表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/169

第3話 悪魔の誘惑が

 【32:41:20】


「『あべこ隊長。このままだと、大変なのです!』」


 首から時計をぶら下げた猿が、宙へと跳ねて鎧を纏った君島さんに言う。喋った猿は、船橋さんの《作業服(バックアップ)》だ。意味が分かんないだろうけどさ。

 正直なところ言ってしまうと。大して説明をされていない俺を――察して欲しい。

 

 ◇◆


『我妻さん。すっごい数の従業員だな』


 俺達が社内車から見下ろした。

 ベルトコンベヤーの上を乗せられた商品を、従業員が一心不乱に確認をして下ろしていく。

 それをトラックへと積み込んでいく。機械にように次から次へと。


『ほへぇー~~すっげぇー~こんななんだなー倉庫(ここ)は初めて見たわ』


 おじさんはそう楽観的に言うけどさ。

『ぅん。スゴイデスネ』

 の時点で何も言えないんだから、しょうがないと思って欲しい。


 この従業員の中で働かさせられるのか。

 息が詰まりそうな倉庫の中で。


『リハビリだと思えばいいよ。くまちゃんには未来があるんだからさ』


 叔父さんが俺の肩に腕を回した。

 口調は優しく囁くかのようだ。


『そうすりゃあいつの日か。弟とだっていつかは和解も可能だろうよ』


 親父に拒否られて親子の縁を切られた。怒らせたのは俺だ。揺るぎない現実である。


『――……叔父さん』

『ん?! 何かな!』


『そのぉう。他の職場がいいな~~なんて、はは、は』


 俺がそう抗議をしたら肩から腕が離れた。顔は渋いもので、眉間に指を置いてしまう。叔父さんの顔に俺も、確かに文句が言える立場なんかじゃないのは分かってるけど。


『ぉ、おじさんだってっっ。こんなところで働くなんか嫌でしょっっ?!』


 俺はおじさんに助けてもらいたくなって。

 同意が欲しくで言った。


『え。おじさんは別に平気だけどー?』


 はぐらかすかのような、満面の笑顔でおじさんが応えた。すっごく、良い笑顔だよ。このおじさん。そして白鳥型の社内車から降りて、腕を大きく宙へと仰いだ。伸び伸び、とするおじさんを俺は睨んでしまう。少しくらい察してくれたっていいんじゃないのか。


『今は、荷受けぐらいしかさせらんないぞ!』


 腕を組みながら叔父さんが言う。確かに、それはあるな。だって、俺は働いた経験がないし、他の人と会話をしたこともない。今日も、久しぶりの会話で頬が引きつっているし。


『そぅですよねぇ』


『吾妻さん。その荷受けの仕事ってのさー』


 おじさんの言葉に、叔父さんも無言で、白鳥型のお尻を開けた。俺も叔父さんの後ろ姿と、中を様子を伺うように見て見た。


『今日からだよ! さぁ! 着替えろよ、社蓄達っっ!』


 よくテレビとかの特集で見る、一般的なつなぎの作業着を2着。俺たちへと投げ放たれた。

 用意周到な叔父さんに、

『準備がいいんですねぇ』

 俺も、もう乾いた笑いしか浮かばないよ。


 ◆◇


「時間がないってんならーお嬢ちゃん、一時退却ってもどうだい?」


 おじさんが君島さんに声をかけた。

 そうだ! 退却をしょうよ!

 ガッシャン! と銀の鎧を鳴らして。


「『そんな真似なんか出来ないわよ! あんた! 仕事を何だって思っているのよ!』」


 正論を吐く君島さんにおじさんも、降伏とばかりに両手を胸の前に出した。

「すいませんでしたー隊長さん」

 また、笑顔で肩をすくめるおじさん。この人は笑ってばっかりで、頭がおかしいとさえ思ってしまう。


「『あんた達、新人のせいでもあるのよ?! 自覚はあるの??』」


 兜の前を開けて素顔を見せて言う君島さん。

 おじさんも、俺も頷いた。


 確かに、ここまで来るまでに。何か、色々な何かが立ちはだかって。俺とおじさんを標的として何回も襲われた。尋常もないくらいにだ。その度に隊も止まってしまった。


「『なら! 邪魔をしないで頂戴! これは仕事なの‼』」


 ガッシャン! と前を閉じた。

 

 完全なる社蓄の言い分だし。完全なる使命感に圧倒されてしまった。 正直、引いてしまうのは俺だけだろうか。

 俺は前に立っていたおじさんを見たら、

「なんか勇ましくて。惚れちゃいそうーおじさんねーああいう、気が強そうな女性は堪らなく大好きなんだよねー」

 背中で、俺におじさんが言うもんだから。


「歳を考えてくんないかな?! おじさん!」


 ◇◆


『あれれー~~恵比寿君! ぅおおー~~い! 恵比寿君‼』


 下の方から、叔父さんを呼ぶ声が聞えた。その声に叔父さんの身体が大きく揺れて口許もひきついていた。首を捻る俺を見て。

『ああ~~……さて。この日本支部の重役がお呼びだ! (よわ)ったなァ~~』

 叔父さんが苦笑した。社内車に乗り直して下りて行くと。呼んだ男が前に飛び出して来た。社内車も緊急停車をして難を逃れた。

 バンバンと白鳥の顔を叩く――おっさん。


『堤班長(さん)。危ないじゃないですか!』


『大丈夫でしょ。君の腕は私も認めているところだからね』

『ですが。心臓に悪いので勘弁をして下さい!』

 大きく息を吐いておっさんに言う叔父さん。

『それで? その子は。次の従業員(コマンドランナー)かい?』

 おっさんが、俺とおじさんの顔を交互に見た。

『はい。若いのが私の甥っ子の恵比寿たくま。こっちの歳を――』


『うん。そっちはいいよ』

『そうですね』

『よろしくね。たくま君w』


 俺の名前を聞いて。おっさんはおじさんの名前を華麗にスルーしやがった。それでも、お前は叔父さんの上司なのか、きちんと聞け。


『おい、聞けよ。おじさんの名前も聞けよっ』


『くまちゃん。いいって。おじさんは気にしてないんだからさー』

『俺が気にすんだよ!』

『まぁーまぁーいいから、いいからw』

 

 俺はおっさんを睨みつけてやった。

 するとだ。

『おじさんの名前は? お聞きしましょう』

 目を細めておっさんが言った。


『はははーオレは群青竜二だw』


 眠そうな垂れ目で右目の下にはほくろ。顔は小さく、その倍で髪の量。

 薄い口許に鼻ヒゲが特徴的なおっさん。


 ◆◇


『お金好き?』


 ↑ おっさんとの初めて会話がこれだ。

 これが(トラップ)だとは知らなかったんだよ。


「っくっそー~~っっ!」


 ふつふつ、とおっさんの顔が頭に浮かび上がって。

 俺は唇を噛み締めた。


「まぁーまぁーどうせ社蓄になるならーこういったワクワクもいいよねー」


「ワクワクなんかしないし! おじさんは馬鹿なの?!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