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氷撃の派遣剣士  作者: 翼太郎
14/16

火の契約者

「コウヤ遅いね……どうしたんだろう?セルルどうしよう……」

セルシウスとエリンは、買い物を楽しみ、パフェを食べて宿屋に戻ったのだが、日が沈んでもコウヤが戻ってこない事を心配していた……

「コウヤ……一体どうしたのです?何かあったのでしょうか……」

「セルル!コウヤを探しに行こうよ!モンスターに襲われたのかも!」

エリンは、居ても立っても居られず扉を開けようとする。

「駄目です!こんな夜に雪原へ出たら狼の餌食になります!大丈夫です!あなたが打った刀があるんですから!」

エリンは、ドアノブを握りしめ唇を噛む。

「コウヤ……」

セルシウスは、精神を集中しコウヤの居場所を探る……

コウヤの身に着けているピアスに精神を移動させようとした矢先……

「おーい今帰ったぞー」

1階の玄関から、コウヤの声が聞こえた。

『『コウヤ!』』

2人は、顔を合わせ頷いて1階へ急ぐ。

コウヤは、赤い髪のローブを羽織った女に肩を借りた状態で、戻ってきたのだ。

「ごめんな……遅くなっちまって……」

コウヤは、全身の疲労と凍傷で、笑うのがやっとの状態だった。

「何をしていたのです?!洞窟に部品を取りに行っただけでは、なかったのですか?!」

セルシウスは、目に涙を浮かべコウヤを怒鳴る。

「いや……帰る途中にさ……ヘルズに向かう途中で出会った狼のモンスターにまた出会ってさ」

あの、狼のモンスターが?!セルシウスは、狼の姿を思い浮かべコウヤがこうなった原因を理解した。

「でも倒したのですよね?だったらなんで、そんな状態なのです?!」

「いやさ……愛車をバラバラに分解する事で、イライラしててさ……狼に全力で魔法を使っちまったんだ……」

セルシウスは、涙が溢れコウヤに抱き着く。

「あなたは、馬鹿じゃないですか?!まだなんの説明もしてないのに全力で魔法を撃つなんて、自殺行為ですよ!」

セルシウスは、時が来ればコウヤの魔法力の容量が増した事は、伝えるつもりではあった。しかし、魔法力を上げたその日に、全力で魔法を撃つ事は、完全に想定外の出来事であった。

