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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第6章 各々の進む道
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大きな買い物



 7月14日


 私たちは無事に長崎へと上陸した。


 帰りの航海は、行きの船の時の様に大きなトラブルも無く、実に穏やかな後悔であった。



 そんな中、長崎に着くとすぐに、別れの時がやってくる。



 そう、才助との別れだ。



 私は、玄瑞と才助のやり取りを気に入っていたので、それが見られなくなるのは何だか寂しい気がした。


 晋作は、薩摩に行けば良いと行っていたが……


 そんな日が来ることは無い事を私は知っている。


 この先、薩摩と長州は犬猿の仲となってしまうからだ。


 来年の八月に長州が京を追い出されてから、その後に薩長同盟が締結されるまでの長い間は、きっと薩摩になんて行けやしない。


 そんな事を考えながら、名残惜しい気持ちを抑え、才助と別れた。





「あれ? そういえば、晋作はどこに行ったの?」


「先程までここに居たはずだが? そういえば見当たらないな」


 私たちは、晋作の姿を必死に探す。


「何処にも居ないよ……もしかして、小っさいから私たちを見失って、迷子になっちゃったのかなぁ」


「晋作は背の事を言うと怒るぞ。それにあの男が迷子にはなるまい」


「じゃあ……小っさいから女の子と間違われて連れ去られちゃったとか?」


「だから……背の事を言うと怒ると言ったではないか。それに、アイツならば連れ去られる前に、暴漢を斬るに違いない」


「じゃあ、小っさいから……」


「美奈の頭の中には、晋作は小さいという印象しか無いのか?」


「だって……確かに私よりは大きいけど、玄瑞と比べると余計に小さく見えるじゃない。小っさいクセに態度は大きいよね、晋作ってさ」


「……お前たちは似たもの同士だと思うのだがな」



 いくら探しても見付からない晋作に、私たちは途方に暮れてしまう。




「誰が小せぇだと? 全部聞こえてんだよ! このクソ女が!」



 その声に振り返ると、眉間にシワを寄せた晋作が立っていた。



「晋作! もう……心配したんだからね。一体どこに行っていたのよ」



 私は思わず晋作に飛び付いた。



「心配したじゃねぇよ、馬鹿女が! 誰が迷子になったって? 誰が、小せぇクセに態度がデカイだって? そりゃあ、お前の事だろうが! まったく……言いたい放題言いやがって」


「痛い、痛いって!」



 案の定、晋作は私の頬を思いっきりつねる。



「その辺にしておけ。美奈は本当にお前を心配していたのだぞ? 私たちに何も言わずに場を離れるお前が悪い」


「そ、そうだよ! 今まで何処で何をやっていたのかくらい説明しなさいよ」



 私はすぐさま玄瑞の陰に隠れると、晋作に説明を求めた。



「聞いて驚くな! 俺ぁ、とある買い物をしてきたのさ」



 晋作は、不敵な笑みを浮かべている。


 彼がこういう表情をしている時は、たいていロクでもない事を考えている時だ。



「で? 何を買ったのよ」



 私は何気なく尋ねた。



「軍艦だ!」



「はぁ!? アンタ馬鹿? ねぇ、馬鹿なの? そもそも一体どこからそんなお金が出てくるのよ。千歳丸だって3万両なのよ? いくら長州のお坊ちゃんだからって、そんな大金出せやしないでしょうが」


 私は呆れ顔で言った。


「うるせぇ、クソ女! まぁ……金策は大丈夫さな」


「何が大丈夫なんだ? 美奈の言うとおり、いくら何でも船を買う金など用意できる筈が無いだろうが」


「俺の金で買うんじゃねぇよ」



 その言葉に、何だか嫌な予感がする。



「藩の金で買うのさ」



 笑顔で言う晋作に、私たちは深い溜息をついた。


「何を言っている。そんな事がまかり通る訳がなかろう」


「そうだよ。絶対お殿様に怒られるって」


 私たちは口々に言った。


「そんなモンはなぁ……ねじ伏せてやるのさ。今回は、藩の後払いという事で購入した。軍艦と請求が来ちまやぁ藩も払わずには居られまい。さて、話は変わるが……しばらく此処に滞在した後は、京へと行くぞ」


「何で京なの?」


「藩主のもとに此度の視察の報告をしに行くのさ。これは、元より決まっていた事だ。面倒ではあるが、久しぶりに京の街を見るのも悪くはあるまいよ」


 晋作は目を輝かせながらそう言った。



「どうせ、島原とか祗園が目当てなんでしょうよ……」



「恐らくそうだろうな」



「……お前ら、何か言ったか?」



 鋭い視線で私たちを見る晋作の姿に、一瞬怯む。



「な……何でもない!」



「そうか……ならば良い。さてと、これからは更に忙しくなるぞ」



 こうして



 私たち一行は、しばらく長崎に滞在した後、京へ向け長崎を発ったのであった。



 









 

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