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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第15章 壬生浪士組で過ごす数日
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積もる疑問

 


 芹沢さん達が稽古場を離れた後、稽古場の端で休憩していた私へと新見さんが近付いてきた。


 新見さんはゆっくりと、私の隣に腰を下ろす。



「大丈夫……ですか? 少し無理をさせてしまったようで、申し訳ありませんね。中々筋の良いお嬢さんだったもので……つい、熱が入ってしまいました。芹沢局長も感心していましたよ」


「そりゃあ、どうも。でも……手加減してもらっていたのに、全く歯が立たないなんて……不甲斐ない……な」


「剣術を始めて間もないお嬢さんに簡単にやられてしまったら、それこそ私が不甲斐なくなってしまいますよ。そもそも、剣術は一朝一夕で身に付くものではありません。筋が良いのですから、是非とも稽古を積んで技を高めて頂きたいですね」


「こりゃあ手厳しいなぁ……でも、努力はしますよ。だって……私は、仲間を護るって決めたから」



 新見さんは一瞬だけクスリと笑うと、すぐに真剣な表情となり私へと向き直った。



「貴女は……長州のお嬢さん、でしたね?」


「そう……だけど……」



 私が長州の者だから何かあるのだろうか?


 今はまだ政変前……特に問題などないはずだが。


 新見さんのその真剣な眼差しに、少しだけ不安を覚えた。



「貴女は、どういった方々と行動を供にしているのですか? ……いえ、深い意味はないのですよ。ただ……一期一会と言うでしょう? 折角ですから、貴女の事を知りたいと思いましてね。教えて頂けますか?」


「……まぁ、良いけど」



 ペラペラと喋りだしたその様子に少しだけ不信感はあったが、特段たいした情報ではないので話して聞かせる事にした。



「いつも一緒に居るのは、高杉晋作と久坂玄瑞の二人。晋作は長州のお坊ちゃんなだけあって、いつもやりたい放題だし……玄瑞は医者のくせに、政治が大好きだし……二人とも仲が良くて優秀なのに、真逆の性格なのよね。変でしょう? でも共通している事もあるわ。二人とも……過保護すぎるのよ!」


「久坂……玄瑞」


「新見さんは、玄瑞を知っているの?」


「いえ……名前だけは伺った事がありますよ。長州の優秀な若者が、京で活躍していると……私が知るのは、それくらいですけどね。貴女は、そんな素晴らしい方々と供にしているわけですか……私などが話し掛けるなど、畏れ多い事。時に……以前どこかで、お会いしませんでしたか?」


「私が……新見さんと?」



 私の記憶では、間違いなく初対面だ。


 何故そんな事を尋ねるのだろうか?


 不思議に思いながらも、私はゆっくりと首を横に振った。



「そう……ですよね。ですが……貴女とはいずれまた、お会いする事でしょう。さて……息が整ったならば、戻りなさい。私は先に失礼しますよ」



 私に口を開く間も与えず、新見さんは稽古場を後にした。


 私が新見さんとまた会う。


 一体、どういう意味なのだろうか?


 疑問が頭の中に留まった。







「此処に……居たのか」



 聞き覚えのある声に顔を上げると、今一番会いたくない人物の姿があった。


 まだ心の準備が出来ていない。


 それが私の本音だ。



「総司……どうして……此処に?」


「そんな顔をするなよ。まるで、僕には会いたくなかったって顔をしてる……そりゃあ、悪かったと思っているよ。でも……仕方がなかったんだ。体が勝手に動いちまったんだから」


「まるで猪ね。お蔭で私は屋敷に帰れなくなったのよ? いい迷惑よ」


「悪かったって……土方さんから散々説教されて、僕も参ってるんだよ。まぁ……こっそり抜け出して来たんだけどね」


「そんなの……自業自得じゃない」



 ケロリとしている総司に腹を立てた私は、わざと冷たくあしらい頬を膨らませる。


 そんな私に、総司は何度も何度も謝った。



「団子に餡蜜に金平糖……それから、葛餅」


「……何が言いたいのよ」


「全部驕るから! だから……ごめん!」



 全部……驕る?


 その言葉につい、頬が緩む。



「……全部……だから、ね。一つたりとも負けてやんないわよ?」


「あ……あぁ、勿論。武士に二言は無いからね」


「仕方が無いから、許してあげる。でも……此処から出るのは無理よ。監視が厳しいもの」


「それはもう考えてある。心配しなくて良い」



 そう言うなり満面の笑みを見せた総司は、私の手を引き駆け出した。


 抜け出した事が土方さんにバレたら……きっと、相当怒られるだろう。


 食べ物に釣られておいて今更だが、手放しで喜ぶ事は出来なかった。



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