「いやぁ今回ばかりは、死ぬかと思ったけど……お前の魔法のおかげで狼を倒せたんだぜ……感謝してるよ」

「このアンポンタン!ぬっ殺しますぉ……」

セルシウスは、コウヤを抱きしめ泣きじゃくった……

「あのぅそろそろいいかな?」

赤い髪の女は、ローブを脱ぎ素顔を見せる。

赤い髪の女は、コウヤと同じピアスをしていた……ただし『赤色のピアス』だ。

コウヤよりも少し年上か?同い年くらいの、ロングヘアーの胸も大きいスレンダーな女性である。

女性でありながら、コウヤを担ぎここまで運んだのだから相当の力の持ち主だ。

「久しぶりだな……セルシウス……」

「そっ、その声は、サラマンダー?!」

セルシウスは、驚く。それもそのはず、まだ精霊大戦は、始まっていないのである。

準備期間のこの3か月に『他の大陸』の契約者が来る事は、違反ではないが、無謀であった。

「何故、火の大精霊の契約者がここにいるのです?!私の洞窟へ来ても試練は与えないという約束のはずです!」

普通、この準備期間の3か月は、異世界から来た契約者をこの世界に『慣れさせる』事が目的であり、自分の大陸で、契約者を強くさせるのが通例である。

しかしこの火の契約者は、あろうことか、敵である他の大陸の契約者と大精霊に接触したのである。

「別に違反では無いのだから良かろう?契約者同士の殺し合いは、禁止したのだからな」

「だっだからって!!」

エリンは、冷静ではないセルシウスの肩を叩き……

「セルル落ち着こうよ……この人のおかげで、コウヤは助かったんだよ?」

セルシウスは、コウヤが傷付き我を失っていた事に気づき深呼吸をする。

コウヤは、意識の限界が来たのか眠っていた……

「たしかに違反では、無いですね……ですが、どうして私の大陸に来たのです?説明は……してもらえますよね?」

「良かろう……私は眠るが、私の契約者に話を聞くがいい……」

赤い髪の女のピアスの光が消えサラマンダーは眠りについた……

「ふぅ……やっと話せるわね……自己紹介しましょうか?私は、『友坂 翔子』よ!よろしく」

友坂は、エリンとセルシウスに手を差し出すが、セルシウスは警戒して手を出さなかった……

「よろしく友坂さんエリンです、こっちがセルルで馬鹿面で寝てるのがコウヤです」

酷い言われようだが、寝ているコウヤには聞こえない……

翔子しょうこでいいわよエリンちゃん……それと、氷の大精霊セルシウス……」

エリンが驚愕し、立ち上がりセルシウスを見る。

「えぇぇ?!氷の大精霊様?!セルルが?!」

エリンは、セルシウスが大精霊である事は、知らない……当然、この大陸の守り神に等しい存在を目の前にして驚く。

「翔子さん……その事は、エリンには秘密にしていたのですよ……」

「あら……ごめんなさい……知らなかったわ……」

謝ってはいるが反省はしてない様だ……軽く片目でウィンクしてごまかす。

「翔子さん……何故、敵である私の大陸へ来たのです?」

セルシウスは、翔子を睨みつけ、翔子の真意を聞き出そうとする。

翔子は、ソファーに座り、置いてあった酒ビンを手に取り「いいかしら?」とセルシウスに聞く。

勝手にどうぞという感じでセルシウスは手を平返し、酒ビンからコップに酒を注ぎ1口飲んでから、翔子は語る……

「特にこの大陸に来た理由は、無いわ……なんとなく……暑い所より寒い所の方がいいかなって思っただけ……隣の大陸だし近かったしね」

「それだけの理由で此処へ来たのですか?!」

セルシウスは、翔子に怒鳴りつけた。

たかが、暑いのが嫌だから氷の大陸へ来たという馬鹿げた話にセルシウスの沸点が上がる。

「貴方は……氷の大精霊である私を怒らせたいのですか?ふざけるのもいい加減にしなさい……今……此処で……殺しますよ?」

セルシウスの身体から魔力が吹き上がる……明らかに『殺す気』の魔力の量だ。

「あら怖い……でも私を殺したら契約違反よ?氷の大精霊様……気分を害したのなら謝るわ……ごめんなさい」

エリンがセルシウスに腰に抱き着き静止する。

「セルル駄目だよ!もっと冷静にならなきゃ!少なくとも翔子さんは、『今は』敵じゃないよ!」

「エリンちゃんの方が今の状況をわかっているね……大精霊様も、もう少し冷静になりなさいな?」

翔子は、酒の入ったコップの中身をぐるぐる回して挑発する。

「エリン……ありがとう私は、『すこぶる』冷静になりました……それで、暑いのが嫌だったら冷ましてあげましょうか?永遠に……」

「セルル全然冷静じゃないよ!落ち着いて!」

コウヤが傷付き生還し、普通では有り得ないこの現状にセルシウス自身、混乱しており、己の感情をコントロールする余裕が全く無い……

「あらあら怖いわね……本当に別に他意は、無いのよ?しいて言えば他の大精霊と契約者がどんなもんか見に来ただけ……契約の洞窟を見て帰ろうと思った道中に貴方の契約者を拾ったのよ?恨まれる様な事は、してないわ……むしろ感謝してほしいわね……」

セルシウスの高めた魔力が急激に下がり、目を閉じる……

「貴方の言っている事が『本当』なら信じましょう……まだ、精霊大戦の火蓋はたってませんが……今後この様な行動は、しない方がいいですよ……私は『まだ優しい方』です」

「そうね……サラマンダーも呆れていたわ……困った契約者だと……」

どうやら、サラマンダーも翔子の扱いに苦労している様であった……だから、自分は関係ないと眠りについたのだろう……

「それじゃ用は済んだし帰るとするわ……そこで気持ちよさそうに寝ている坊やにもよろしくね」

翔子は、ローブを羽織り、魔法使いの杖なのか両手で持たないといけないほどの大きい両手杖を片手で持ち「じゃあね……また会いましょう」と言って夜の闇に消えていった……

火の大陸の契約者……セルシウス自身、サラマンダーがこの世界に召喚した人間など知るよしもないが、契約者同士の接触は、出来れば避けたいと思うのが普通であった。

殺し合いは禁止ではあるが見方によっては、『殺さなきゃいい』という事になるのだ。生きてさえいれば、再起不能にして精霊大戦をリタイアさせる事は、グレーに近いが違反ではない。サラマンダーは、そんな事を考える大精霊では無い事は、セルシウスも前大戦で組んだ大精霊なだけに承知はしているが、他の大精霊が、そんな考えに至ってしまったとしたら……

