萩にて想う
長かった旅路も終わりを告げる。
私たち一行は無事に長州に帰ることができた。
もともとは義助から下関に付いてこないかと誘われて京を立ったのだが、まずは萩にて数日滞在するとのことだった。
義助や晋作、郁太郎はそれぞれ行かなければならない所があるようで、私はかつての診療所へと一人戻って来た。
萩の診療所に到着してからは荷解きなどをし、私がほっと一息つけたのはだいぶ日が傾いた頃のことだった。
4月だというのに日が傾くとまだ幾分肌寒い。
薄手の羽織物を羽織って縁側に一人腰掛けた。
「萩に戻って来たんだ……」
私はポツリと呟いた。
私がタイムスリップした時は京都だったが、本格的に新たな生活が始まったのはここ山口県だ。
ここは謂わば始まりの地。
とはいえ、実際には京都も山口も全く縁もゆかりもない土地だ。
どうして自分がそんな所に引き寄せられたのかはいまだに謎のまま……
タイムスリップした頃はそれこそ、新選組が良かったのになどと思っていたが、時代や歴史の流れを考えると長州側で良かったのかもしれない。
史実からして、新選組側にはどうやっても未来は無いのだから……
「私って……打算的で嫌なヤツ」
自分に向かって吐き捨てた。
新選組のみんなのことだって、できることならば助けたい。
兄弟子たちや総司にも新たな時代を生きて、穏やかに過ごしてもらいたい。
倒幕は史実なのに、私のような小娘にその史実を大きく変えるほどの力なんて無いことはよく分かっている。
「みんなが仲良く過ごせる世界だったら良かったのに……ね」
私はたまたま長州側に飛ばされて義助に拾われた。
突然異なる時代を生きることになって自分はなんて不運なのだと思っていたが、義助だけでなく晋作や郁太郎もなんだかんだで面倒をみてくれたし、不運ではなく幸運だったのかもしれない。
これまで私は長州やそれを取り巻く人々と出逢い共に過ごしてきた。
様々な出来事を通して双璧との絆を深めつつ自分の居場所を得ることができた。
これまでに出逢った人全てが今ではかけがえの無い大切な人となった。
遠く離れてしまっている新選組を生かすことは叶わなかったとしても、今私の近くにいる仲間だけは必ず助けたい。
大切な人を守るためすべきこと……
まずは何からすべきか……
「晋作と郁太郎は病で死ぬ。義助は禁門の変で自刃する」
病気はもしかしたら今まで出逢った人々と力を合わせれば何とかなるかもしれない。
でも、義助は?
この時代の人たちは己の思想や確固たる信念のもとに行動している。
私が行かないでと言っても、頑固者の義助は行ってしまうかもしれない。
私に止めることなんてできるのだろうか……
私は空を見上げて唇をギュッと噛んだ。




