第13話 犬を飼う
車内の中には、重い空気が漂っていた。おじさんの身体は俺に寄っかっかっていたんだけど。車の動きに膝の上に落ちてきていた。まだ、おじさんの意識も戻らない。
「ぅ……ううう~~きり、ちゃ……んンんっっ」
「おじさん」
どんだけの馬鹿力で吹っ飛ばされたんだろう。いや、元々のHPが尽きかけていたんだ。それを隠してたんだ、見せたくなかったんだ。だっておじさんは、君島さんや他の従業員の人達よりも経験値があって。年齢だって一回りも違うんだから、見せたくないものだってあるんじゃないのか。
「恵比寿、たくま君――だっけ」
「! っふぁ、ふぁい!」
「竜二の《変態》はどうだった。きちんと出来ていた?」
「! 立派なゴリラでした!」
「そっか。よかった」
ぎしっ! とキリちゃんさんが助手席に身体を預けた。
運転をするのはおっさんだ。
「君は倉庫に戻りなよ」
冷淡な言葉が俺に突き刺さった。やっぱりだ。おじさんがブランクがあっても《経験者》で。俺がズブのペーペーだからなのか。
「――おじさんの名前を聞かなかったのは……業とだったの」
「まぁ~~ねェ」
素っ気なく吐き捨てるおっさんに、俺はこう何て言うか。胸が、胃が堪らなく痛くなった。叔父さんの統括する倉庫の作業に戻れるのなら喜んで戻ったさ。10分前までならさ。
でも、今の俺は違うんだ。違うんだよ。
「おじさんと一緒に働きたい、です」
誰かに必要にされたいとかじゃない。おじさんの横で仕事のイロハを学んで。
社会復帰をしたいだけなんだ。
そしたらきっと。
親父だって喜んでくれる。
そしてさ、一緒にご飯を食べて笑い合えるに違いない。
「お願いだから。倉庫に戻れだなんて言わないで下さい」
「どうします。堤室長。俺は彼を――竜二のGPSとしてボイスレコーダーとして飼ってもいいとは思いますが。平たくいうと――《犬》ですね」
キリちゃんさんがおっさんに聞いた。俺の心臓も高鳴ってしまう。返事が怖いし、バックミラー越しに視線が合うんだもん。
「ワンワンかァー私さァ~~猫派だよォー」
本当に嫌そうな顔で言うな。このおっさんは。
「って……たったったぁーたくまと一緒じゃなきゃ。オレは働かないよ」
おじさんが、膝から身体を起こして頭を押さえた。
「ってかっさー~~‼ あんまり何じゃないのーキリちゃー~~ん?? いっきなしさー回し蹴りとかさー信じられないんですけど! おじさん、久しぶりの仕事で疲れたのに! 本当に酷いー~~ッッ!」
そしてキリちゃんさんに吠えた。
「がたがた言ってんじゃねェよッ!」
ドスの効いた声でキリちゃんさんが吐き捨てた。
そして、頭を掻いた。
「詳しくは、あんたの家で話そうじゃないの」
家があるのか、流石は元従業員だ。
でもさ、20年も空いたら普通はなくならないかな。
「えーもう解約されたのかと思ってたー家なんかさぁー」
「社長に許可の得ての継続契約更新をしていたからな。それも、三日後には解約されるところだったから、間に合ってよかった」
キリちゃんさんが優しく笑う横顔が見えた。本当に顔は女のように可愛い。
でも、すっごく怖い人なことには変わりはない。
「全部、20年前のままだ」
それでも。
彼はおじさんの良き理解者なのは変わりがない。
だから、俺は《犬》にだってなるさ。
おじさんの横で相棒としてなら喜んで。