仮に翔子が、コウヤを半殺しにして精霊大戦をリタイアさせる事も可能だったのだ。

セルシウスとエリンは、いつまでも翔子が消えた扉を見つめ……やがてエリンが振り向く。

「セルルって大精霊様だったんだね……これからセルシウス様って呼んだ方がいいのかな?」

セルシウスは、顔を横に振りセルルの首に腕を巻く……

「セルルでいいです……ごめんなさい……騙すつもりは微塵も無かったのです……」

エリンはセルシウスの手を握り。

「わかってるよ大精霊様だもん……正体は、そんな簡単に明かせないよね……

セルルは、翔子さんが契約者って言ってたけど、コウヤも契約者なの?」

「はい……その通りですエリン……ごめんなさい……」

セルシウスは、エリンの手を胸に持っていき涙を流す……

「そっか……別の世界から来たって話は本当だったんだね……冗談半分かと軽く流したけど……」

「ところで……この馬鹿どうしようか……」

「そうですね……大丈夫な様だし、ほっときましょう……」

コウヤは、この一連の騒動を知らずにぐっすり寝ていた……


次の朝……コウヤは、全力で魔法を撃った後遺症により、全身の筋肉痛で動けずにいた。

「このアンポンタン!今日は、どうするのですか?!動けないんじゃ電球と電池の制作をするなんて無理じゃないですか!」

「めっ、面目ない……」

「本当に心配したのですよ!エリンにも心配かけて……わかっているのですか!」

「本当に面目ない……以後魔法の扱いには注意したいと存じます……」

先日の騒動によりベットから動けないコウヤにセルシウスが、これでもか!というくらいの説教の嵐……

「いいですか?あなたの仕事の働きぶりや功労を見て、私は、あなたが寝ている時に魔法力の容量を増やしてあげたのです!」

「えっ?つまり俺が強くなる条件ってのは、セルシウスの『気分』次第なのか?!」

「気分次第というのは少し、違いますが……私があなたの魔法力の底上げを担うのは確かです」

そう、この世界では、敵を倒す事などで経験値を会得する事や個人の努力でステータスの向上する事は、「ほぼ」無いのだ。

いくらスポーツマンや体術の達人だった人間が、この世界で戦ってもそれ以上それ以下でもない。戦闘技術の知識や経験が役に立つ事は、たしかに有るが圧倒的な戦闘力の人間相手にそんな経験が役に立つのか?魔法を持った人間は、前大戦では、歩兵どころか兵器レベルの扱いだったのだ。1人の歩兵と1個大隊が戦うのと同じくらい圧倒的戦力差……精霊に選ばれた人間は、文字通り『人間兵器』なのだ。

そんな強大の力をいきなり全て授ける事は、セルシウスは、どうしても出来なかった。

だからコウヤの『人間性』を観察し監視し間違いを起こさない人間だと判断した時、セルシウスは、全力の力の付与をコウヤに与える。

その過程でコウヤの仕事への成果や行動によって魔法力の底上げをする事にしたのだ。

「どのくらい魔法力上がったんだ?セルシウス」

「そうですねわかりやすく言うのでしたら最初の契約した時の状態は、コップ1杯分、先日の夜に付与した魔法力は、お風呂1杯分です」

「そんなにいきなり魔法の付与をしてくれたのか?!」

最初は、冷気しか出せなかった状態からの狼を氷漬けにしたほどの魔法力の向上……

「しかしですね……身に染みてわかったと思うのですが、リスクもあるのです。あなたがそんな軽装で、雪原を平気な顔して歩けるのは何故か?身体機能の向上もあったはず。狼と戦った時に普通じゃ出来ない身体機能を発揮できたはずです」

コウヤは、狼と戦いを思い返した……たしかに、真剣を扱うのが初めてなのにも関わらず、何の苦労も無く扱えた事、いきなり居合斬りという練習すらした事ない技が成功した事、そして、全力で2匹目の狼を氷漬けにし粉砕した時、おそらくコウヤの魔法量は完全に底をついた。

「つまりだ……戦っている最中も常に魔法力を消費しているのか?」

「当たりです。『魔法量がゼロ』になった時、あなたは通常の人間になり、今まで魔法で支えられた筋肉や組織全てが、元に戻ります」

「それで俺は、今こんな状態になっているのか……」

「説明は、するつもりだったのです……ですが先日の今日でまさかコウヤがいきなり全力で戦闘するとは思ってもいませんでした……」

「ごめんな……おっとそうだ!はんだとはんだごて調べてくれたか?」

「えっ?あっはい、調べましたよ全く……こんなボロボロな状態なのですから別に今日は休んでいいんじゃないですか?」

「椅子に座って作業くらいは出来るからさ、やれる事だけは進めたいんだ……

「エリンが作ってくれた……はんだごてです、まだ電池が完成してないので、炭で暖めて溶かすタイプの物ですが……はんだ合金もエリンの鍛冶場をお借りして制作しました」

セルシウスとエリンは、コウヤが車を分解している時、はんだごての形を、エリンに説明し作ってもらったのだ。エリンは、「刀よりただその形にすればいいだけなら簡単よ!まかせてちょうだい!」とちょっとしたサプライズのつもりでやったのだが、こんな状況じゃ驚かせるも何もない。

「すごいな!これがあればアナログテスターを作れるぞ!部品も全て俺の愛車からだけど……」

コウヤの顔が悲しみに満ちる……

「とっとにかく頑張ってくださいね。私は、エリン達にコウヤの事を知らせてきます、

城に行って魔法の電池の進歩状況を聞いてきますね」

「おうっ頼んだよ」

コウヤは、立つのもやっとの状況で、愛車の部品とはんだ合金とはんだごて、ドライバー類などを机に並べ準備する。

「さて……やりますか!」

コウヤは、アナログテスターの制作に取り掛かった。



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