レポート08
まあ夏休みの夜なんて、部屋に戻ったらやることなんて決まってるわけだ。
そう宿題――ではなくグリプス・サーガ・オンラインだ!
実は予約に成功した時から楽しむために、宿題は夏休み前半で終わらせられるものは全て終わらせたのだ。
こういうところだけは、本気をだす俺だが?
自慢を他所に、俺はゲーム機装着してベッドに横になり、スイッチを押す。
そういえば、こんな感じのスーツなかったっけ、蟻の大きさになるヒーローみたいな。
俺の意識は再びゲーム世界へと写り、岩の町の前に降り立つ。
少し急ぎ足になるが、フィールドにでて俺はレベルを10まであげた。
なぜかはもう分かるだろう。
『レベルが10になったな。それではこれから《ソルジャー》認定試験を行うが、通常《メイン職業》は変えることができないが《ソルジャー》で間違はないか?』
きちんと間違ったり考えなおす時間ができている親切設計だ。しかし、ここまできて《アーチャー》や魔法技能に移る気はない。俺は《YES》を選択する。
『よぉし! それでは試験を開始する。この町からさらに北西に行った先に《ロック・ゴーレム》というモンスターがいる。そいつを2体倒して来い。パーティープレイでも大丈夫だ』
会話を聞き終えると《クエストスタート》という表示が空中に一時的に現れる。
「《ロック・ゴーレム》か……石人間とどう違うんだろうか」
そう思いながら、初期装備の俺は言われたとおり北西に歩き出した。
しばらくして、具体的には7分ほど歩いた場所で、遠くに影を見つけた。
よく見ると、砂岩のような人型の何かが動いている。
「多分、あれだよな。名前がまだ距離遠くて表示されてないが」
俺は少しコソコソしながら近づいてみる。
すると、予想どおり《ロック・ゴーレム》という名前とHPバーが頭の上に表示された。
「硬そうだな。見た目は……でも、ゲームだしあんまり関係ないこともあるかもしれない」
石人間の時はそもそもレベル差があったから、硬いと感じてた――いやこっちの攻撃力が低かったわけで、結局のところ今回は同レベルのようだしいけるんじゃないか。
俺は盾を改めて掴み直してロック・ゴーレムに向かって走りだした。
「うおおおおお!!」
右手のメイスで足を叩きつける。大きさは大体自分の2倍くらいだ。
「どうだ!」
HPバーを確認する。しっかりと減っている、やはりレベル差がなければなんとかなりそうだ。
ただ、そんなこと考えてる間にロック・ゴーレムも攻撃してきた。
「ぐぬっ!」
俺は回避はせずに盾で受け止めるが、結構ダメージが通ってしまう。さすがに初期装備の盾じゃそろそろきついか。
「いくぜ、初心者スキル!! 《石投げ》!!」
スキルを発動させてロック・ゴーレムに石を投げつける。
実は初心者スキルという誰でも半強制で覚えるスキルもあったのだ。本来は職業ごとに種類が違う。
《石投げ》はその名の通りの技だが、このレベル体だと結構なダメージを与えることができる――実際にメイス以上にHPが減った。
「次はメイスどぅえ!!」
若干ろれつが怪しくなったが、まあひとりだしいいか。そのままメイスで攻撃を続けていくと、ロック・ゴーレムは倒れた。
「今更だけど、こんだけ身長差があると怖いな」
もともとそこまで身長が高くないから、上から威圧されるとびくついてしまう俺だし。
「もう1匹行くぞ!!」
少し見回すと、すぐに見つかり俺は攻撃を仕掛けた――だが、思ったよりも数がいたようで、テンションの上がった俺は凡ミスをかましやすいらしい。
「あぁっー!!」
完膚なきまでに叩かれてHPがなくなり、町へと強制送還された。
デスペナルティが経験値ぐらいしかないゲームでよかった。
「あ!」
「うん?」
町に戻ったところで、タイミングよく声をかけられた。ちょうどスズネがログインしてきたようだ。ログアウト場所と、リスポーン――つまり復活場所が被ったようだ。
「夕飯食べ終わったの?」
「おう、風呂とかはまだだけど……まあ徹夜プレイして朝にでも入ればいいかなって」
「さすがに体に悪いからやめなさいよ」
「えぇ~……だって、最近やっと手に入れたんだから、いいじゃないか。やるべきなんだが」
「朝早起きしてプレイするとかにしなさいよ……というか、部活とか入ってないの?」
「いや、入っていないな。帰宅部だ……って、あれ? 年齢いったっけ?」
「徹夜プレイとか言える年で、この時期平日が休みだったら夏休み中の学生がほとんどだと思うわよ……私だってそうだから」
「もしかして同い年か? ちなみに俺は高2」
「じゃあ、同い年になるわね」
「なんとも数奇な運命だな」
「同い年だっただけなら、いっぱいいると思うけど……そういえば、何してたの?」
「《ソルジャー》クエストをして、見事にタコ殴りにされてリスポーン」
「だいたい理解したわ……手伝う?」
「できればよろしく」
もう、スズネには頼ろう。なんとなくそう思ってしまう俺だった。
いや、というか引きこもりの俺が、ゲーム内とはいえこんな美少女と絡める奇跡があるなら、もうしばらく喜んで楽しんでもいいじゃないか。
リア充にはなれなくてもネト充ぐらいはしてもいいじゃないか!
……誰に対して俺は訴えてるんだ。
「それじゃあ、行きましょう」
「おう!」
テレレレテッテッテーッテテテー!
スズネがパーティーに加わった。俺はそんな脳内アナウンスを流しつつ、2人でロック・ゴーレムの元へと再び向かった。




