物はどうすんの??」
俺と同じで、この状況に陥ってしまったはずのおじさんなのに、年季の差なのか慌てる様子も、全くないから――恐ろしいとも思った。
「くまちゃん。退治も仕事なんだよ」
おじさんが両手の人差し指を俺へと差した。
「はぁ?? っな、なんだよ。それぇ」
「まぁーまぁー取りあえず。先輩従業員を見届けましょう♪」
「ぁ、うん」
視線を掴まった船橋さんへと向けた。腕の先をゆっくりと俺は見上げてみたんだ、そうするとどうだよ、信じられねぇよ。
「?! な、ない‼ っか、身体がっっ‼」
薄暗い空間に浮かび上がって、船橋さんを掴む腕だけの存在だったから。
「『ぃ、ったぁあ゛ああぃ゛いい゛ッッ‼』」
「『萌るッッ‼』」
あべこさんが飛び上がって剣を振りかざした。
斬ッッ!
斬斬ッッ‼
斬られた箇所からは緑色の血のようなものが。だくだくと床へと零れ出していた。硫黄のような、糞のような臭さに鼻を摘まんだ。
「おおう! すっげー~~‼」
あべこさんの攻撃に、俺も拳を強く握り締めた。
「すっげぇ~~‼」
俺も喜々としてあべこさんの攻撃に、荒く息巻いていた。なのに、横にいるおじさんはどうだよ。しかめっ面に、口をへの字にさせているじゃないか。
「何? 何か気に入らないのかよ? この展開は圧勝じゃんか!」
「うん。だと、いいねー」
腕を組みながら俺と同じものを見上げるおじさんの顔は険しいもので、重々しい空気を放っていて、横にいる俺も、心臓がバクバクだよ。
「『っく! 何よッッ‼ これは‼』」
「『あべこ隊長。参戦してもいいのかしら?』」
「『エイジ! いちいち確認する必要なんかない! 許可する!』」
「『あっざー~~す♪』」
口の悪いエルフの格好をした杵塚さんが。
矢を一本放った。
「一本?! そんなんじゃあ足りないでしょう‼」
俺はその攻撃に声を出してしまう。
だが、次の瞬間。
一本の矢が。
枝分かれをしていくと。
数百もの矢へと変貌を遂げた。
「『おいらの矢で一網打尽だかんね‼』」
そして、その矢はまたしても。
一本の、巨大な光りの矢へと変わった。
「『エイジちゃん? 人質のことをお忘れでないですかっと!』」
スライム状の本間さんが大きく身体を伸ばしに伸ばして。
船橋さんを包み込もうとしたが。
「『のァ゛っっ‼ 本当になんなんだよ! この化け物はッッ‼』」
【18:09:38】
船橋さんに纏えなかった本間さんの顔が。
苦笑交じりに変わった。
「『くっそたれがッッ‼』」
次いで、歯を剥き出しに吠えていた。
「『しょうがいないですね。一丁、やってみましょかッッ‼』」
牌さんの兎が見る見ると大きくなっていくと。
杵塚さんの放った矢を上へと弾き飛ばした。
「『っちょ! 牌っくぅー~~んッッ?!』」
思いもしない牌さんの行動に杵塚さんも肩を落としてしまう。でも、それはそれでやった方がよかったんじゃないのかな。当たっていたりしたら。船橋さんは死んでいただろうし。
「待ってくれよ――てか。全員の人、太刀打ちが出来てない、じゃんか」