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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第10章 最も危険なテロリストたち
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新たな仲間




 しばらくの旅路を経て、私達は無事に晋作の元へと辿り着いた。


 江戸の長州屋敷は、想像以上に大きい。


 あちこちに、こんな御屋敷を持っていては、維持費が大変ではないのだろうか。


 その佇まいに圧倒された私は、門の前で立ち尽くす。






「よぉ、久しぶりさなぁ……お前らも、変わり無い様で何よりだ」


「っ……久しいなどと、呑気に言っている場合では無いのではないか? 晋作には、聞きたい事が山程ある……今宵は付き合ってもらうぞ」


「ほぅ……お前からの誘いたぁ、嬉しいねぇ。どうせそう言うと思って、丁度良い料亭を見繕っておいた。今宵は、伊藤らも呼んで酒宴といこうじゃねぇか」


「フン……私は、遊ぶつもりは毛頭無い。宴でなく、談義である事を忘れてくれるな?」


「はいはい……相変わらずお前は固ぇなぁ」



 玄瑞の言葉に、晋作は苦笑いを浮かべた。



「ん? お前……」


 晋作は何かに気が付いた様な表情をすると、私の手を取り引き寄せる。


「なっ……何よ!?」


「お前……変わったなぁ」


 私を品定めするように眺めると、晋作はそう呟く。


「変わったって、何が?」


「クク……それは今宵、宴の席にて答えてやるさ。まぁ、その前に聞きてぇ事があるからなぁ」


「聞きたい事?」


「そうさなぁ……その刀の事も含めて、色々さな」



 その言葉に、私は思わずドキッとする。


 この刀の……事?


 やっぱり刀を貰って来るなど、マズかったのだろうか。



「安心しろ。別に取り上げたりはしねぇさ……まぁ、誰に貰ったモンかくれぇは気になるがな」



 晋作は、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。


 





 夕餉前まで藩邸にて過ごし、夕方になると晋作の言っていた料亭へと足を運んだ。


 やっぱり試衛館での酒宴とは違い、晋作達の酒宴は豪華だ。


 久しぶりの華やかな雰囲気が、何だか落ち着かない。


 晋作と玄瑞に、伊藤サンと井上サン、それに山縣サン……これはいつものメンバーなのに、久々過ぎて居心地の悪ささえ感じてしまう。


 酒宴が始まって早々、見知らぬ男たちがやって来た。



「遅くなってしまって、すまない」



 部屋に入ってくるなり、男の一人が私に目をとめる。



「高杉、この娘は一体なんだ?」


「コイツは美奈。玄瑞の元で医術を学んでいるが、剣術も多少は使える。清国での視察も共にした俺らの同志だ。何も案ずる事はあるまいよ」


「そうか……俺はてっきり、お前の妾かと。……これは失礼。俺は赤禰 武人だ」



 赤禰サンは私に頭を下げた。


 私も、それにつられて頭を下げる。



「美奈には他の者も紹介せねばな」



 玄瑞はそう言うと、他の男達にも自己紹介をするように促した。



 今日のメンバーは伊藤サンや井上サン、山縣サンの他に5名の男達が居る。


 山尾庸三サンは有名な長州ファイブの一人だし、先程の赤禰サンは奇兵隊の総管を務めた人だ。


 寺島忠三郎サンや有吉熊次郎サンは禁門の変で、玄瑞と共に自刃した人だと聞いている。


 品川弥二郎サンは、桂サンと共に薩長同盟の締結に尽力し、維新後は政治家として活躍した人物だ。


 みんなそれぞれ歴史に名高い人物だった。



 初めて会う彼らには、晋作と玄瑞の間に当然の様に座り、彼らと対等に話している私が、さぞや不思議に思えた事だろう。



「お前らも好きに飲み食いしてくれ」



 晋作がそう言うと、彼らは食事やお酒に手をつけ始める。


 それは、しばらく経ちみんな程良くお酒が回り始めた頃に、突然起きた。



「晋作……そろそろ、例の話をしようではないか」


「例の話だぁ?」


「とぼけたフリなどせずとも良い。お前は分かっているのだろう?」


 

