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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第13章 京での日々
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京屋敷での事件

 

 

 2月から3月に暦が切り替わる頃、私達は京へとたどり着いた。


 京のこの華やかな街並みは、いつ見ても良いものだ。


 早く街へと繰り出したかったのだが、まずは京の長州屋敷へと向かった。








「京も久方ぶりだ……やはり、京の屋敷の方が落ち着くな」


「そういえば、玄瑞と逢ったのもここだったよね。あの時は、大変お世話になりました」


「お前は、この屋敷で拾われたんだったか……何にしろ、玄瑞がこんな性格でなければお前は生きては居るまいよ」


「まぁ……そうだな。他の者に見付かって居たならば、間者と疑われ詮議の末、最悪は斬り捨てか……」


「うわっ! 怖いなぁ……長州の人って、そんなに野蛮なわけ!?」


「長州がどうこうじゃねぇさ。多藩だろうと、同じ事さな。……ん?」



 屋敷にの門に着くなり、晋作は立ち止まる。


 何か気になるものを、見つけたのだろうか。



「どうしたの?」


「隣に医者などあったか? 以前には無かった様な気がするが……」


「あっ! じゃあさ、私が様子を探って来るよ。どうせ二人は、大事な話があるんでしょう?」


「駄目だ。お前はどうしてこうも、興味をそそられるとすぐに探りたがる? 好奇心旺盛なのは構わねぇが……俺らの目の届くところでやれや」



 晋作は深い溜め息を一つついた。



「大丈夫だって。すぐに屋敷に帰るから!」


「駄目だ! そんなに行きたけりゃ、後で付いて行ってやるから、庭で少し待て。京の屋敷の庭は、お前も好きだと言っていたじゃねぇか」


「晋作の分らず屋!」



 どうしても許可してくれない晋作に、私は苛立った。


 私と晋作は、ついには門前で言い合いを始めてしまう。


 言い合いに夢中になっていた私達は、玄瑞が屋敷に入って行った事にすら、気付きもしなかった。



「美奈、残念だが……隣には、もう誰も居ないそうだよ」


「えっ……誰も居ないの!?」


「フン……そりゃあ好都合だ。誰も居ないならば、探る必要もあるまいよ。ほらさっさと、屋敷に入るぞ。医者だか何だか知らねぇがなぁ……そんな得体の知れねぇ者のところに行かせて、何かあったら敵わねぇ。コイツが別のモンに興味を示す前に、屋敷に行くに限る」


「いや……隣に居た者は、得体の知れない者ではないさ。彼はな、新たに藩医となり……今では長州の医院総督を務める者だそうだ。名を、所郁太郎……中々、腕の良い医者だと言っていたよ」


「藩……医? 医院……総督?」


「そいつが気になるならば、中で話をすりゃあ良い。おい、行くぞ!」



 私は、不機嫌そうな表情を浮かべる晋作に引きずられるようにして、屋敷に入った。






 屋敷に入るなり、私はある一室で待つように言われた。


 庭までならば出ても良いが、絶対に屋敷からは出るなと晋作には念を押されている。


 外はまだ少し肌寒いが、こんなに広い部屋にポツンと何時間も居るよりは良いだろうと思い、私は庭へと出る事にした。






「まったく……晋作は過保護すぎるのよ。今や玄瑞の上を行くわね。どうして、あんな風になっちゃったのよ」



 池を泳ぐ色鮮やかな錦鯉を眺めながら、私はポツリと呟いた。



「屋敷に小娘が忍び込むとは……この屋敷の警備はどうなっている」



 背後での聞き覚えの無い声に、思わず振り返った。


 気難しそうな顔をした男が、私を眺めている。



「誰?」


「お前こそ何者だ? どうやって屋敷に入り込んだ? ここは長州屋敷。お前の様な娘が来る場所ではない」



 男は私の腕を掴むと立ち上がらせ、ヒョイっと抱え上げた。



「ちょっ……ちょっと、離してよ! 晋作っ! 玄瑞っ! 誰でも良いから、早く助けてってば!」


「っ……暴れるな!」


「暴れるに決まっているでしょう? 馬鹿な事を言わないで。それに……屋敷内で私を拐おうなんて、良い度胸ね。すぐに、晋作や玄瑞が助けに来るんだから……って、ちょっとアンタ……どこ触ってんのよ!」


「触っている訳ではない。そもそも、お前が暴れなければ……」



 長州藩邸で人拐いにあうなんて……双璧はなにやってんのよ。


 早く助けに来なさいよ!


 とにかく誰かに気付いてもらおうと、私は必死に騒いだ。

 


「ぎゃあぎゃあ、ぎゃあぎゃあ……うるせぇんだよ、馬鹿女が!」



 勢い良く襖が開くと同時に、晋作の声が辺りに響き渡る。


 晋作は、私が一人で騒いでいるとでも思ったのだろうか。


 見た事も無いような怖い顔で、思い切り怒鳴られてしまった。


 しかし、不審な男に担ぎ上げられている私を見るや否や、事態を把握したのか晋作は素早く刀を抜いた。



「……この屋敷内において美奈を拐おうなんざ、ふてぇ野郎だなぁ。何処の者かは知らねぇが……覚悟は出来てんだろうな?」


「まっ……待て、私は!」


「この期に及んで、命乞いなんざ……聞かねぇよ」



 男を目掛けて斬りかかる晋作。


 助けに来てくれたのは良いけど……それ、私も危なくない!?


 私……人拐いに抱えられてるんですけど!


 このままだと、私も一緒に斬られやしませんか?


 晋作に待ったをかけようと口を開いた瞬間、目の前に何者かが割って入ってきた。


 その人物は、晋作の剣を受けている。



「晋作……刀を……収めなさい!」


「か、桂サン!? どうして?」



 突然現れたのは、桂サンだった。


 一瞬の出来事に目を白黒させていると、いつの間にか背後に居た玄瑞に私の身体は奪われる。



「すまぬが……返してもらうぞ」


「玄……瑞」



 何が何だか訳が分からない。


 どうして桂サンは、人拐いを助けたのだろうか。


 しかし今はそんな事よりも、助けてもらえた安心感の方が格段に勝っている。



「怖い思いをさせてしまったな……もう、泣かずとも良い」



 玄瑞は、まるで小さな子をなだめるかのように、優しく私の背中をさすった。


 


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