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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第14章 壬生浪士組
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奪われたモノ

 

 

 無理矢理、晋作の部屋へと連れてこられた私は、不機嫌な表情を隠す事なく、晋作の目の前に座っていた。


 私のその態度に、晋作は困ったような表情を浮かべている。



「おい……いい加減、何があったか話せ。そもそも、共に出掛けた玄瑞はどうした?」


「玄瑞なんて知らないわよ。どーせ今ごろは、贔屓の芸者とでも遊んでるんじゃないの?」


「馬鹿言ってんじゃねぇ! アイツがお前を放って、芸者なんぞと遊んでいるわけがねぇだろうが! 訳わかんねぇ事を言ってねぇで、さっさと全部話しやがれ」



 晋作の言葉に、私は苛立ちを覚える。


 鼻の下を伸ばしていた玄瑞の事に対してもそうだし、土方サンの無責任な一言に対してもそうだ。


 どちらにどの位腹を立てているのかは自分でもよく分からないが、とにかくイライラする。



 晋作は何も知らないクセに……



 これは、晋作への単なる八つ当たりなのかもしれないが、今の私には他人を思いやる余裕など全く無い。



「黙りかよ……まぁ良い。ならば、順を追って説明してもらおうか? まずは……そうだな、何故お前は玄瑞と離れた?」


「そんなの……言いたくない」


「それじゃあ話が進まねぇじゃねぇか」



 晋作は頭を掻きながら、面倒臭そうに言った。



「お前が一人で屋敷に戻って来たという事は……だ。今頃あの馬鹿は、血相かいてお前を探してんじゃねぇのか?」


「っ……知らないわよ。玄瑞なんて、せいぜい京美人と楽しくやっていれば良いのよ。美女に囲まれて、鼻の下を伸ばしているような人が、私なんかを探したりしないでしょうよ」



 私の一言に、晋作は眉をひそめる。



「お前……それ、本気で言ってんのか?」


「……そうよ、本気で言ってるのよ! だとしたら、何だって言うのよ?」


「お前は、本当に何も解っちゃいねぇな……もう良い。お前は、そこでしばらく頭ぁ冷やしてろ!」



 晋作は吐き捨てるようにそう言うと、私を置いて部屋を後にした。








 頭を冷やせって……何で私が?


 広い部屋に一人取り残された私は、晋作の言葉に小さく反発する。


 悪いは玄瑞じゃない。


 私と一緒に居るのに、あんな風に他の女性に気を取られるなんて……思い出すだけでも腹立たしい。


 なんだか、心の奥がモヤモヤする。



 でも…………



 私を追って来た時の玄瑞の表情を、ふと思い浮かべる。


 晋作の言う通り、玄瑞はまだ私を探しているのだろうか?


 私が玄瑞と離れてから、かなりの時間が経ってしまっている。



 もしも、本当にそうだとしたら……



 そう考えた時、私の心の中は焦燥感で一杯だった。


 つい先程までは玄瑞に対する苛立ちで一杯だったのに、何とも変な話だ。


 私は晋作宛に数行の書き置きを残すと、玄瑞を探す為に屋敷を後にした。










 あれから……どれ程、探し回っただろうか。


 方々を歩いたというのに、私は未だに玄瑞に会えていない。


 京の街は広すぎる……そう思い、諦めかけたその時の事だった。



「やっと……見付けた」



 聞き覚えの声と同時に手首を掴まれ、私は反射的に振り返る。



「な……んで?」



 期待していた人物とは異なる者の存在に、私は思わず掴まれたその手を振り払おうと試みた。


 しかしそれは想像以上に強い力で、振り払う事など到底叶わない。



「ねぇ、どうして逃げようとするの? 折角……会えたのに」


「そ……うじ」


「そんな顔するなよ。芹沢サンから話を聞いて、お前の事だって思ったんだ。芹沢サンは、その娘はウチの門弟で、しかも長州の女だって言ってたからさ。だから……すぐに屯所を出て、探してた。あのさ……こんな所じゃ、なんだから……とりあえず、行こう」


「行こうって……何処に?」


「そんなの、屯所に決まってんだろ? 面倒な奴等に見つかる前に……ほら、行くよ」



 総司は、私をとにかく屯所へと連れて行こうと、力任せに引っ張ろうとしている。


 私はそれを、必死に食い止めた。



「ま、待って! 私は一緒には行けないよ。今は、ね……はぐれた仲間を探していたの。玄瑞は……多分、今も私を探してる。だから……」


「そんなのは、どうでも良いよ。だって、土方サンの言う通り、奇跡が起きたんだからね。この広い京の街で、お前はその仲間でなく僕と先に会ったわけだ……きっと、これも奇跡だろ?」


「奇跡だとかそういう事を言ってるんじゃなくて……私は屋敷に戻らなきゃだから、屯所へは行かないって言ってるの!」


「屋敷になんて戻らなくて良い。仲間を探す必要もない」


「えっ!?」



 突然冷たい表情へと変わった総司に、私は言い知れぬ恐怖を感じる。



 屋敷に戻る必要も、玄瑞を探す必要もない。



 それは本気で言っているのだろうか。


 訳の解らない言葉に困惑している中、私の身体には衝撃と共に鈍い痛みが走る。



「……ごめん」



 薄れ行く意識の中、私が最後に目にした物は……総司の悲しそうな表情だった。




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