 玄瑞の雰囲気に、何だか雲行きが怪しくなるのを感じた。


 何だか、喧嘩でも始めてしまいそうな雰囲気だ。


 久々に逢ったというのに、喧嘩など御免だ。


 何より、二人に挟まれている私の事を考えて欲しい。


 こんな所で言い合いでもされようものなら、落ち着いて食事など出来やしないではないか。



「あの……さ。私、ずっと試衛館に居たから……今の情勢が全然分からないんだよね。できれば、その変を教えて欲しいなぁなんて……。ほら、玄瑞がどんな活動をしていたのか気になるし」



 不穏な空気を変えたい一心で、私は玄瑞に言った。



「ん? そう……か。美奈がそこまで言うのであれば、その辺りを話してやらねばな。それにしても、お前が私に興味を持つなど……これは、期待して良いのだろうか」


「いや、期待はしなくても良いんだけどね。まぁ、とにかく聞きたいの!」


「フフ……心得た」



 どうやら私の作戦は成功したようだ。


 玄瑞の表情が、一瞬にして穏やかになった。



「美奈や晋作と別れた後は、京にて活動を行っていた。薩摩や土佐の有志達との会合、坂本殿や福岡殿の会合……数多くの会合を重ねた」


「会合ってさ、やっぱり遊郭とかでやるの? それって何で? 会合の後は、遊女と遊びたいからなの?」



 私は前々から気になっていた事を口にする。



「おい、女! 久坂に対して、無礼過ぎやしないか? 身の程をわきまえろ!」



 立ち上がり、私に異を唱えたのは赤禰サンだった。


 余程、私の口の利き方が気に食わなかったのだろう。


 怖い顔で私を睨んでいる。


 こういうタイプの人間は、山縣サンだけで十分だ。


 当の山縣サンはと言うと、以前晋作に咎められたからか、今回はおとなしくしている。



「すまんな、赤禰。お前は初めてだから知らないだろうが、美奈はこれで良いのだよ」


「まぁ、そういうこったな。美奈が淑やかになっちまったら、俺も玄瑞もつまらなくなる。だから、俺らはコイツの態度を正そうなんざ思っちゃいねぇ」



 玄瑞も晋作も、私を庇うかのように言った。



「そういう事ならば……仕方がない。久坂や高杉がそう言うのならば、彼女には俺に対しても同様に扱って頂きたい。双璧に対してそういった物言いなのに、俺には敬意を払えなどとは言えまい」



 赤禰サンは、そう言うと腰を下ろした。


 何だか真面目な人だ。


 彼に対しては、そんな印象を持った。


 山縣サンよりも融通が利くし、案外良い人なのかもしれない。



「先程の話だがな、別に女を買いたいからそこで会合を開くわけではない。そもそも、私にはお前が居るではないか……もう少し信用して欲しいものだがな」


「ちょ、ちょっと! 誤解を生むような言い方は止めてよね? 信用とかそういう事じゃなくて……」


「フフ……照れるとは、また可愛らしいな」



 玄瑞は嬉しそうに私の頭を撫でる。


 この人の頭の中は一体どうなっているのだろう?


 きっと、大層なお花畑が広がっているに違いない。



「郭で会合を開くのはだな、都合が良いからだ。郭というのは、役人の目をかわすのに適している。細い路地が多く入り組んでいる事もそうだが、花街では役人も安易に手を出せないのだ。だから、わざわざそういった所を選ぶのであって……決して、お前に顔向け出来ないような不純な理由ではない」


「……ふぅん」


「話がだいぶ逸れてしまったな。どこまで話しただろうか?」


「えっと、会合をたくさんしたって事くらいかな?」


「そうか。その他に行った活動というと……桂サンと共に朝廷に赴き、朝廷内を尊王攘夷論でまとめ上げたくらいだろうか?」


「朝廷の意向を思い通りに変えるなんて、凄いよね……すっかり忘れてたけど、玄瑞も立派な歴史上の偉人なんだよね。そういうのを聞くと、ちょっと尊敬しちゃう」


「そうか、そうか! お前がそう言ってくれるのなら、これまでの日々が報われるというものだ」



 玄瑞は満足そうな表情で言った。



 すっかり上機嫌な玄瑞の様子に、私も安心する。



 しかし、この直後。



 想像にもしていなかった様な出来事が勃発してしまう。



 それは……晋作の余計な一言が原因だった。


 





 








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