アナログテスター
コウヤー朝だよー起きてよーねぇコウヤったら!」
エリンが俺の身体を揺さぶる……
おいおい……まだ朝の6時だぞ……もうちょっと寝かせて……
「あ、これだね私の打った刀!これでコウヤを試し斬りしようかな……」
俺は、目が開き布団をひるがえし起きる。
「バカなのか?!ねぇお嬢さん!君は、バカなの?!洒落になってねえぞ!!」
「あはは嫌だなぁ冗談にきまってるじゃん」
エリンは宿の俺の部屋のカーテンを両手で開く清々しいほどの晴天だ。
「セルルが朝ご飯作って、1階で待ってるよ」
「そうかじゃあ着替えるから出ていって」
「えっ?なんで?別に気にしないから着替えていいよ?私は刀見てるし」
お前は、男の裸見ても平気なんか?!この世界の女って皆、そうなのか?!てか少しは恥ずかしがれよ逆に傷つくわ!
「コウヤこの刀って『名刀』ってやつになれたのかな?」
エリンは、鞘から刀を少し抜き自分が打った刀身を見る。
「うーん……さすがに伝説級の名刀には……まだ遠いんじゃないか?」
お世辞を言った所で本人は、喜ばないそう俺は、思った……たしかに、練習刀の時より腕は相当上がったのだろう……しかし、伝説級の刀は、それこそ化け物じみた逸話が残っている。菊一文字の本当の持ち主は、あの新選組1番組組長、沖田総司だ。天才剣士と言われ……沖田は猛者の剣と言われていたそうだ。若くして病気で亡くなった悲劇の剣士……
「ふーんやっぱそうなんだねもっと精進しなきゃ!」
刀を鞘にしまい俺の方向へ向くと素っ裸な俺と目が合う……
「トウヤ……男のくせにずいぶん華奢だねぇもっと鍛えた方がいいよ」
「余計なお世話だ!」
本当に何も男の裸を見ても恥ずかしがらない……そもそも元の俺の世界で体を鍛えるとか全くしてないのだから、当然だ。太ってないだけまだマシだと思うのだが……
「コウヤ!エリン!遅いですよ!ご飯冷めちゃ……う……」
急に俺の部屋の扉が開きセルシウスがエプロン姿で様子を見にきた。
セルシウスは、俺の体を見る……上から下へ確認するようにそう裸である。全くもって俺は、裸なのである。
宿から、セルシウスの雄たけびが響き渡る
「コウヤ!何故裸なのです?!エリンもエリンです!なんでコウヤが裸なのに平気なのです?!」
あっ、良かった……やっぱりこの世界でも女は、男の裸は、恥ずかしいのか……大精霊だけど。
「私は、お父さんの裸たくさん見てるし……全然平気なのよ」
セルシウスは、顔を真っ赤にしながら朝食を食べる。
「セルルって料理上手だね!私、全然出来ないからさ……」
「私は、食べる事が好きなのです。調べてる内に料理も自然と覚えたんです」
俺は、黙々とセルシウスの朝食を食べる……女子2人に裸を見られたので、意識してしまう。
「そういえばコウヤ、今日は、どうするの?」
エリンはセルシウスの料理を口に入れながら喋る……
「うーん、今日は特に無いんだよな……魔法の電池と電球が出来ないと俺、動けないし
せいぜい『アナログテスター』と『はんだ』の制作かな……これがあると無いだけじゃ全然違うだろうし……」
しかしどうする?アナログテスターの構造は知っている。メインは『直流電流計』で他の電圧や抵抗の計測はできるだろうが、交流の計測は、無理だろう……『整流器』がこの世界に存在しない、指針とかどうする?あれを全てゼロから作るとなる無理ではないか?100オームの抵抗すら存在しない。この世界で電気の計測器?『元の世界』から
持ち込むしかないのか?しかしセルシウスが許さない……
ん?元の世界から持ち込んだ物?……
「…………」
——————あった!元の俺の世界から持ってきた物が、菊一文字の他にもう1つ!『車』だ!あれも精密機械の塊!メーターもダイオードも電気部品のほぼ全てあるのではないか?!
