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異説・桜前線此処にあり  作者: 祀木楓
第16章 長州へ発つ
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長州帰路 ー前編ー



「昔の人ってさ……体力が有り余りすぎるのよ! なんでそんなに歩けるの?」



長い長い旅路の途中、来る日も来る日も歩かされ続けている私はついに根を上げた。



「昔の人とは……今こうして現に対峙しているのに妙なことを言う」



日々怠ることなく鍛錬をしているであろう義助に体力があるのはまだ分かる。


だけど、日々お酒を浴びるように飲んで不摂生の限りを尽くしている晋作や、医者である郁太郎ですら息を上げることなく難なく歩き続けることができることが不思議でならない。



「歩かずして目的地に着けるはずがないではないか。そもそも歩く以外にどんな方法で移動するというのだ?」



郁太郎は訝しげに尋ねた。



「そんなの決まってるじゃない。私の時代では飛行機とか新幹線でビューンと行くのよ。その日のうちに京から長州までの距離までだって行けちゃうのだから」


「飛行……機? 新……幹線? それはなんだ?」


「飛行機は空を飛ぶの。新幹線は陸路だけどすっごく速いんだから。両方とも大きな鉄の籠みたいな感じで、たくさんの人を乗せて遠い所までその日のうちに行けるのよ」


「それは些か夢物語のようだな。150年先の世はそうなっているのか……非常に興味深いが想像もできぬな」



郁太郎や義助は興味深そうに目を輝かせながら私の話を聞いていた。



「だから、こんなか弱くて可愛いらしい女子はそんなに歩けないの! 少しで良いから休もう? もう足がパンパンだよ……」



子どものように駄々をこねる私。



「ぎゃあぎゃあうるせぇヤツだなぁ……まぁ、どのみちもうすぐ日も暮れる。この調子だと峠を越えるのは無理だろうな。少し早ぇがここらで宿を探すか」



「賛成!」



晋作の提案に元気よく賛同した。



「まだまだ体力が有り余ってんじゃねぇか。こんだけ飛び跳ねてりゃ峠も越えられそうだな」



「えー、無理だよー。お腹だって空いてるもん。峠を越えられるだけの体力なんて残ってないよ」



そんなやり取りの中、峠の麓にある一軒の宿屋に到着した。



「今宵は二部屋の空きがあるらしい」



そんな義助の言葉に、部屋割り会議が勃発する。



「それなら私が一部屋で、残りの一部屋は晋作と義助と郁太郎だね」


「二部屋となればそれが道理だろうな」


「少々手狭かもしれんが、嫁入り前の女子と同衾するのは些か問題もあろう。そのように」



義助と郁太郎は私の提案に賛同する。



「部屋が二つならば、二人ずつに決まってるだろうが。ただでさえ狭ぇ部屋に三人も押し込められるなんざ我慢ならねぇ」



晋作は異論を唱える。



「晋作……嫁入り前の可愛い女の子なんだよ? 少しは空気を読みなさいよ」



「空気も何もねぇよ。なにが嫁入り前の可愛い女の子だ? こんな猪のような女は、とうてい女とは言えねぇんだよ。こいつが部屋に居ようが何の気もおこらねぇよ」



「はぁ? 何の気も起こらないのはこっちのセリフ! 晋作なんてこっちから願い下げですー」



晋作と私は口論を始める。



「私はそうは思わないが……なんの気も起こらないなんてことはない。晋作が嫌ならば私が美奈と同室になろう。郁太郎殿と晋作が同室になればこれで晋作の言う通り一部屋に二人ずつとなる。そうだな……やはりそれが良いな」



「絶対に嫌! 義助と同室は嫌だからね? 下心しかない人となんて無理!」



「なっ!? 下心なぞない! 断じてない……いや、それは少しは……そうなっても良いかとは思うが……」



「ほら! だから義助と同室なんて嫌!」



私の言葉に打ちひしがれている義助は放っておいて……私は更に付け加える。



「それなら私と郁太郎が同室になれば良いんじゃない? 晋作は私とは嫌、私は義助とは嫌。だとしたらもう私と郁太郎の組み合わせしかないじゃない」


「それはできぬ。嫁入り前の女子と同衾などあってはならぬ。私はお前とは同室は無理だ」


「一番安全そうなのに……」


「安全かどうかは保証はできんよ」



郁太郎の意外な言葉に驚き、私はそれ以上口にすることはできなかった。



「俺と美奈、郁太郎と義助……決まりだな」


「だから何でそうなるのよ!」


「そりゃあ俺は猪娘は女として見てねえからだ。まぁ一番安全てことさな。こんな所でぎゃあぎゃあ喚いてねぇでさっさと行くぞ」



突然訳の分からない理論を打ち立てて私の手を引く晋作は、なんだか楽しそうな表情をしていた。




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