芹沢一派
色々と考えたものの、結局のところ答えが出る事はなかった。
総司がこの部屋に来る事もなく、時間だけがただただ過ぎて行く。
どうして総司は私をここに連れてきたのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。
「邪魔するぞ!」
朗らかな声と共に現れたのは、芹沢さんと見知らぬ男達だった。
芹沢さん達は、私の横に並んで座る。
「お前さん……もう戻って来ちまったのか。聞くところによると、沖田君が連れてきたようだが?」
「そうみたい……ね。私もが何だか……気付けば此処に居たんだもの」
「そりゃあ、災難だったな。あぁ、そうだ……コイツは新見。新見錦と言って、ここの局長だ」
「局長? 局長は近藤さんじゃないの? 筆頭局長が芹沢さんで、近藤さんが局長だった気がするんだけど……」
「近藤君も局長だが、この新見も同じ局長なのだよ。お前さんは数日滞在するらしいな。顔を会わせておこうと思って、連れてきたんだ」
「……そう」
「それから、新見の隣が平山五郎。その隣が平間重助で、最後が野口健司だ。皆、気の良い奴ばかりだからな。見知っておいてくれ」
芹沢さんからの紹介が終わると、私と新見さん達は互いに会釈した。
「それより……長州のモンには、お前さんが怪我をした事になっているらしいな。見たところ……元気そうだが、こりゃあ一体どういう事だ?」
「ご覧の通り、私は元気よ。怪我なんて何処もないわ。そうね……きっと、体裁なんじゃない?」
「体裁?」
芹沢さんは、意味が分からないといった表情を浮かべている。
「総司が私を連れてきたもんだから、その理由を後から取って付けたのよ。土方さんが言ってたもの。そんな事が知れたら、此処は潰されちゃう……って」
「そりゃあそうだ。天下の長州様だもんな。昨日、今日できたような小さな組とは、訳が違う。流石は策士の土方君だな」
「笑い事じゃないわよ。こっちは、屋敷に帰れなくて困ってるのよ?」
笑いながら言う芹沢さんの姿に、私は頬を膨らませる。
何のために連れてこられたかも分からず、総司が私の元を訪れる事もない。
屋敷にも帰れずで、私からしたらいい迷惑だ。
「悪ぃ、悪ぃ。それにしても、気の強ぇ面白い女だな。まぁ、そうだったな……お前さんにとっちゃあ、災難なんだもんな。そうだ……お前さんは、俺が言った事を覚えているか?」
「言った……事?」
芹沢さんが私に言った事……一体、何の話だろうか?
私は首をかしげる。
「何だ、忘れちまったのか? お前さんの力量を見たいと言った話だ。どうだ、思い出したか?」
「あぁ、その話ね! 今思い出した。力量って言われても……私は、そんなに出来る訳じゃないけど……それでも良いの?」
「勿論だ。お前さんとて、こんな所に居ても暇だろう? ちっとばかし、この新見の相手をしてやってくれ」
芹沢さんの何気ない一言に、私は慌てふためく。
いくら何でも……切紙の私が、局長の新見さんと渡り合える筈がない。
「む……無理だよ! 局長相手じゃ、一瞬で負けるもの!」
「それでも良いさ。新見とてお前さんを相手に、本気でやろうなんざ思わねぇよ。俺はお前さんの太刀筋が見たいだけだからな」
「で……でも……」
そうは言っても、無理なものは無理だ。
断ろうと、私は口を開く。
「芹沢さん……あのね」
「そんな面ぁしてねぇで、さっさと行くぞ!」
「えっ!? ちょ……ちょっと! 待ってよ!」
私の訴えが芹沢さんに届く事は無く、私は引っ張られるようにして立ち上がらせられる。
芹沢さんは私が立ち上がったのを見ると、生むも言わさず、私をそのまま引き摺るようにして部屋の外へと連れて行った。
何て強引な……
私の表情とは裏腹に、芹沢さんは嬉々とした表情を浮かべていた。




