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レディウム  作者: つとむュー
二日目(日曜日)
9/44

双葉

「よっこいしょっと」

「やっとたどり着いた~」

 三人と一匹がアパートに戻ってきたのは午後四時だった。

 あまりに沢山の買い物をしたので、大型バッグを三つ買ってそれに入れて持って帰ることになった。

 筆記用具、食料、衣類などなど。学園で使うサッカーシューズやウエアも買った。

 ついには、アンフィにも荷物を持ってもらうことになってしまったけど……。

「はい、これ、今日のお礼」

「ありがとう、ホクト」

 アンフィは、ハンドバッグを嬉しそうに眺めている。

 荷物を持ってもらったお礼として、途中のお店で買ってあげたのだ。

「じゃあ、明日の朝、迎えに来るからな」

 ライトへのお礼はサッカーシューズ。明日の月曜日は、一緒に学園に行く約束をした。

「じゃあねホクト、また学園で会いましょう。シリカちゃんもバイバイ」

「きゅるるるる……」

 シリカはアンフィとすっかり仲良くなったようだ。


「きゅるる! きゅるる!」

 二人が帰ると、すぐにシリカが騒ぎ出した。

「おいおい、シリカ。たった今アパートに帰りついたばかりなんだから、ちょっと休ませてくれよ~」

 僕がベッドに腰を降ろしても、シリカはまだ騒いでいた。

 ――もしかして、今日もミモリの森に行くのか?

 それならば、すぐに出発しないと帰りが真っ暗になってしまう。

 でも、一日ぐらい水をやらなくたって、芽はちゃんと育つんじゃないだろうか……。

 やっぱり休もうとベッドに横たわると、シリカの騒ぎがさらに激しくなる。

「きゅる! きゅる! きゅるるるるっ!!」

 たとえ独りでも出かけると言わんばかりの剣幕だ。

「仕方ないな……」

 僕はおもむろに腰を上げ、買い物の荷物の中から小さなジョウロと懐中電灯を取り出した。買い物の時に雑貨屋で買っておいたのだ。

「きゅるるるる~」

 それを見たシリカが嬉しそうに鳴く。

 僕はジョウロと懐中電灯をバッグの中に入れ、靴を履く。そしてアパートを出て、シリカを抱えて走り出した。今日は懐中電灯があるものの、帰りは暗くなる前に森を抜けたかった。


 ミモリの花畑に着くと、今日も夕陽が素晴らしかった。

 赤く燃える夕陽に照らされる青い花々。赤と青の共演で紫色に輝くミモリの花は、何度見ても美しい。

 僕はシリカを抱えたまま、しばらく景色に見とれていた。

 最初のうちはおとなしく抱かれていたシリカだったが、だんだんそわそわし始め、ついには僕の手をする抜けて小川の方へ走って行った。仕方が無いと、僕もバッグからジョウロを出して小川へ向かった。

 

 驚くことに、昨日の新芽はもう双葉に成長していた。

「やっぱり、この芽、すごく成長が早いんだよ……」

 僕は四つん這いになって、双葉をまじまじと見つめる。

 こんなに成長が早いなら、やはり毎日のように水やりが必要なのかもしれない。

 シリカがしきりにここに来たがる気持ちが、なんだか分かるような気がした。

「きゅるるる……」

 まずはシリカが、耳に貯めた水を双葉にかける。

「大きくなれよ……」

 続いて僕がジョウロの水を双葉にかけた。

 双葉の上の水滴に夕陽が反射して、キラキラと赤く輝いている。

 それをじっと見つめるシリカ。その眼差しは、すごく愛しいものを見つめるように優しかった。

「この双葉にシリカを取られちゃたような感じだな……」

 なぜか植物にジェラシーを感じてしまう。初夏の風が、休日の名残を惜しむように僕の頬をなでて空へと帰っていった。

「きゅるるるる……」

 シリカの声で我に返ると、夕陽は森の向こうへと沈み始めている。もう帰る時間だ。暗くなる前に森を抜けておきたい。

 僕はシリカを抱き上げて、僕はアパートに向かって走り出した。

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