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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第7章 新選組の前身
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悪化する関係


 沖田サンを叩いた挙げ句、土方サンに断りも入れずに試衛館へと逃げ帰って来た私は、自室に籠り先程の出来事を整理していた。



 どうしてこんな事になってしまったのだろう。


 どうして……沖田サンは、あんな事をしたの?



 口を開けば喧嘩ばかりで、常に私に対して悪態をついている……そんな沖田サンが、私の事を嫌っていたのは明白だった。



 嫌がらせ?



 そっと唇に触れ、必死に考えるが答えなど見付かりはしない。







「なぁ……あの嬢ちゃん、一体どうしちまったんだ? 土方サンと走り込みに行っていた筈なのに、一人で帰って来たかと思やぁ部屋にこもっちまいやがってさ」


 私の部屋の前で、原田サンが話す声が聞こえてきた。


「土方サンと、喧嘩でもしたんじゃねぇの?」


 平助は、何の気なしに答える。


「いいや! ありゃあ何かあったね。帰って来た時の顔を見たか? 小娘のクセに、女の顔をしてやがった」


 永倉サンは笑いながら言う。



 だいたい、全部丸聞こえなのよ!


 みんなして女の顔って言うけどねぇ……女なんだから、当然じゃない。


 私は苛々していた。



「てぇ事は……まさか……土方サンが……」


 原田サンは更に声を大きくする。


「美奈に手ぇ出した!?」


「お、おい左之! 嬢ちゃんに聞こえるだろうが!」


 永倉サンは、咄嗟に原田サンの口を塞ぐ。



「全部丸聞こえなのよ、この三馬鹿がっ!」



「おい……誰が、誰に手ぇだしたって!?」



 私が勢い良く襖を開けたと同時に、土方サンが三人に声を掛ける。



「げっ! 美奈……に土方サン!?」



 三人は私と土方サンを交互に見た。



「あの……土方サン……さっきはごめんなさい! 私、何も言わずに帰っちゃったから……」


 私は、土方サンを見かけるなり、消え入りそうな声で謝った。


「お前が謝る事ぁねぇさ。悪ぃのは惣次郎だからな。一応アイツには謝るように言ったが……あの性格だからな、あまり期待しねぇでくれ」


「……そう」


「それより、少しは落ち着いたか?」


「う……うん」


「ならば良い」


 土方サンはフッと笑うと、道場へと向かう。


 私も土方サンを追い掛け、道場へと向かった。



「おい、今の聞いたか!?」


「まさか……手ぇ出したのは、惣次郎の方だったとはな……」


 原田サンと永倉サンは、コソコソと話し合う。


「平助!」


「な……何だよ、新八っつぁん」


 永倉サンの只ならぬ雰囲気に、平助は困惑する。


「良いか? 平助。惣次郎は既に行動に移している。お前もうかうかしてっと、あの嬢ちゃんを惣次郎に持ってかれちまうぞ?」


「な、なな……何言ってんだよ! 俺はそういうんじゃねぇっての! か、勝手に勘違いすんなよな」


 平助は顔を真っ赤にさせながら、反論する。


「お……俺、もうひとっ走りしてくる!」


 そう言うと平助は、足早に去って行った。



「クク……青いねぇ……」


「全くだ。惣次郎も平助も……青過ぎて敵わねぇや」



 残された原田サンと永倉サンは、腹を抱えて笑う。



「誰が青いって?」



「そ……惣次郎!?」



 気付けば二人の背後には、沖田サンの姿があった。


「ねぇ……アイツ、何処に行ったの?」


「アイツ?」


「美奈の事だよ!」


「あの嬢ちゃんなら……土方サンと道場だろうよ?」


「……そう。僕があれだけ忠告したのに……本当に馬鹿女だね」


 沖田サンの冷たい表情に、二人はそれ以上何も言えなかった。






 土方サンを追ってきた私は、道場に着くなり稽古の続きを頼んだ。


 そんな私の願いを、土方サンは快く引き受けてくれ、稽古は再開された。


「おい、少し構えてみっか?」


 土方サンは私に竹刀を差し出す。


 その一言に私の表情は、一気に明るくなる。


「え? 良いの!?」


「走り込みばかりで、大事な預かりモンのお姫様に逃げ出されちゃあ敵わねぇからな……まぁ、飴と鞭だ」


「そんなぁ。大事なお姫様だなんて……」


 私は顔を紅潮させる。


「そ、そこに食いつくんじゃねぇ! 良いからさっさと構えやがれ」


「痛い! 痛いってば。わかったから、つねらないでよ」


 頬をさすりながら、涙目になる。


「フン……稽古中にふざけるお前が悪ぃ」


 土方サンは素っ気無く言った。



 私は手渡された竹刀を、自分の思うように構えてみた。


 それだけの事なのに、何だか自分が強くなったような錯覚を覚える。


「……違うな」


 土方サンは何か納得がいかない様子だ。


「何か違う? 平晴眼を意識したつもりだったんだけどなぁ」


 私は私は首をかしげた。


「もう少し、刃を内側に向けてみろ」


「刃?」


 そんな事を言われても……竹刀に刃先など無いではないか。


「全然なっちゃいねぇ。良いからそのまんま立ってろ」


 そう言うか言わないかの内に、土方サンは私の後に回り込んだ。


「ちょ……ちょっと!」


「良いから、今は余計な事を考えるんじゃねぇ!」


「わ……わかったわよ!」


 威勢良くそう言ったものの……構え方の説明をする土方サンの声など、私の耳には届いてはいなかった。


 土方サンの声よりも、自分の鼓動の音の方が大きく感じる。


 構え方の説明だからって……こんな体勢、耐えられないよ!


 後ろからすっぽりと包み込まれている自分に、何だか恥ずかしくなる。


 も、もう限界だ……



「あのさ……とにかく、もう……離れてよ!」



 私がそう言うと同時に、道場の扉が勢い良く開く。



「沖田……サン?」




「だから、言ったじゃねぇか……土方サンは手が早ぇってさ。お前……本当に馬鹿女だな。そういうの、虫唾が走るんだよ!」



 私を蔑む言葉を発している筈なのに、沖田サンのその表情は、何だか苦しそうにも見えた。



「行くぞ!」



 そう小さく呟いた沖田サンは、私の手を取り道場から出る。



「お、おい……惣次郎!」



 残された土方サンは沖田サンを呼ぶが、沖田サンは振り返ろうとはしなかった。



「チッ……不味いところを見られちまったな。ったく……惣次郎の奴ぁ、青過ぎんだよ」



 土方サンは沖田サンの表情を思い出し、苦笑いを浮かべた。








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