表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/169

第115話 夫婦

(流石にぃ。あそこにはいられねぇもんなぁ)


 意気揚々と足を走らせる翡翠。

 ほんの少しだけ。

 残して来てしまった、たくまのことを思うも。

 やはり、わが身が可愛い。


「たくま君。ワリィな」


「悪いと思うのなら。どうして、出て来たんです?」

「!? ……――ぅお!」

「なんですか。その驚いた表情は」


 よりにもよって。よりにもよってである。

 

「っな゛! ……あのぅ。息子さん、あっちですよぉう?」


「はい? だから、なんですか? あなたとお話しがしたかったんです」


 あろうことか。

 翡翠の妻でもある――彼女が。

 一緒に喫茶店から出て来て、ついて来てしまったのだ。


(っひぃいい!)


 ◆


「? 母さん。(いつの間にか)いないな」


 そう竜馬君が、ひょっこりと顔を出して。

 息子の翡翠さんの横にいた、おばさんのいた席を見た。

「帰ちゃったみたいだよ? でも」

 ニヤニヤと、息子の翡翠さんがストローに口をつけた。


「しばらく、家には帰らないと思うけど、さ♪」

 

「? じゃあ、俺はこれ以上付き合うつもりもない(来たのが間違いだった)驕りだったよな。ご馳走様でした」


 深々とお辞儀をすると、竜馬君が席を外れ。

 喫茶店から出て行った。


 残ったのは。

 俺と息子の翡翠さんの、2人きりだ。

 気まずいというか。うん、気まずい。


「ぇえっと……じゃあ、この辺で――」


「どこまで知ってんの? あンた」

「っへ??」

 にこやかに言われているのに、目が笑ってなんかいない。

 これは本当に、翡翠さんにそっくりだ。


「返答次第じゃさぁ? 俺ァ、あンたを――始末しなきゃなんねぇのよ」


 ひくっ、俺は口許がヒクついてしまう。

 

「……始末なんか。される覚えなんかないんですけどぉ? 息子の翡翠ミドリさん」

「いい目つきだな。なんか、いいねぇ♪ あンたw」

 肩を竦めて息子の翡翠さんも笑った。

「俺は全部知ってる。お前は――竜馬君の母親違いの兄さんだ」

 俺のことを、真っ直ぐに見据える息子の翡翠さん。


「あー~~! たくまっ!」


「!?」


 突然、俺の名前が叫ばれた。

 その声は、堪らなく懐かしいものだ。

 思わず。

 俺も席から立ち上がって辺りを見渡した。


「! おじさんっ――と、誰??」


 肩車をされたおじさんと、その肩車をする人物。

 どこか、誰かに似ている。

 首を捻る俺に、

「あの人は――群青竜典さんだ」

 強張った声で、息子の翡翠さんが教えてくれた。


「やぁ! やぁ! あんれぇ~~? お兄さんはどこだい??」


 ついでに、息子の翡翠さんの元凶の父親が。

 のこのことやって来た。


「私の愛するお兄さん、っわ!」


 ◆


「あたしの主人は。あなたのようにあたしと会うと赤面になります。色素の薄い肌に、色素の薄い髪。すらりと伸びた手足と。口許の髭がキュートなんです」


 びくっ。


 びくびくびっく‼


 横にいる翡翠の身体が、ビクビクと揺れる。


「っそ、そぉデスカ……」

「ねぇ? あなた?」

「‼」

「誰の許可を得て――剃ったのかしら? キュートな髭をっ」


 だくだく。


 だくだくだくだくだく――……


 これには、もう翡翠も観念する他なく。

 陥落してしまう。


「ぅっせぇよ。オイラがどうしょうと、手前にゃあ関係ねぇだろぉうがっ」


 見開いていた目を、元に戻し。

 口をへの字にさせる翡翠。


「髭がない顔を見るのは、お見合いのとき以来で新鮮ね」 

「ああ。そぉだな」

 首を掻く翡翠に、

「ええ。なのに、剃るだなんて。あり得ないじゃないの!」

 翡翠と腕を組み歩く蓮。


「っひ! っは、離れてくれっ! っそ、そんなにっ! くっつかれたらっっっっ‼」


「鼻血が出ますか? 本当にあなたは、女性に免疫がない。だから、竜馬を授かるのも、遅れたんですよ?」

「っわ、分かっててやるたぁ。性悪になっちまったもんだなァ? 蓮さんっ」

 腕をバタつかせる翡翠だが。

(? あれ、鼻……平気だな? なんでだ????)

 鼻先に、いつもの違和感がない。


「その首の。誰に噛まれました? あの青年ですか?」


「ああ。あんの、ド変態野郎が噛みやがったんだっ!」

「そのセイですね。蛇苺は噛まれた相手と、番になるんですから」

「へ?」

「異性同士で、効果があるとは思えませんが」

「ぇ?」


「そんなことよりも。息子と対面して、どうでした? 初めて話したんじゃないですか?」


 唐突のない連の言葉に。

 翡翠の顔が、さらに真っ赤に染まった。

 そして、ゆっくりと顔を頷かせた。


「あと。初任務、お疲れ様でした。あなた♪」

「! ぁあ……おう」

「ただ。無茶をしましたね、目が痛々しいわね」

 蓮が腕を伸ばして、翡翠の目じりに触れた。

「すっげぇ。痛てぇよ」

 その手を掴むと、翡翠さんが頬ずりをした。


「初任務を……能力を使うと。性的興奮が増すといいますよね、群青の一族は」


「!?」


 翡翠の目が見開くと、目を泳がせた。

 確かに、身体の熱が収まらないのだ。

 しかも、蓮に会ったことで拍車もかかっている。


「ああ。勃起ムラムラしてるぜ」


「じゃあ。この機会に、竜馬に妹か弟を作りませんか?」


 満面の笑顔を向ける蓮の眩しさに。

 翡翠の喉が鳴ってしまう。


 眩暈も起こってしまう。


 だから。


「ああ。いいぜぇ♡」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