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みのりの季節  作者: 等都
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序章

中傷的なコメントは禁止です。でも、誤字・脱字、文法がおかしい所などありましたら、お知らせください。

序章 出会いの朝



 稔莉は小さい頃から転校ばかりしてきた。

 今はもう、転校するとき寂しいなんて思わないようになった。小学校一年生のときなんて一学期に一回転校していて、ほとんどそのときの友達の記憶がない。相手の方も覚えていないだろう。

「稔莉、ちゃんと道覚えなさいよ。明後日あさってからここを通って学校に行くんだよ」

「わかってる」

 稔莉はめんどくさいと思いながら、明後日から通う学校への道を歩いていた。

「お友達、沢山できるといいわね」

 稔莉の母は学校を見上げて言った。稔莉がぼんやりしている間に、学校に着いていたのだ。桜の木とコンクリートの校舎と、簡単に乗り越えられそうな裏門と、青藤あおふじ小学校という表札を眺めて、稔莉は母に気付かれないようにため息をく。

 ――初めての土地。新しい学校。嫌ではないけど、嬉しくもないな……。

「稔莉?」

 稔莉の母は稔莉の顔をのぞき込む。

「大丈夫よ! 今までだって友達すぐできたじゃない」

 稔莉は友達のことなんて考えていないと思いながら、

「そうだね」

 と言った。

 稔莉は母のことが嫌いではなかった。むしろ好きだった。だがどうしても、頼れる存在だとは思えなかった。

「もう帰ろうよ。おなかへった」

 稔莉は早口で言った。

「そうねぇ。行きましょうか」

 稔莉とその母は家路についた。

 八分咲きの桜が、風に揺れていた。


 翌日の朝6時。

「稔莉ー! 起きなさ〜い!」

 二階に母の声が響く。

「うるさいな。起きてるよ!」

 稔莉は声を張り上げる。

「うるさいよ! 二人とも! 毎朝毎朝さあ!!」 

 稔莉の妹の明莉あかりも怒鳴った。

 稔莉はトーストのみの朝食を摂り、身支度みじたくをして、家を出た。

「行って来ます」

 早足で歩き、裏門をとおった。校庭に沢山の生徒が集まっている。校庭に行くと、先生らしき人にクラス表を渡された。稔莉は自分がどのクラスかだけ見て、クラス表を持っていた手提てさげにしまった。それ後稔莉はしばらく校舎や校庭を眺めていた。校庭の広さはまあまあだ。切りかぶの椅子と机が二組置いてある。上に薄い板の屋根には藤のつたがからまっている。今までそんなものがある学校はみたことがなかったので、稔莉は少しこの学校が楽しみになってきた。友達ができるまでは、学校の雰囲気を探るのが一番楽しい。

 そのとき、小柄で髪の長い少女が稔莉に近寄ってきた。すごく可愛い少女だ。

「おはよう!」

 あまりにも明るい、友達に話しかけるような挨拶だったので、稔莉はいぶかしみながらも挨拶をした。

「私は喜多美波きたみなみです。私も転校生だよ。よろしくね」

 稔莉は美波の自己紹介を聞いてさらに訝しんだ。

 ――今、私も転校生って言った……?

「私は坂野稔莉さかのみのりです。よろしく」

 美波は稔莉の顔を見てにやりと笑った。

「稔莉ちゃん、さては私も転校生っていうのが気になってる?」

 稔莉は図星を指されてギクリとした。

「……うん」

 稔莉は仕方なく小さく言った。

「簡単だよー。クラス表、友達と見て『離れちゃったね』とか言ってなかったからだよ」

 美波は楽しそうに続ける。

「それだけだといじめられっこっていうのもあるけど、ビクビクしたり、妙に安心してたりしてなかったし、『おまえと離れて良かった』とか言われてなかったし、前からいたのに校舎とか校庭を興味深そうに見てるにも変だからねー。クラス表ほとんど見てないしね」

 稔莉は目をみはった。少々無理矢理だが、当たったのには関心した。

「へぇ……。すごいね」

「――てことで、これから私のこと『美波』って呼んでね」

「は?」

 稔莉は美波の強引な会話についていけない。

「稔莉ちゃんの疑問を解決したんだからお代を貰うんだよ?」

 美波には全く悪気わるぎがない。

「……まあいいけど……」

 稔莉はどうもに落ちない。

 ――あれ? 疑問の原因はこの人の発言じゃなかった……?

 稔莉は、目の前でにこにこしている少女にしてやられたと思った。でも同時に、おもしろい奴だな、とも思った。

「児童のみなさん、自分のクラスの位置に移動して、整列して下さい」

 アナウンスが流れて、稔莉と美波も列に並んだ。まわりを見回すと、稔莉と美波が知っている人は、やはりおたがいしかいなかった。

 転校とは、こういうものだ。知らない土地へ移ること。新しい人たちの中に入って行くこと。稔莉はいつも思う。転校は悲しくもつらくもないけれど、不便だな。いろんなことが、と。

 どの学校でも変わらず退屈な校長先生の話を聞き流す。今日は自由な順番で並ぶことになっているから、稔莉と美波は前後に並んだ。稔莉の後ろで美波は、

「太陽、出ないかなあ」

 と呟いた。

 稔莉は、校長先生の髪の毛が少ないテカテカした頭を見て言ってるんだろうな、と思った。

「校長の頭ぁ……」

 ――やっぱり。

 稔莉は下を向き、肩を震わせて笑った。

 ――本当に変な奴……。

 校長先生の話が終わると、クラスの担任の先生の発表があった。稔莉と美波は5年1組で、クラスの担任は内山先生という女の先生だった。話し方がのんびりしていていて優しそうな40代のおばさんだ。

 稔莉はもっさりした男の先生や、暑苦しい女の先生じゃないことにひとまずほっとした。そういう先生は馬が合わないのだ。小学校は先生との相性で成績が決まるようなものだから、いい先生じゃないと困る。

 稔莉がそんなことを考えている間に、校長先生の話は終わっていた。

「児童のみなさんはそれぞれの先生の指示に従って下さい」

 とマイクを持った先生が言った。

 内山先生はみんなを見回して、ゆっくりと言った。

「4月といっても曇ってて風が冷たいね。先生は教室に入りたいです。どうですか?」

 生徒を見下ろさない言葉遣いをするこの先生に稔莉は好感を持った。

 ――こういう先生、好きだ。すっごい馬が合いそうな気がする。

 稔莉は、わくわくした。いいことが沢山起こるような予感がする。

 こうして、いい予感に満ちた、新しい学校での生活が始まった。

 


 

 

 



この小説には、私自身の経験も多く含まれています。

転校生の思いを、これから伝えていけたらいいな、と思っています。なかなか更新できないと思いますが……。

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