「あった!」
突然コウヤが朝食中に叫び、セルシウスとエリンが驚く。
「どっどうしたのです?コウヤ」
俺は、慌てて2階へ上がり簡単な旅支度をする。分解に必要なドライバー類やナイフをバックに入れる。
「ちょっと行ってくる!セルシウスは、はんだとはんだごての製造法を調べてくれ」
コウヤは、——目散に城に向かい、セルシウスの出会った洞窟へ走った。
「…………」
セルシウスとエリンは、口を半開きにしながら何が起きたかわからないといった表情で見つめ合う……
「どうする?セルル?」
エリンは、一瞬にして居なくなったコウヤに微笑の笑みを浮かべた。
「そうですねぇ……コウヤの言ってた。はんだとはんだごてを調べますかね」
セルシウスも笑いを堪えきれず、笑う。
俺は、城へ行きヘルズを出て洞窟へ向かう為、雪原をひたすら走る……
最初に洞窟からヘルズへ向かった時は6時間くらいかかったが、この早さなら4,5時間でつくだろう……運動不足のはずなのに何故か身体が軽い……何時間走っても息が荒くならないのだ。不思議に思い足と止める。
「どうしたんだ……俺の身体、いくらなんでもこんだけ走っても息が切れないなんて……」
無意識に雪原へ向け手を向け、魔法力を込める……
「はぁ!!」
魔力を高めた手の平に、淡い光が集まり……やがて拡散、氷の尖った棒状のつららが5,6本雪に突き刺さる。
「す、すげぇ……」
初めて自分で撃った魔法、元の世界じゃ有り得ない現象を目のあたりにする。
しかし魔法を撃った瞬間に今まで息1つ切れなかった身体が突然。悲鳴を上げる。
心臓の鼓動が早くなり酸素を求めて呼吸が乱れる。
「なるほど理解できたわ……」
今まで、運動不足の俺が、マラソンランナー顔負けの走りができたのは全て魔法のおかげだったのだ。
安易に魔法を使うと身体機能が大幅に低下するのか。これじゃ乱発は控えた方いい。
しかし、何故だ?何で、急に魔法が使えた?セルシウスは、何も言ってなかったし……
「さて不思議現象の原因は、わかったし洞窟へ急ごう」
俺は、洞窟に電気部品を求めて疾走する。
その頃、セルシウスとエリンは、鍛冶屋2階で、コウヤの言っていた、『はんだ』について相談をしていた……
「それで、どうする?セルル、コウヤは、作り方を調べてくれって言ってたけど……」
エリンは、あぐらを掻きながら、セルシウスに顔を傾ける。
「はんだの材料だけは、知っています、『鉛』と『スズ』という鉱石から出来ます」ただし鉛は、有害な鉱石でして……環境には悪いみたいです」
「へぇ……そうなんだ。でも石材屋とかウチのお得意さんの商人でも普通に売ってるよ?」
鉛は、元の世界で古くから扱われる鉱石でありエジプトの古代でも『はんだ』接合が行われている。ただしこの時代から近代まで、有毒性があるのがわかっていながら使い続けているのが現状である。鉱石の鉛は、水に溶けにくい性質で、食物にも僅かながら鉛がある。ほうれん草などには、鉛がある植物代表だ。だが植物に入ってる鉛も『極少量』であり、尿などで普通に排出される為、危険はない。問題は、『大量に摂取』した場合で、長期間摂取すると体内に蓄積されて毒性を持つ。
鉛の融点は 327度、錫の融点は 231度 これらの金属を組み合わせると、融点184度のはんだ合金が出来上がる。
つまり、327度の温度で鉛と鈴を入れれば完成だが、有毒ガスも発生するので、何も無い環境でやるのはあまりに危険なので、実験するのもかなりの注意が必要だ。
「とりあえず、皮袋を用意してその鉱石を少量買いましょう。コウヤが使う分だけなら大丈夫です。」
「はんだごては、どうするの?セルル知ってる?」
セルシウスは、さすがにはんだごての制作の仕方は、知らない……
後で、コウヤの世界に行って調べるしかなかった……
「わかりません……ですから最初に鉛と錫だけ買いにいきましょう」
「了解ーじゃあ、ついでに美味しいパフェでも食べに行こうよ!」
セルシウスの顔がみるみる変わり。頬を両手で押さえる。
「パ、パフェですか?!いいですね!行きましょう!」
「コウヤには、内緒にしようね!」
「はい!もちろん!」
女子二人組がパフェで盛り上がっていた頃……コウヤは、大粒の涙を流していた……
「すまん!俺の愛車よ!お前の部品は、文字どおり『光』になるんだ……だから許してくれ……」
派遣生活で貯めた金で買い中古車ではあるが長年、生活の足になっていた愛車を分解しなきゃいけない事に、コウヤは、涙を我慢する事が出来なかった。
「くっくそぉ……手の震えが止まらねえよ……自分の愛車をバラバラにするなんて罰ゲームか!」
しかし、車を分解しないと計測器の入手は困難になる。部品は、この異世界では入手は、絶望的だろう。
「ちくしょう……ちくしょう!……ちっくしょぉぉぉ!!」
コウヤは、泣きながら愛車を分解していく……
哀愁漂う空気にもはや、神すらも救う事は出来ないだろう……
一方その頃、セルシウス達は……
