魔法の電池
コウヤが、テスターの制作に取り掛かってる時の事である。
セルシウスは、トーマスさんに電球の進歩状況を聞く為、鍛冶屋に向かう。
鍛冶屋に入るとエリンは、店番をしており、トーマスは、武器の発注があったのだろうか、鍛冶場で武器を打っている。
「エリンおはようございます、トーマスさんは、今お忙しいのですか?」
「お父さん?今は、手が離せないと思うよ。もうちょっとで終わると思うから2階で待ってなよ」
たしかに今のトーマスに話しかけても邪魔なだけだろう……
「電球の進歩状況を聞きにきたのですが……城にも用事があるので、そっちから先に行ってきますね」
エリンは、暇そうに椅子を動かして、項垂れる。
「えー楽しそうだなぁ……私も一緒に行っていい?」
「構わないですけど……店番どうするのです?いいのですか?」
「いいの!いいの!どうせ、こんな時間にお客なんてめったにこないし……魔法の電池でしょ?!私も見たい見たい!」
エリンは、電池を見た事が無いので、知る由も無いが、電気が出せる便利な物ぐらいしか知らない。エリンは、作業着から着替え、セルシウスが表で待っている場所まで急ぐ。
「本当に魔法で発電機なんて出来るのでしょうか?……まだ蒸気機関で制作した方が良かったような……」
「蒸気機関?何それ?そんなに難しいの?」
エリンは、鍛冶の事以外完全に興味が無い様だ……家の事も、トーマスが食事、掃除、洗濯、全てやる。エリンの母親は、エリンが3歳の時に病死しているのでほとんど覚えていない。しかし持前の明るさと逞しさで、エリンは、元気な少女に成長した。
「難しい……のでしょうね……最初から作るとなると……」
コウヤの世界では、既に蒸気機関で電気を発生させる事など過去に存在した技術でしかない。既にあちらの世界では、火力、水力、原子力、太陽光発電等、進歩した技術があるのだ。電気の発生効率が悪い蒸気機関を使う理由がない。
「うーんまあヨークさんから聞いてみようよ!悩むのは、その後でいいじゃない!」
エリンは、明るくセルシウスを元気付けた。
「そうですね、まずはどうなっているか聞きに行きましょう。」
セルシウスとエリンは、ヘルズ城へ向かい、門番にヨークに会いたい事を伝えしばらく待ってから、ヨークのいる部屋まで、案内される。
「お久しぶりです、ヨークさん元気そうで良かったです。」
「セルル殿とエリン殿!いやぁお久しぶりですなぁ!コウヤ殿は、居ないのですか?」
白熱電球と発電機をヨークに説明し一番の主役のはずのコウヤがいない事を不思議に思う。
「ちょっと……働きすぎて倒れてしまい宿で養生してるのです……今は、電気の計測器を製作してるはずです」
「何!倒れてしまったのですか?!それは……お気の毒です。どうかゆっくり養生してくださいとお伝えください。して私に何か用ですかな?」
「はい、コウヤの代わりに電気の発電機の進歩状況を見にきたのです。」
「なるほど理解しましたよ!魔法の電池を見に来たのですね!大丈夫です開発は順調です。ただ……コウヤ殿に知らせた『サイズ』からだいぶ大型になってしまいましたが……」
ヨークは、コウヤが考案した電池とヨークの魔法技術による合体により制作を開始したのだが、このヘルズ全てを支える電気を発生させるとなると当初の計画より大型になってしまい、特別な部屋を設けて制作しているとの事であるという事をセルシウスとエリンに説明した。
「そうなのですか……その魔法の電池見せてもらってかまいませんか?」
「もちろんです!どうぞこちらへ」
ヨークに案内され城の地下2階にあたる階段を下り、『発電室』と書かれた看板が掲げてある鉄の扉の前へ来る。
「どうぞ見てください!これが、コウヤ殿と私が開発した。魔法の電池です!」
扉が開き……水が流れる音が聞こえ……ものすごい機械音が発生している。
「こっ、これが魔法の電池なのですか?……」
段々の階段の上から水らしき物が湧き出ている……ただし『薄い橙色』の水……
その頂上からかなり大きい顔がある木が植えてありその木の枝、1本1本にコードらしき物が無数に繋がっているのだ。コードからは、クラゲの発光のような生物の動きをしており、見る人によっては、美しく見えるかもしれない。
