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私立白川大学付属高等学校生徒会・短編シリーズ

逆ハーレム生徒会の日常 2

作者: 楠木 翡翠

 僕は今まで、クリスマスなんてどうでもいいと思っていた。


 なぜかというと12月に入ると街は一気にクリスマスムードに入ってしまい、通行人はカップルばかり……。


 それが彼女がいない僕にとって息苦しさを感じて凄く憂鬱な時期だからである。



 *



 12月に入ったある日のこと。

 僕は今日の授業を終え、放課後は毎日通い慣れた生徒会室に行く。


「こんにちは、お疲れさまです」

「おぉ、修クン!」

「吉川くん、お疲れさま!」


 生徒会長の高橋(たかはし) 雄大(ゆうだい)先輩と書記の木沢(きざわ) (さとし)先輩が僕を出迎えてくれた。

 出迎えてくれたのはいいんだけど、彼らはクリスマスツリーに飾り付けを施していた。

 そんな楽しそうに飾り付けをしている2人を見て、


「はぁ……」


と思わず溜め息をついてしまった。


「修クン、どうした?」


 そんな僕の制服に綿をつける会長が問いかける。


「はぁ……」


 僕はまた溜め息をついた。


「溜め息ばかりしてると幸せが逃げるぞ。なぁ、聡クン」

「うん、そうだよ」

「会長に聡先輩、僕はまだ2回しか溜め息してないですよ?」

「知ってるよ」

「ひょっとして、クリスマスのことかい?」

「ハイ。クリスマスってカップルばかりが集まってて、なんか自分が取り残されたような気がしまして……」

「吉川くん、それクリぼっちだね」

「クリぼっちってなんですか?」

「うーん……。簡単に言っちゃうと今の吉川くんみたいな人のことかな……?」

「今の僕……」


と僕が言いかけた時に、


「こんにちは。わぁ、クリスマスツリーだ!」


 生徒会副会長の2年生の小笠原(おがさわら) 鈴菜(すずな)先輩がやってきた。

 僕達は彼女に挨拶(あいさつ)をする。


「なんか、街がクリスマスムードになってウキウキしますね! 私も飾り付けをやっていいですか?」


 鈴菜先輩は声を弾ませながらクリスマスツリーの飾りに手を伸ばす。


「いいよ。鈴菜クンの飾りつけスペースを確保したから」

「ワーイ! ありがとうございます! あっ、吉川くんも一緒にやりましょう? ちょうど制服に綿がついてますし」

「ハ、ハイ」

「いえいえ。よし、みんなでやろうか。ところで、鈴菜ちゃんはクリスマス、好きなの?」

「ハイ! とっても好きですよ! イルミネーションも綺麗ですし、街もそれ一色だから浮かれてしまいます」

「だよねー……。今日は副会長と会計の達也と政則はここの仕事を放置して授業終了後、そそくさと帰られちゃったしな……」

「このリア充めと言いたくなるな」

「私でしたら鞭でひっぱたきまくって、踏みつぶしたいくらいですね」

「鈴菜先輩、それはやりすぎですよ」

「だって、私、クリぼっちなんですもん! ここにいる男性陣は一緒に過ごせる人がいるんじゃないですか……!」


 突然、鈴菜先輩が叫ぶような声で泣き始めた。


「……!」


 その時、僕は何かを感じた。

 鈴菜先輩は生徒会の副会長でありながら学校のアイドル的存在だ。

 そんな彼女が彼氏がいないことを初めて知ったのだ。


「鈴菜クン、世の中に恋人がいる人がいれば、いない人もいるんだぞ?」


と、彼女にボックスティッシュを手渡しながら、会長がフォローする。


「……。ほ、本当ですか?」


 彼女はそれで涙を拭いたりしていそいそとゴミ箱に入れる。


「うん。鈴菜ちゃん、本当だよ? だから泣かないで」


 聡先輩は鈴菜先輩をそっと抱きしめるような体勢で言う。

 それに答えるかのように彼女はコクリと頷いた。

 なんだかまるで兄妹(きょうだい)みたいに見えた。


「さて、君達! 湿っぽい空気は終わりにして、ツリーに飾り付けをしよう!」

「ハイ」


 会長の一言で僕達はクリスマスツリーの飾り付けを再開した。



 *



 あれから数10分くらいが経ったのかはわからないけど、クリスマスツリーの飾り付けが終わった。


「あっ、そうだ!」

「鈴菜ちゃん、どうしたの?」

「私、クリスマスリースを持ってきたんです!」


 彼女は鞄の中からそれが出てきた。それを見た会長は、


「せっかくだから……、入口に付けたらどうだ?」


と提案した。


「そうですね。私の身長じゃ届きそうではないので……。吉川くん、ちょっと手伝ってもらってもいいですか?」

「いいですよ」


 突然の彼女の指名に僕は驚いた。

 僕達が生徒会室に出ようとした時にふと見たら、2人はなぜかニヤニヤしていた。



 *



 生徒会室前。

 廊下には僕達しかいなかった。

 すると、


「誰もいなくてよかった……」


と彼女はリースを持ってキョロキョロと周りを確認した。


「では、肩車でもしましょうか?」

「ハイ」

「では、釘を打ち付けてください」

「ハイ。この辺かな?」


