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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
ほのぼの番外編
76/131

男たちの争い ―中編―

 

 

 

 次なる争いは……




 酒豪バトルだ。




 誰が一番、お酒に強いかを決める……らしい。




「良いですか? 掛け声と共に、杯を飲み干すのですよ。最後まで残った者を勝者としましょう」


「なぁ……桂サン、勝ったら何か褒美は無いんですか? 褒美がある方が、絶対に盛り上がりますよ?」


「俊輔の言う通りですねぇ……それでは、敗者たちは勝者の望みをそれぞれ一つだけ叶える事としましょうか。とは言え、命に関わる事はいけませんよ? あくまで、良識の範囲内ですからね?」


「良し来た! さすがは桂サン。俄然やる気が出ましたよ」



 勝者は、敗者の皆に一つずつ願い事を聞いてもらえる。


 このルールに、私も当然やる気を出す。


 みんなに、どんな願い事をしようか……私の胸は、そんな淡い期待で一杯だった。



「それでは、行きますよ? 一つ……」



 桂サンの掛け声に、私たちは杯を飲み干した。


 その後も、二つ三つと掛け声は続いていく。



「もう……駄目……みたい」



 五つ目だか六つ目だかで、私は誰よりも早く音を上げた。



「まったく……お前は、また無理をして。致し方ない、少し横になって休んでいろ」


「ん……玄瑞……ありがとう」



 私は玄瑞の膝を枕にすると、横になりながら皆を眺めた。



「やはり美奈が一番に脱落ですか……予測通りですね。しかし、決まりは決まりです。貴女にも、約束は果たして頂きますよ?」


「なっ!? コイツは女です。何も、数に入れずとも良いではありませんか」


「フフ……玄瑞はさぞや心配なのですね。ですが、賭けは賭け……決まりは決まりなのですよ。どうしても、と言うなら玄瑞が勝てば良いでしょう?」


「っ……分かりました。必ず勝つと約束しましょう」



 しばらくの中断の後、八つ目からまた再開した。


 私は七杯で倒れたのか……


 それにしても……玄瑞は大丈夫なのだろうか。


 あまり、お酒に強くはないイメージなのだが……


 私は玄瑞の顔を見上げた。



「っ……俺も限界のようだ……」


「私も……そろそろ……」



 十三杯目で、武人と聞多が勝負から降りた。



「何ですか? 長州男児ともあろう者が、情けない。玄瑞は勿論、まだまだ行けますよね?」


「っ……当然ですよ。負けられませんからね」


「良い返事です。貴方の気概は、認めましょう」



 気丈にそう言う玄瑞だったが、辛そうなのは明白だった。


 それに引き換え、他の四人は顔色一つ変えない。


 こんなキツい日本酒なのに……彼らは余程、強いのだろう。



「っ……天井が……回る……」



 十五杯目で俊輔が倒れ込む。


 顔色一つ変えなかった筈なのに、これは意外だった。



「私も……そろそろ……」



 二十杯目で脱落したのは、狂介だった。



「結局残ったのは、双璧と私ですか。晋作はともかく、玄瑞は無理し過ぎではありませんか? そろそろ、止めておきなさい」


「いえ……まだ、大丈夫ですよ」


「貴方も中々、強情ですねぇ……」



 桂サンは、苦笑いを浮かべている。



「さて……二十一」


「っ……」



 玄瑞の苦しそうな様子に、私は無性に心配になる。


 上体をゆっくりと起こすと、玄瑞の着物の袖を掴んだ。



「もう……止めた方が良いよ! どうして、そんなに無理をするの? こんなの、玄瑞らしくない」


「負けるわけには行かないからだ。頼むから止めないでくれ」


「っ……桂サン! もう止めようよ……」



 私は涙目で桂サンに訴える。



「止めませんよ。そもそも、男の意地に水をさすのは感心しませんねぇ……」


「でも!」


「続けましょう。私はまだ大丈夫ですよ」



 必死の願いも虚しく、酒豪対決は続行してしまう。


 玄瑞が倒れたらどうしよう……そんな不安ばかりが過る。



「飲んだ、飲んだ! 俺ぁもう腹が一杯で敵わねぇ……この先は、チビチビやるとするかねぇ」


「えっ!? 晋作は、脱落してもまだ飲むの? というか……まだ飲めるの!?」


「まだまだ飲むさ。だが、この先は俺の好きなように飲みてぇからな……勝負からは、降りるのさ」



 晋作はどれだけ強いのだろう。


 何だか男らしさを感じる。


 晋作が勝負から降りた事で、桂サンと玄瑞の一騎討ちとなった。


 晋作以外の他の皆は、既にスヤスヤと寝息を立てていた。



「っ……」



 ちょうど三十杯目。


 ようやく勝敗が決した。



「玄瑞!」



 崩れ落ちたのは、やはり玄瑞だった。



「やはり、私の勝ちですね。まったく……玄瑞は無理をして……」


「本当に馬鹿なヤツさな。本来は酒なんざ、たいして飲めねぇクセに……桂サンに挑もうなんざ、正気の沙汰とは思えねぇなぁ」


「これも……玄瑞の愛情でしょうね。若さとは、良いものです。さて……玄瑞を部屋に運ばなくてはなりませんね。晋作、少し手伝って下さい」



 桂サンと晋作はゆっくりと立ち上がると、両脇で玄瑞を抱えた。


 体格の良い玄瑞は、二人で運ぶのがやっとと言った感じだ。


 私は二人よりも先に広間を出ると、玄瑞の部屋に先回りし、布団を敷いた。



「さてと……美奈への願い事は、今宵使おうとしましょう」


「私は……何をすれば良いの?」


「フフ……それくらい、察しがつくでしょう? それとも、言わなければ分かりませんか?」



 玄瑞を寝かせた桂サンは、私の髪に触れながら微笑む。



「桂サン! いくら、アンタとて許されない事もある。そんくれぇ解ってんだろ!?」



 晋作は咄嗟に、桂サンの手を掴んだ。



「心外ですねぇ……晋作は一体何を想像したのです? この私が、長州の姫君を傷付けるような事をすると思いますか?」


「っ……それは」


「命に関わる事は駄目だと、はじめに言いましたよね? ですから、そういった心配はまずありませんよ。それに、美奈とて一晩くらい寝ずとも、死にはしないでしょう?」


「なっ!? アンタ、自分が何言ってるか解ってんのか? 一晩って……」



 晋作は桂サンに掴み掛かると、声を荒げた。


 そんな晋作の姿に、桂サンは声をあげて笑い出す。



「双璧の姫君とは、よく言ったものですねぇ。玄瑞も晋作も……美奈を守る為ならば、己の身すらいとわない、といった所でしょうか? これ程までに、双璧を夢中にさせるとは……貴女は実に面白い」


「笑い事じゃあ、ねぇだろうが! 事と次第によっちゃあ……例え、桂サン……アンタが相手だろうと……」


「フフ……晋作もあまり、感情的になってはなりませんよ? 少しからかい過ぎた事は、謝りましょう。ですが、何も案ずる事はありません。美奈への私の願い事は……今夜一晩、玄瑞をしかと懐抱することですよ」



 桂サンの答えに、私も晋作も思わず拍子抜けしてしまう。



「そんな事で……良いの?」


「おやおや、それでは物足りませんか?」


「物足りない? 私が?」



 首をかしげる私を見て、桂サンはクスクスと笑う。



「いいえ、何でもありませんよ。忘れてください。安易に姫君に手を出そうものなら、双璧に斬られかねませんからね」



 桂サンはそう言うと、晋作を従え部屋を後にした。





 




 





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