「この木は電気を発生させるモンスターなのです!名前は、エンシェントトレント(古代樹人)です。この木に栄養を与えるとほぼ『無制限』に電気が発生できる優れ物ですよ!」
「これが……電池なのですか?最初の話とはだいぶ違うような……」
明らかに電池ではない……むしろ発電機という機械すらでもないのだ。生物で電気を発生させる事など、電気の効率的に考えたら有り得ないのだ。
「この樹人の子供といったらいいんでしょうか……植木鉢程度の大きさでも家庭で電気を使う分だけなら十分発電可能です!」
「しかし……モンスターといえども意思はあるのですよ?!勝手に人間の都合でこんなコードだらけにしていいのですか?!」
そう……モンスターといえ意思はある。人間の都合で勝手に連れてこられ身動きができないほど拘束されるとなるとさすがに可哀想である。
「いえ……それが不思議な事に最初は暴れていたのですが、栄養の水を与えたらすぐ大人しくなったのです」
「はい?大人しくなった?何故です?」
「さすがにモンスターとは喋れないのでわかりませんが……」
セルシウスは精神を集中し、コードに繋がれた樹人に会話をしようと精神移動を開始する。
「もし……聞こえますか?樹人さん。無理やりここに連れてこられたと聞きましたが、いいのですか?嫌だったら正直に言っていいのですよ?」
セルシウスは、モンスターとの会話も精神移動の応用で可能だ。ただしその間は身体は動かす事は出来ない。
やがて樹人の声がセルシウスの精神とリンクする。
「最初は……何されるかわからないから暴れたが……特に何もされる訳じゃなし栄養もくれるので別にかまわん……ワシ……動きたくないし……」
セルシウスは盛大に足を滑らせズッコケる。
さすが、木のモンスターである生きる為に動くという行動は、基本したくないだろう。
だって……木だし……
「セルル、セルル!モンスターなんて言ってたの?会話してたんでしょ?」
エリンは、セルシウスが大精霊だから、木のモンスターと会話も出来ると最初から思っていたようだ。
「ええとですね……乱暴な事をしなければ別にかまわないと言っていました。出来ればたまには、日光で光合成させてほしいとの事です」
「なんと!モンスターと会話が出来るのですか?!それはすごい!わかりました。今は、地下ですが、1階に部屋を設けいつでも日の光を浴びられるようにしましょう!」
ヨークは、セルシウスがモンスターと会話出来る事を特に不思議に思っていないようだ
それよりもモンスターの真意が聞けて手を貸してくれる事に喜ぶ。
「とりあえず樹人さんは、了承してくれましたが、発電力はどのくらいなのです?」
「まだ実験段階なので、なんともいえませんが……このヘルズを電球で点灯させるには十分な発電力があると踏んでいます。もし足りない場合は中継地点に、ここと同じ設備を設けましょう。」
なるほど……発電力が足らない場合は、数で勝負という訳である。この発電設備だったら、都市の電力を補えるかもしれない。
「わかりましたヨークさん見せて頂きありがとうございます。コウヤにこの事を知らせますね……あと、『竹』の件ですが、どうなのでしょうか?」
「竹も明日か明後日には届く予定です。コウヤ殿の宿にいくらか配送いたしましょう!」
「わかりました、その事も報告しますね」
ヨークは、「お願いします、コウヤ殿にまた会える日を楽しみにしています伝えてください」と伝言を頼まれ城を出た。
「すごかったねー木のモンスターで電池なんて!」
いやあれはもはや電池すら無いのだが……説明に困ったので黙っていようと思うセルシウスであった。
「さてエリン、トーマスさんにも電球の進歩状況を聞かなくてなりません。鍛冶屋に戻りましょう」
「うん!」
セルシウスとエリンは、鍛冶屋に戻り仕事の終えたトーマスと2階で、報告する形になった。
「トーマスさん、コウヤに代わって電球の進歩状況を聞きにきたのですが……どうですか?」
「ご心配なく!電球は、完成していますよ!今、サイズごとにお見せしますね!」
トーマスは、2階の道具置き場から大小さまざな木箱を持ってくる。
「エリンはもう見たのですか?電球を」