 彼女はドアに釘をかなづちで打ちつける。

 その時、僕はリースを受け取り、その様子を見守る。

 身体が少しグラグラと揺れた。

 ドアと釘に少し間を開け、


「これでリースを掛けましょう」

「そうですね。リースをください」


 僕は彼女にリースを渡し、かなづちが返ってきた。


「掛かりました?」

「ハイ。降ろしてください」

「分かりました」


 僕はゆっくりとしゃがみ、彼女を降ろした。


「一発で決まった……」

「では、中に戻りましょう」


 僕がドアノブに手をかけようとした時に、


「吉川くん、待ってください」

「ハイ……?」


 僕は軽く首を傾げると、


「あの、えっと、その……。クリスマスの日は空いていますか?」


と少し照れたように僕に問いかけた。

 本当に突然の一言だった。


「空いていますが……」


と僕は動揺したように答える。


「では、クリスマスの日である12月25日、19時に白川(しらかわ)駅前で待ってます……」


 彼女はそそくさと生徒会室に戻ってしまった。



 *



 そして、時は流れるのは早く、12月25日。


 僕の腕時計で18時50分をさした時に、僕は白川駅前に到着した。


 そこは下校中の学生達(僕も含まれるけど)や仕事帰りのサラリーマン……。

 やはり、一番多いのはカップル。


 僕は鈴菜先輩を探した。

 人ごみをかき分けながら、こちらに手を大きく振っている姿が目に飛び込んできた。

 僕は彼女のところに駆けつける。


「吉川くん、こんばんは」

「こんばんは、鈴菜先輩。かなり待たせてしまってすみません」

「私も少し前に着いたばかりでしたので、大丈夫ですよ。じゃあ、行きましょうか」


 ペコペコと謝る僕に対して彼女はニコッと微笑みそれに答えた。

「ハイ」



 *



 歩き始めて数分が経っただろうか……。

 そこにはクリスマスイルミネーションや大きなクリスマスツリーがそびえ立っている。

 しかし、普通だっだら混んでいるだろうと思っていたけど、運よく前の方というイルミネーションが凄く綺麗な位置に僕達は立っていた。


「今日は本当にクリスマスですね……。イルミネーションが綺麗ですね」

「そうですね。いつも生徒会の仕事ばかりなので、少し癒されますね……」

「どうして駅で待ってた時に、僕のこと、すぐに分かったんですか?」

「なんか、雰囲気でですかね」

「凄く大ざっぱな答えですね」

「あはは……」

「そういえば、鈴菜先輩は彼氏とかいないんですか?」

「えっ……!? わ、私は彼氏は……」


 少し慌てている鈴菜先輩。


「いないんですか?」

「そ、そういう吉川くんは彼女はいるのですか?」


 また突然の質問を投げかけられた。

 僕は彼女には言いたくはなかったが、素直に言うべきだと思い、言葉を紡ごうとする。

 うん。これでいこう。


「ハイ。ここにちゃんといますよ?」

「えっ? も、もしかして……私ですか?」

「ハイ。僕が生徒会に入る時に生徒会室の前で話しかけてくれたの覚えていますか?」

「覚えてます」

「その時、この高校の生徒会に女子生徒がいることは知らなかったのです。」

「まぁ、女子でこの高校の生徒会の役員はあまりいないらしいですし」

「今までのは前振りです。ここからが本題です!」

「前振りだったんですね……。動揺は少し落ち着きました」

「僕はこの高校に入学して8ヶ月が経ち、鈴菜先輩にはたくさんのことを1から教えてくれました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

「華奢でとても可愛いあなたのことを、なんというか、守ってあげたいと思いました。鈴菜先輩、僕はあなたのことが好きです! 僕と付き合っていただけますか?」

「き、吉川くん……」

「もし、この場で答えられなかったら僕にメールを送ってください。お願いします!」

「わ、分かりました」

「では、お待ちしていますね?」

「ハイ。あっ、私はそろそろ帰らなきゃですね」

「学生寮ですか?」

「そうなんです」

「僕もそこにいますので、一緒に戻りましょう」

「ハイ!」


 僕達が暮らす学生寮は男子と女子が別々の建物なので、その近くで別れた。



 *



 あれから、数時間後……。


 彼女からメールが届いた。その内容は、


『突然の告白ありがとうございます


是非、お付き合いさせていただきますね


よろしくお願いします


鈴菜』


と。


 いつもなら、クリスマスなんてどうでもいいと思っていたけど、思い切って告白してよかったかな。


 あれだけ憂鬱だったクリスマス。


 少しだけ楽しめた短い時間。


 だから、僕はこう決意した。


 これから彼女と過ごす時間を大切にしていこう。

2014/12/25 本投稿

2015/08/09 読みやすく改行

2015/10/31 タイトル変更

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