出逢い
「……っ! 痛ぁ……くない!?」
かなりの高さから地面に落ちた筈なのに、不思議と衝撃が無い。それ以前に何故だか地面が柔らかい。
どうやら生い茂る草むらに上手く落ちたようだ。不幸中の幸い……とでもいったところだろうか。
「っ……痛たたた。す、すまんが……そこを、どいては頂けないだろうか?」
突然自分のちょうど真下からした声に、固く閉じていた目蓋を開くと同時に、私は慌てて立ち上がった。
「痛っっ!」
激しい衝撃は無かったものの、どういうわけか何かの拍子に足を挫いてしまったらしい。
私は思わず、その場に座り込んだ。
「だ……大丈夫か!?」
私の下に居たはずの男は勢いよく飛び起きると、まるで壊れ物を手に取るかのように私の右足に触れた。
「そうか……恐らく足を痛めたのだな」
そう呟くなり、その男は突然私を抱きかかえた。
「な!? ちょ……ちょっと!」
「なぁに遠慮は不要だ。こう見えて私には医術の覚えがある。屋敷内で簡単に手当てをしてやろう。さて……少しばかり失礼するぞ」
男は笑顔でそう言うなり、私を抱えて屋敷の中へと向かって歩きだした。
突然の出来事に混乱しながらも、その人物がさほど怪しい人間だとは思えず、ここはとりあえず彼の好意に甘えることとした。
まぁ……いざとなればどうとでもなるよね。
それにしてもあの人、医術とかいってたっけ?
話の流れからして医療行為のことを言ってるんだろうけど、何だかかしこまったような古臭い言い方ね。
それに屋敷だなんて言ってたけど……あの河川敷にこんな立派なお屋敷なんてあったっけ?
あの桜並木の下は数メートル下に河川敷があって、その横には大きな川が流れていたはず……。
そう言えばこの人……こんな高そうな着物なんて着ちゃってさ……ハロウィンの季節でもあるまいし、キモノジャックか何かの帰りなの?
まぁ……ただの和服好きなんだろうけど、それにしてはきちんとしすぎてる気もするし。
辺りをよく見まわすと、広くて美しい庭に立派な佇まいのお屋敷が目に入る。
この立派なお屋敷!
もしかして、この人は……。
相当な資産家!?
それに、医療行為が行えるってことはつまり医者……なんだよね?
顔だって、よくよく見れば端正な顔立ちだ。
身長も高くて、おまけに声も良い。
先程の柔らかい物腰や口調からは品性がうかがえる。
広大な土地と庭園とお屋敷と、更には医師というステータス。
資産家のイケメンと出逢うとは……これはどこぞのドラマか漫画か?
その神がかった運命的な出逢いにニヤけずにはいられなかった。