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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第7章 新選組の前身
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因縁の対決?



 私たちが試衛館に戻ると、なにやら大変な事になっていた。


 道場では何故か、山縣サンと原田サンが向かい合っている。


 この二人は何をやっているのだろう。


 



「俊輔! これはどういう事か説明しろ」


 井上サンは、伊藤サンに詰め寄る。


「な……成り行き……みたいな?」


「成り行きでは説明になっておらん!」


「だからさぁ……聞多と美奈が居なくなってから、あの場に居た男と狂介が言い合いになっちまってよ。剣で決着をつけるなんて話になったんだが……狂介は剣術はからっきしだろう? だから、向こうも槍術が出来る奴を出してきてさ。このザマだ」


「お前が付いていながら何という事だ……」


 井上サンは深い溜息をついた。


「ねぇ。山縣サンって剣術はできないの? どっかの道場で習わなかったの?」


 私は純粋な疑問を二人にぶつけた。


「俺はさ……親父が養子縁組した事で、下級中の下級とはいえ武士の位なんだよ。聞多の家柄は、中級の武士の位なんだ。だから俺らは、高杉サンや桂サンと同じ練兵館に通い、神道無念流剣術を身に付ける事が出来たわけだ。だが、狂介は……」


 伊藤サンは何だか言いにくそうな表情をしている。


「狂介はな、俊輔の家より更に低い身分。中間の位だから……剣術を学ぶ事が叶わなかったのだ」


「中間?」


「足軽よりも低い身分だ。簡単に言うと、武家奉公人とかそういう類だ」


「そっか……そういえば、山縣サンっていつも一本しか刀を差してないもんね。……身分制度って、何だか悲しいね」


 私は俯いた。


 山縣サンがあれだけ礼儀作法にうるさいのは、自分の出自や身分へのコンプレックスのあらわれなのかもしれない……と思った。



 そうこうしている内に、二人の試合は始まってしまう。



「ねぇ……山縣サン、大丈夫なの!?」


 心配になった私は、二人に尋ねる。


「なぁに、見てろって! 剣術はからっきしだが、槍術なら狂介は負けねぇよ!」


「大丈夫だ。狂介はな……将来は槍術で身を立てようと、幼少の頃より鍛錬を重ねている」


 二人のその言葉に、私は山縣サンを見守る事にした。



 槍術の試合など初めて見た。


 剣術以上に迫力がある……そう思った。


 二人の決着がついたのは、ものの一瞬の事だった。


 終わるなり、私は山縣サンの所へと駆け寄る。



「凄い! 本当に凄いよ、山縣サン!」



 私は思わず、山縣サンに飛びつく。


「っ……年頃の娘が、男にむやみに抱き付くな! この節操無しが……さっさと離れろ!」


 山縣サンは眉間にシワを寄せていたが、私は気にも留めなかった。


「私ね、槍術なんて初めて見たの! もう、格好良すぎて感動しちゃった!」


「……そうか」


 一瞬驚くような表情を見せた山縣サンだったが、そうか……とだけ呟き小さく笑った。



「さっすが武家サンは違ぇなぁ……やっぱ強ぇや。何せ免許皆伝の俺が敵わねぇんだもんな」


 原田サンは私達に近付くと、頭をかきながら言った。


「あの二人は武家だが、私は卑しい出自だ。中間であって武家ではない」


「そうなのか!? 実は俺も武士じゃねぇんだ。出奔しちまったが、伊予は松山藩の中間ってな」


 二人は顔を見合わせると、同時に手を差し出した。


「アンタとは仲良くやれそうだな」


「……同感だ」


 そう言うと、互いに手を取り合い小さく微笑む。


 何だか私まで笑顔になってしまう。



 その瞬間



 私の身体が突然宙に浮く。



「いつまで、そんな所に居るんだよ!」



 私を抱え上げたのは、惣次郎だった。


 何だかとてつもなく不機嫌そうな顔をしている。



「アンタさぁ……左之サンに勝ったからっていい気になるなよな? 剣術では、僕の方が強いに決まってる」



 抱えていた私をそっと下ろすと、山縣サンに食って掛かる。


 この隙に……と私はその場を逃げ出し、井上サン達のもとへと戻った。


 私達の居る位置からは、二人の会話は聞こえはしなかったが、それでも二人が喧嘩でも始めようモンなら、すぐに止めようと思っていた。



「フフ……きっと、そうだろうな。私は剣術はからっきしだ。それよりお前……美奈に惚れているのか?」


「なっ!?」


 山縣サンの言葉に、惣次郎は真っ赤になって口ごもる。


「お前がアイツに惚れようが、俺には関係無いが……美奈は止めておけ。お前の手の届く様な女ではあるまい」


「ど……どういう意味だよ!」


「……アイツは、高杉サンや久坂サンのモノだ。長州の上級藩士である高杉サンに、俺やお前らの様な者が敵うまいよ」


「僕だって……父上は亡くなったけど……白河藩士、沖田勝次郎の子だ!」


「現時点で武家でない者は、只の庶民に過ぎない。美奈を本当に欲するならば……双璧以上の男になる事だな」


 そう言うと山縣サンは立ち上がり、惣次郎の前から去って行った。






「さて……これ以上遊んでいては、高杉サンや久坂サンに申し訳がない。そろそろ行くとするか」


 井上サンの言葉に二人も賛同する。


「美奈……お前、本当に此処に残るのか? 何だか心配だ」


 伊藤サンは不安そうな表情を浮かべている。


「うん……玄瑞が来るまで頑張ってみる! 伊藤サンも道中、気をつけてね」


 私は笑顔で言った。


「お前の身などどうでも良いが……節操の無い行動だけはしてくれるなよ? お前は、あの二人のモノだという自覚を持て!」


「どういう意味よ! 私は誰のモノでも無いわよ」


 山縣サンの言葉に、私は頬を膨らませた。


「まぁ、そう怒るな。久坂サンには文を出しておく。あまり無理せず……身体には気を付けるように」


 井上サンはそう言うと、私の頭をポンっと撫でた。



「みんなも……気を付けてね! 晋作に会ったら、私は強くなったって言っておいてよね!」



「心得た」



 私は、みんなの姿が見えなくなるまで、その場に佇んでいた。








「一緒に行かなくて良かったのかよ?」



 惣次郎の声に振り返る。



「うん……私、もっと剣術を身に付けたいから。それに……」


「それに?」


「私が急に居なくなったらさ。惣次郎が泣いちゃうでしょう?」



 私はニヤリと笑う。



「なっ……泣かねぇよ!」


「またまたぁ、強がっちゃって」



 しばらく笑い合っていたが、急に惣次郎から笑顔が消える。



「あのさ……少し話があるんだけど……良い?」



「う……うん」



 惣次郎のただならぬ雰囲気に、反射的に返事をしてしまう。



「じゃあさ……夕餉が終わったら……部屋に行く」



 そう一言だけ残し、惣次郎は私の前から去って行った。






 


 

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