「ううん見てないよ……お父さんはコウヤに見せるまで内緒だよって見せてくれなかったんだ」
トーマスは、2階のリビングで、木箱を並べ箱を開ける。
「これが、私達が制作した電球のひな形です!」
トーマスの制作した中身が空の電球は、たしかに電球であったが……丸くないのだ。
ガラスの部分が8角形になっており、これはこれでお洒落に見えるかもしれない。
豆電球の大きさから、町の街頭になる大きさまで大小様々である。
「お疲れさまでした。トーマスさんこれは確かに電球ですよ、これでこの都市の夜も明るいですね」
少し予想と違ったが、形が違うだけで電球には違いない事に、心底安心したセルシウス、また『モンスターで電球』とか出されたら、たまったものではない。
「そうですか!お気に召して良かったです!いやぁ苦労しました。」
「ヨークさんの魔法の電池も完成しつつあるようです。後はコウヤの容態の回復次第ですね」
「それは、楽しみですね!」
「それではこの事をコウヤに報告してきますね、本当にお疲れさまでした、それではトーマスさん」
セルシウスとエリンは、コウヤに魔法の電池と電球の進歩状況を報告する為、宿屋に戻る……コウヤはテスターを完成させ眠っているようだった。
コウヤの制作したアナログテスターは、あちらの世界よりかなり大きめ指針のメーターで車のメーターを代用して作った様だった。
「コウヤ!あれっ寝てるのかコウヤ……しょうがない……どーん!」
エリンは、寝ているコウヤに、ボディプレスをする為、助走してから飛び上がる。
「ぐっほぇっ!!」
エリンのプレスが見事にコウヤの腹に命中し、くの字にコウヤが折れ曲がる。
「殺す気か!こっちは全身筋肉痛で動かしたくないのに!」
「こんな時間に寝ているコウヤが悪いんだよ……まだ夕方じゃない」
コウヤの抗議も虚しく、エリンは反省の色を全くもたないようである。
「あれっ?セルシウスは?」
「セルルは、1階で晩御飯の用意してるよ」
1階から、いい匂いがする、セルシウスもコウヤがこの世界に来てからだいぶ料理の腕が上達したらしく今は、大精霊なのにコウヤの世話をするという奇怪な出来事が珍しくなくなってきたコウヤであった。
「コウヤ……身体の具合どう?」
エリンは、心配そうにコウヤの顔を覗き込む。
「あぁ……だいぶ良くなってきたよ、エリンにも心配かけたな……」
「本当に心配したんだよ!コウヤが居なくなったら私……」
エリンの目に涙が溜まり……コウヤに抱き着く。
「コウヤが居なくなったら誰が私の打った刀を使うのよ!この馬鹿!」
「そうだな……俺しかお前の刀を扱えないな……ごめんな」
コウヤはエリンの頭に手を置き反省した面持ちでエリンに言う。
「そういえば、エリン……知ってたら教えてほしいんだが、魔法の電池と電球はどうなってるんだ?」
「そうだっ!すっかり言うの忘れてたよ!えっとね!魔法の電池ってすごいね!木のモンスターで電気が出るなんて、私知らなかったよ!いっぱいコード?って長い線で繋がっててね!モンスターと話して、栄養さえくれれば別にいいってさ!でね!電球も出来てて、8角形なんだけど大丈夫だってさ!」
「…………」
「はいっ??」
エリンが何を言ってるのか、全然わからない……何を言ってるんだ?魔法の電池がモンスター?電球も8角形?意味がわからない……
コウヤは。自分の世界の電池と電球とはまるで違うのが完成したようだと確信した。
やがて、晩御飯が出来たのかセルシウスがコウヤの部屋に来る。
「コウヤー!ご飯ですよ!エリンも降りてらっしゃい」
「ちょっと待て!セルシウス!魔法の電池がモンスターってどおいう事だ?!電球も俺の説明した電池と違うぞ!」
「あーその事ですか……後で説明しますとりあえず、食べましょう」
セルシウスは、コウヤの目線から顔を逸らし、1階へ降りた。
「ちょっ!ちょっと待てってセルシウス!説明しろ!今すぐだ!おい!」
「コウヤとりあえず、1階でご飯食べようよ!セルシウスのご飯美味しいから楽しみ!」
エリンは、コウヤを置いて1階へ駆け足で降りた……取り残された、コウヤは……
「何なんだ?!訳わからん!そんなにヤバい物なのか?!」
コウヤは、不安の色を濃くし重い足取りで1階へ向かう……




