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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
下関防禦と奇兵隊
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奇兵隊の始まり



文久三年六月七日。



朝目が覚めると、晋作は何やら書き物をしているようだった。


晋作の背後から書状を覗き込む。



「おはよう……晋作、何してるの?」



私の問いに、晋作は答えず熱心に筆を進めている。


何を書いているかは分からないが、よほど集中しているのだろう。


書き物が終わるのを晋作の後ろで静かに待った。


しばらくして筆が止まる。



「美奈……か。お前、いつからそこに居た?」


「いつからって……晋作がその書状を半分くらい書いていた時くらいからかな? 朝起きてから、ずっとここに居ましたけど?」


「居たなら声を掛けりゃあ良かっただろう」


「声は掛けましたけど? 晋作の返事が無いから、ここでこうして待ってたんですけどね」


「そりゃあ悪かった……集中していて気付かなかったようだ」



晋作はあくびをすると、両腕を上げて大きく体を伸ばした。



「まさか……一晩寝てないんじゃないでしょうね?」


「その……まさか、だ」


「日頃から睡眠は大事だって言ってるでしょう? まだ病気だって治りきったわけじゃないんだから! 無理はしないでっていつも言ってるのに」


「……悪かった」



私の言葉に、晋作は素直に謝った。


そんな素直な姿がなんだか可愛らしく見えて、私はクスリと笑った。



「そうだ! それで……晋作は、熱心に何を書いていたの?」


「あぁ……これか? これは奇兵隊結成綱領さな」


「奇兵隊……結成綱領?」


「ここで作る部隊の詳細をしたためた。つまりは、ここを異国から守るために有志の者を集めた隊を作るということ。士分だけではなく民衆からも広く募り、身分を理由にその志は奪わねぇようにということ。さらには賞罰も等しく行うこと……まぁ、色々なことを書いたのさ」


「それをたった一晩で?」


「正確には今朝方からさな」


「昨日は夜中にどこかに出掛けていたものね」



夜にここに着いてから、晋作は一度出掛けていた。


帰って来たのもきっと朝方だったのだろう。



「一晩寝てないのだから……今日は少しは休んでよね」


「ここのところ夜はよく寝ていたからなぁ……久しぶりに寝ずに何かをすると、さすがに眠くて敵わねぇな」



晋作はまた一つ大きなあくびをすると、その場で横になった。


私の膝を枕にして……。



「ちょ……ちょっと! 寝るなら布団で寝なさいよ」


「お前が寝ろと言ったからそれに従ったまでだ。俺がどこで寝ようが俺の勝手……さ……な」



言い切るか言い切らないかの内に晋作は寝息を立て始めた。


一晩寝ずに頑張っていた晋作を起こしてしまうのは可哀想に思えたので、渋々だがそのまま寝かせてあげることにした。



「もう! 少しだけだからね?」



その言葉はきっと晋作には届いていないだろう。



穏やかな寝息をたてる晋作の髪をそっと撫でた。




しばらくの休息の後、目を覚ました晋作は「よく眠れた」と柔らかく笑った。



それから晋作は私と一緒に食事を摂ると、またどこかへ出掛けて行ってしまった。



見送る際に、無理はしないように……と伝えたいところではあったが、今は晋作にとっても大事な時……と思い、その言葉を飲み込んだ。


この日は夕方に戻って来ると、そこに訪れた来島さんとの会合を開き、夜遅くまで二人で何やら難しそうな話をしていた。






その後の私たちはというと、非常に慌ただしい毎日を送っていた。



奇兵隊の隊士を募ると、予想以上に応募する者が多かったからだ。


奇兵隊は西洋の軍を参考に最新の武器を揃え、西洋式の部隊編成や訓練を行うという。



どこからそんな考えを思いついたのかと尋ねると、晋作は松蔭先生から学んだと言って笑っていた。


松蔭先生は兵法についても学び、教えを説いていたらしい。


先生は本当に凄い人だなと感心してしまう。




この時代に先生がまだ生きていたなら……先生はどんな風に双璧を導いたのだろうか。



そんなことをつい考えてしまった。



六月八日に発足した奇兵隊は、十日には六十名を超える大人数となっていた。


その翌日には白石さんの家の門に、奇兵隊の名を掲げた。



晋作が作ったこの奇兵隊が、このあとどのようになっていくのか……その名を見ながら、心が躍るのを感じた。



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