「へい毎度!珍しいねーこんな鉱石にかわいいお嬢ちゃん2人が買いにくるなんて」
セルシウスとエリンは、鉛と鈴の鉱石をエリン行きつけの商人で買っていた。
「ありがとうございます。こんなに安くして頂いて……」
エリンの値切り交渉のおかげで普通の値段の半額以下で、鉛と錫の鉱石を買う。
「いいってことよ!エリンちゃんとトーマスさんにはいつも、ごひいきにしてもらってるからさ!そのお礼よ!」
商人は、豪快に笑う。
「じゃあねおっちゃん!また来るからね!」
エリンは、商人にぶんぶん手を振った。
商人と別れ2人は、ヘルズのレストラン街へ向かう。
「さて、セルルこれから待ちに待った『パフェ』だね!」
「はい!私、チョコレートパフェが食べたいです」
城塞都市ヘルズのレストラン街に来ていた。
上空の氷の天井と中世の石作りの道と店は、現在の人間が見ても美しい光景だろう。
「ほら見てあの服かわいいよ!セルルに似合うと思うよ!」
セルシウスとエリンは、ショーケースごしの服やドレスに目を輝かせる。
エリンが指を指した服は、淡い水色のドレスだ。
「そ、そうですかね?ちょっと派手じゃないかと……」
「そんな事ないよーこのドレスできっと、コウヤもメロメロに出来ると思うよ!」
セルシウスの顔が蒸気で膨れ上がった汽車が爆発した様に真っ赤になる。
「そっそんな!コウヤなんて、私の僕みたいなものですよ!まして私は、大……」
大精霊と口が滑りそうになり慌てて途中で止める。
「大?『だい』がどうしたの?」
エリンが不思議そうに尋ねる。
「だ、だいじょうぶですから!大丈夫です!」
「早くパフェを食べに行きましょう!私とっても楽しみです!」
エリンは首を傾げ、なんで「大丈夫」なんだろ?と思ったが、すぐに頭の片隅に消え去り「待ってよ!セルル」とすぐ忘れるのであった。
その頃、コウヤは……
「…………」
愛車の分解が終わり、必要な部品をカバンに詰めて、城塞都市ヘルズへ帰る最中であった。
泣きながら分解し、涙も枯れ果て、目を真っ赤にしながら、この世の絶望を見たような目で、雪原を歩くコウヤ……もはや走る気すら起きなかった。
部品となった愛車の欠片は、コウヤにとっては、ダイヤモンド以上の価値がある品物である。事実、この世界では、『存在しない』部品なのだから、見る人によっては、宝石より値打ち物であろう。
「こんな事が……こんな事が……許されていいのか……」
まるで家族が殺されたような感情に包まれるコウヤ……コウヤ自身もわかっている。
この部品は、この世界に必要な部品なのだ。この部品で電気の計測器を作れば、電球の配線で大いに役に立つ。また断線など電線の修理等にもテスターは、役に立つ。
『『グルルルッ』』
悲しみを背負うトウヤの前にいつぞや出会った、狼のモンスターが2匹、コウヤの前に立ち塞がる。
「なんだてめえら……今、俺は、今気が立ってたんだ……どけよ……」
ゆらりと明らかな殺気をもってコウヤは、狼達を睨む。
「グルァ!!」
狼の1匹が、コウヤの喉笛めがけ突進してくる。
コウヤは、愛車の部品を地面に置き……刀の鞘を左手に持ち右手で剣を構え居合の姿勢に入る。
狼は、空中に飛びコウヤの首を狙った瞬間……
「死ね」
コウヤの鞘から——————放たれる閃光と一緒に、狼の首が落ちた……
初めて本物の『真剣』で生き物を殺したコウヤ……しかしその顔には同情すら浮かばない……ただただ相手を容赦無く刀を抜いた歴戦の侍の様だった。
「グルルルルル!」
仲間を殺された狼のモンスターは、一瞬怯むが、威嚇の姿勢を再度取りコウヤに突進する。
「なんだってんだ……逃げりゃ見逃してやったのによ……」
血の付いた刀をぶんと振り、刀の血を飛ばした後。刀を握る右手に魔法力を込める。
「……今の俺に喧嘩売った事……後悔させてやるよ……!」
コウヤは、氷の魔法力を刀に込め地面に刀を突き刺し下から上へ斬り上げた。
斬り上げた刀から、氷山が襲ってくるかの様に、膨れ上がる!
狼は氷の中に閉じ込められ何も出来ないままの氷漬けの人形と化した……
「じゃあな……」
そのまま氷漬けの狼を、鞘でコンとぶつけると氷漬けの狼は粉々に砕け消滅した。
「…………」
こんな姿、セルシウスとエリンには見せられないな……情けない……
激情のまま……狼を殺したコウヤは、自分で恐ろしく思った。
刀を鞘にしまいヘルズの帰ろうとした時……
「うぐぅあ!」
心臓が急激に萎みだし、激痛が襲った。
急激な心拍数の上昇に立っていられず、鞘を杖変わりにして膝をついた。
「やっべぇな……さっき学習したばかりなのによ……」
最初に使った魔法以上に手加減無しで魔法力を開放をした結果。
視界すらぼやけ雪原に倒れ込む……
「セルシウス……エリン……」
ちょうどその頃、粉雪が降り、コウヤの身体を包み込んだ……
雪に埋もれていくコウヤに人間の影が映る……
赤い髪の女……
「貴方!こんな雪原のど真ん中でなんで倒れてるの?!」
コウヤは赤い髪の女を目視した後、視界が閉じ気絶した……




