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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第12章 弔い
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浪士組

 

 

 

 寒さ厳しい真冬の、とある日の事だった。


 私は、聞多や狂介と江戸の街に繰り出し、晋作に頼まれた買い物を済ませ、藩邸に帰宅する。


 余ったお金で好きなものを買ってきて良いと言われ、大量にお団子を買ってきた私は上機嫌だった。


 屋敷内に入ると、急いで広間へと向かう。







「ただいま! お使い行ってきたよ。って……あれ? 武人に……桂サン!?」



 珍しい来客に私は思わず、お団子の入った紙包みを落としてしまう。


 桂サンはその包み紙を上手く手で受けると、笑顔で私に差し出した。



「おっと……危ない。急に訪れてしまって、驚かせてしまいましたね。見ない間に、随分と可愛らしくなって……晋作や玄瑞も過保護になるのも頷ける」


「そんなぁ……」


「桂サン、こいつに世辞なんざ要るまいよ。それに、俺らは過保護になっているつもりは更々ねぇさ。馬鹿な事を言わねぇでくれ」



 晋作は不機嫌そうに言うと、私から奪うようにしてお使いの品を取った。



「おやおや、晋作は素直でないですねぇ。買い物に二人も護衛を付けるなど、私には余程大切にしているように見えますよ?」


「双璧の姫君だからですよ。高杉サンも久坂サンも……美奈が街に出る時はいつも、二人くらいは護衛を付けさせているんですよ」


「双璧の……姫君?」




 俊輔の言葉に、桂サンは首を傾げる。



「俺らの中でのコイツの通称ですよ。高杉サンと久坂サン……双璧の寵愛を受ける女ですからね」


「……成る程。俊輔の言う事は分かりました。ですが双璧は二人、彼女は一人。これでは、争いになりませんか? 二人で一人の女性を取り合うなど……」


「桂サンまで俊輔の言葉を真に受けてどうする? 悪ぃが、俺らはそんなんじゃねぇよ。だいたい……見てみろよ! 自分の事を言われてやがんのに、コイツは……色気より食い気だぞ!?」



 晋作の一言で、一斉に私の方へと視線が集まる。


 女中が持ってきてくれたお茶と、包み紙の中のお団子を両手にしたまま、私は皆を見渡した。



「フフ……可愛らしいではありませんか。無垢なもの程、大切に扱いたくなる気持ちは私にも何となく解りますよ」


「だから、そんなんじゃねぇよ」



 晋作は、桂サンからプイッと顔を背けた。



「そういえば、桂サンは何の用で来たの? 確か京に居たはずだよね?」


「お前……桂サンに何ていう口のきき方を!」


「良いのですよ……武人。私も晋作たち同様、こんな彼女を快く思っているのですから。さて、姫君の問いに答えねばなりませんねぇ」



 桂サンは武人を制止すると、何だか楽しそうに言った。



「何から話しましょうかねぇ。年明け前に会津の松平容保が、千もの軍勢を率いて上洛しました。幕府が京に守護職を置く事を決めたそうです」


「京都……守護職。京の……取り締まりね?」


「おや、ご存知でしたか? では、出羽国の清河は分かりますか?」


「知ってる……清河八郎は……新選組の元になった組織を作ったんだもの。その名を知らない筈が無いわ」



 私はお団子をそっと置くと、真剣な表情で答えた。



 新選組好きならば誰もが知る名前……それが、庄内藩の清河八郎だ。


 彼が居たからこそ、後の新選組があるのだ。


 時代はもう、こんな所まで来ていたのか……


 英国公使館の焼き討ち以来、これと言った大事件も無く、双璧や長州の仲間たちの間で守られながら、平和ボケした日々を送っていた。


 だが、この先はそうも言っては居られない。




「で……そいつらが、どうしたんだ? まぁ、何にせよ……徳川の考える事ぁ、どうせロクでもねぇ事なんだろうけどなぁ」


「ロクでもない事かは分かりませんけれど……なんでも、先日隊士の募集があったそうですよ」


「隊士だぁ? そりゃ一体、何の部隊なんだ?」


「徳川の上洛に先駆けて京の治安を守る事。そして、その警護が任務だそうです。これがまた、破格の待遇だそうで……小石川の伝通院には、二百から三百もの浪士が集まったようですよ」


「そんなにも厚待遇ならば、俺も行ってみるとするかねぇ?」


「晋作! 私は貴方の冗談に付き合うつもりは、毛頭ありませんよ。会津の上洛と言い、此度の浪士集めと言い……私には何だか、気になるのです。いえ……特にこれといった確信はありません。ですが……言い知れぬような……嫌な予感がしてならないのです」



 桂サンは、何かを漠然と感じ取っているようだった。


 それが見てとれる程に、不安そうな表情を浮かべている。


 私が口を開こうとしたその時、晋作はそれを遮るかのように言葉を発した。


 絶対にわざとだ……これはきっと、何も言うなという事なのだろう。



「そういえば、桂サンが好みそうな酒を手に入れたんだ……今宵は桂サンも、一杯やっていくだろう?」



 突然晋作は話題を変えると、私から受け取った包み紙を開け、酒瓶を桂サンに見せた。



「これはまた、上物ですね。折角ですから、ご馳走になりましょう。ところで……玄瑞はどうしました?」


「ここのところアイツは連日、昼夜問わず会合か何かに出掛けてやがる。だが……そろそろ戻る頃合いだろうよ」


「そうですか……でしたら、玄瑞が戻り次第始めましょう」



 私達は、お団子を食べながら玄瑞の帰りを待った。


 今日は、聞多や俊輔や狂介、それに武人と桂サンが居る。


 これに晋作や玄瑞が加わるので、八人という大人数での宴だ。


 きっと今頃は、台所では女中さん達が忙しなく夕餉の支度をしている事だろう。





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