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神秘主義者

作者: 神林 醍醐郎


悩みを抱える男がいた。


彼は、ある神秘主義者の元へと赴き、悩みを告げ、救いの道を求めた。


神秘主義者は男に、悩みの元となっているものが何か訊ねた。


男は、それが何であるか答えた。


すると、神秘主義者は、それから離れることで救いは得られると答えた。


男は驚き、それから離れては喜びを得られなくなると反論した。


神秘主義者はこう言った。



「喜びと苦しみは、表裏一体。


 喜びが欲しければ、苦しみを受け入れなさい。


 苦しむのが嫌ならば、喜びを捨てなさい」



「喜びを捨てて、一体何が残るのですか。


 何の為に生きるのですか」



男が訊ねると、神秘主義者はこう答えた。



「喜びと苦しみを捨て去ったところには、平穏がある。


 心の安らぎがある。  


 貴方が平穏を求めるものならば、喜びを捨てなさい。


 乾くから、水が喜びとなるのであり、


 寒いから、火が喜びとなるのであり、


 飢えるから、食が喜びとなるのであり、


 疲れるから、眠りが喜びとなるのである。


 苦しみを埋めることが、喜びなのだ。


 喜びとは、美しい衣装を纏った悪魔だ。


 それは善きものを装いながら、実のところ、人の苦しみの種となっている。


 食を喜ぶな。


 酒を喜ぶな。


 女を喜ぶな。


 儲けを喜ぶな。


 賞賛を喜ぶな。


 それらは着飾った悪魔で、気を許した途端に、背後から刺す。


 悪魔と踊りたいのなら、踊りなさい。


 多くの人はそうしてきたし、これからもそうしていくだろう。


 この世が地獄であると気づかずに、悪魔と踊り続けるだろう。


 地獄の業火で焼かれているとも、最果ての氷河で凍えているとも気づかず。


 悪魔と踊るのに飽き飽きしたか、その虚しさに気づいたのなら、


 喜びを捨て去りなさい。


 その時、貴方に平穏が訪れる」



悩める男は、その平穏は、死と何が違うのですかと訊ねた。


神秘主義者は、微笑むばかりで、それ以上を語らなかった。



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