8 愛を叫ぶ~そして、彼と少女は~
期日が早まったため、書類の事などは後日手配することになった。
学院での友人たちへの別れを簡単に済ませ、最後に愛しい青年の姿を探した。
青年を中庭で見つけ、静かに歩み寄る。
中庭は、時間帯のせいか人気はなく、暖かな日の光と小鳥の声が心地よい場所だった。
これが最後の告白だ。
今まで沢山の愛を伝えてきた。
最後はとっておきの笑顔とともに。
「カウツさま、大好きです。愛していました。今までありがとうございました。」
好き
大好き
愛してる
・・・愛して、た
幸せな夢はこれでおしまい。
だから
「 さようなら 」
一緒に話して触れて、最後に見せていただけた夢を胸に、私は別れを告げる。
淑女の礼を完璧に目の前でしてみせた少女は、いつも彼に笑顔で駆け寄る少女とは別人とも見えて、彼の言葉を奪う。
「次にお会いできるのは社交界で、でしょうか。」
伏し目がちの眼差し。
ゆっくりと語る低めの落ち着いた声。
「その時は、夫と共にご挨拶に伺いますね。」
何かを押さえ込んだような笑みを、彼は知らない。
「嫌だ。」
「カウツ・・・さま・・・?」
困ったように笑う少女など、その意味など、彼は知りたくもなかった。
「僕のこと、好きなんでしょ?」
「・・・はい。」
「何故、他の誰かのところに嫁ぐの?」
「・・・決まって、いました・・・から。」
彼の声は、責めるように響いて。
何故、そんなことを聞くのだろう
胸が締め付けられたように苦しくなる。
もう聞かないで欲しい。
そう思いながらも、俯いた顔を上げられない。
「・・・顔を見て話すのが礼儀なんじゃないの?」
背筋を伸ばして、顔を上げて。
今まで背を押してきてくれた彼の言葉に、この時ばかりはしたがえなかった。
視界に、彼の手。
硬質な感触の手が頬に触れ、顎に指を滑らせ、目線を合わせるように顔を上げさせる。
苦しそうな彼の顔は、涙でぼやけていた。
「君はいつだってそうだね。愛を告げるだけで、その先を求めない。」
そっと、瞳を閉じる。
頬に溢れる雫。
「先を求められたら、断ることも、受け取ることも出来るのに、君はしなかった。」
彼の吐息を頬に感じ、次いで柔らかな感触が涙をすくう。
軽いリップ音。
びくり と震える身体を閉じ込めるように抱きしめられる。
「そのことが、最初苛立たしかったのに・・・いつの間に僕の心をさらっていったの?」
頬の次は瞼に。
「・・・ねぇ、言ってくれないと、このまま奪っちゃうよ?」
唇に感じる彼の吐息。
「それとも、僕に言って欲しいの?」
口を開ければ、泣き言がこぼれてしまいそうで、口を開くことはできなかった。
「僕も君が好きだ。だから・・・」
思わず開いた瞳に映るのは、晴れた日の空を閉じ込めたような瞳。
「 君の憂いを僕に分けて 」
唇に注ぎ込むように囁かれた言葉を理解する前に呼吸を彼に奪われた。
大好きで
大好きで
大好きで
この想いを伝えず、全てを諦めて前に進むことなど出来なかった。
それでも、彼に想いを受け取めてもらい、家の負債を負わせることなどは、したくなくて、負って欲しくなくて、先を望まず、ただ愛を叫んだ。
好きだったから
愛していたから
人から受ける好意を、どこか信じられずにいる彼に、少しでも信じてもらいたくて。
愛されるだけの価値ある人なのだと
ただ一人の人間として、愛される人なのだと
異世界で迷い、戸惑い泣いた私に、背を押す言葉をくれた彼に
ただ伝えたかった。
愛してる
「愛して、いる、ん・・・です。」
「うん。」
「でも、迷惑かけたく、なくて、」
「うん。」
「会えなくなる、前に・・・伝えたくて・・・」
「伝わったよ。くどいくらいに伝わって、想いまでもが君に染まってしまった。」
「・・・色物と一緒に洗濯してしまった白いシャツみたいな表現やめてください・・・」
「・・・君は泣きながら台無し発言をするねぇ。」
「う、えっ・・・ひっく・・・ご、ごめんな、・・・すんっ、ごめんなさい・・・」
「謝るか泣くか・・・そう。泣く方を選ぶんだねぇ。」
あやすように、背中を何度も軽く叩かれる。
「愛しています。」
「うん。一緒に、解決方法を探そうか。」
「・・・はい。カウツさま・・・」
「うん?」
「 だぁいすき 」
涙で赤くなった目元を緩ませ言った一言に、青年は思わず熱く口づけたのだった。
以下、雰囲気が台無しになっても大丈夫!! という方のみお付き合いください
「わし、これ完全に邪魔者なんじゃが・・・。」
建物の影から二人を覗く老人が ぼそり と呟いた。
「そうですね。邪魔者ですね。」
「・・・殿下、はっきりと物を言いますのう。」
老人の後ろから現れた殿下は、老人と同じように二人を覗き見つつ、視線だけを老人に向けて軽く睨んだ。
「大事な友人が、よーーーーーーーうやく!手に入れた花を手放させるなど、とうてい俺には無理ですよ。」
「ふむ。まぁ、負債は今日の朝、フォード子爵夫妻が全額払い終わったと告げに来たがのう。」
「・・・・・・はい?」
「じゃから、この話は破談にしてくれと。・・・愛されておるなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・愛されていますねぇ。」
「というか、ちゅー、長くないか?」
「本当に台無し発言ですね。・・・長いですね。」
「初めてが外なのは、流石に可哀想じゃと、」
「ディートルフのじぃさん、そんな邪推・・・・・・・止めてくる!」
意志を強く瞳に宿して婚約を『諾』と答えた少女が青年の腕の中で顔を赤くしつつもはにかむ姿に、目尻が緩んだ。
「うーん。若いのう。」
まさかのあとがきで登場人物が増えるという事態(爆)
実はこれ、某文芸部部長(笑)から、平部員である雨月に指令がくだり(というか、勝手に思い込んだ)(笑顔)
・異世界トリップ
・中編
・一話に一回愛を叫ぶ
・どピンク(セクハラ)をいれる
という課題を達成目標にして頑張って書いたんですが、達成できていましたでしょうか・・・(笑)
あと、書き方をご教授頂いたんですが、あまり生かしきれてなかったような・・・(遠い目)
もし感想いただけるなら、ありがたい限りですが、ご指摘等、やんわり、柔らかぁなお言葉でお願いします。
あっ、無理☆
と思われたら無理は言いません(微笑み)
書かずに心の中で叫んでいただければ雨月が受信します ←
あとがき、長々と失礼いたしました。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。