3 彼の御宅で愛を叫ぶ
なんと!!
今日は、カウツさまの御宅に遊びに!!
わたくし、遊びに来ています!!
少女の気分は、愛しの彼宅への御宅訪問☆だった。
魔法学院の近くに、こじんまりとして落ち着いた雰囲気の邸宅を別邸として侯爵家が持っており、彼は就学中の間、この別邸に住んでいた。
ここが・・・ここが、カウツさまが住んでいらっしゃるおうちっ!
センスのよい庭と、柔らかな雰囲気で出迎えてくれる侍女?のおばさま。
趣味の良い室内の家具や内装を楽しみながらもここに来れた経緯を思い出す。
いつもどおり愛の告白をしていたら、カウツさまのご友人の方がけらけら笑いながら、一緒に遊びに行こうと招いてくださったのです!
ありがとうございます、カウツさまのご友人のゴ・・・グ?だったっけ?
えーと、ビ・・・・・・・・カウツさまのご友人の方ありがとうございます!
お名前を思い出すのは諦めましたが感謝しております!!
流石に隣に立つ青年の友人に、ここまで連れてきてもらいながらも名前を聞くことは出来ずに、にこにこと通された部屋で愛しの青年を待つ。
素敵な女性と言ったら料理!!
だと思う訳です!
というわけで持ってきました、クッキーとマドレーヌ!!焼いてきました!
・・・ちょっとクッキーは焦げたけど、生焼けよりはいい・・・と!
ちなみにマドレーヌは自信作です☆
火が通っていれば大丈夫! と右手をぐっと握りしめていると、その姿を見ていた青年の友人がけらけら笑った。
「いやー、アミーちゃんは、本当に見ていて飽きないねぇ。あいつやめて、俺にしない?」
「しませんー!」
にこー! と即答する。
「つれないなぁ・・・と、来たみたいだぜ?その手土産、持っておこうか?」
「あ、ありがとうございます!では、お言葉に甘えて・・・」
そそそ と音を立てないように扉の近くに場所を変えて身構える。
部屋に響くノックの音と、答える青年の友人の声。
「お邪魔してますー!!!」
扉が開いた瞬間に飛びつく少女を避け、そのまま倒れる少女の腰を後ろから腕を回して、倒れるのを防ぐ。
「ありがとうございますー。」
でも、抱きとめていただいても大丈夫なんですよー! という声は聞こえないふりをされて
「久しぶりだな、訪問は君だけだと聞いていたんだが。」
「いやぁ、俺もついつい応援したくなっちゃうじゃーん。こんなに健気だとさ。」
にやにや笑う友人に、青年は一つため息をつく。
「あ、そうだ!今日はなんと、お土産を持ってきたんですよー!」
腰を抱えられ、二つ折になっている状態で青年にいう。
「へぇ、そうなんだ・・・あ、これがそう?」
「そうなんです・・・。あの、お口にあったらいいんですけど・・・。」
もじもじ と人差指同士を合わせながら言う。青年に腰を抱えられた状態で。
「ねぇ、君たち、いい加減その体勢・・・やめない?」
思わず声をかけた友人の顔は、少しだけ引きつっていた。
「うん。マドレーヌはいいとして、クッキーはまぁまぁだね。」
「いや、そこは素直に美味しいって言っておこうよ。」
「うふふ!嘘偽りない感想をありがとうございます!」
「いいんだそれで!」
あぁ、この二人はボケ同士なんだなぁ と、青年と少女を見ながら思いつつ、クッキーへと手を伸ばす。
「カウツさま、はい。あーん♪」
「自分で食べれるけど?」
「いやーん!こういう時は素直に口を開けていただけるだけでよろしいんですのよー!」
「そうなんだ。じゃぁ・・・はい。」
「あらやだ、カウツさまったら、こげた部分があるクッキーをまとめて私に口にいれようなんて、うぐっ」
「カウツ!お、お前何やってあー!水、水ー!!」
口に入ったクッキーを咀嚼することも出来ず、パタパタと両手を動かす少女に、笑いながらも青年は見つめた。
「君の口は、そんなに小さいんだね。・・・僕の・・・は、入らなそうだね。」
「ふっ、ん・・・・ごくん!」
なんとか飲み込み、水を飲んでいた為に、なんと言ったか聞こえなかった。
尋ねるように首をかしげると、にこやかに なんでもない と首を横に振った。
どう言う意味だろうと、隣にいる青年の友人を見ると顔を真っ赤にしていた。
なんだったんだろう と首をかしげつつも愛しい青年へと詰め寄った。
「カウツさま!またお菓子を作ったら、食べてくださいますか?」
「クッキーにこげた部分がなくなったらね。」
「本当です?じゃ、また作ってきますね!」
ふっふっふ。
お菓子を食べてもらうという名目で
「またお邪魔しちゃう為の言質、とったりー!!」
「アミーちゃん、アミーちゃん、声に出てるからね?一番大事な所だと思う部分、声に出てるからね??」
「あれ?」
「どうせ、どこかで言質を取ろうとうずうずしてたんでしょ?」
「わかっちゃいました?」
えへへ と笑いつつ、もう一度青年へとクッキーを差し出す。
「まぁ、そのことはクッキーで押し流してー☆」
「かなり無理矢理感があるよね。なんか、喉に詰まりそう・・・カウツ、水用意しとく?」
「あ、ヒドイですぅ!一気に無理やり口に押し込みませんよ?あと、言質は押し切るだけで、詰まらせるようなことなんてしません!」
「余計タチが悪いと思うけど!?」
きゃいきゃいぎゃいぎゃい青年の友人と少女が言い合っていると、少女の指先にふわり 柔らかい感触がした。
クッキーを持っていた指を見ると、そこにクッキーはなく、近くで咀嚼している青年がいた。
「うわぁぁぁぁ、しまったぁぁぁぁぁ!!!カウツさまが!私の手から食べ物を食べている決定的シーンを記憶に焼き付けることができなかったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんか、猫を懐かせているみたいだね。」
「食べ物で懐いてくださるなら、いくらでも頑張りますわ!!」
言いつつ自分もクッキーをつまみ、口元へと持っていく。
ふと、指先に触れた感触を思い出しつつ、口にクッキーを入れる。
唇に、触れる指。
彼の唇が触れた指が、自分の唇に、触れる。
頬に上る熱を隠すように、もう一度青年へとクッキーを差し出した。
「こ、今度こそです!はい、あーん!!」
ぱくり
素直に手から食べた青年に、素直に喜びを表そうとした瞬間、目に飛び込んできた、にんまり と青年の艶のある笑みにクッキーを差し出した体勢のまま固まった。
な、な、な、なんでこんな色気たっぷりに笑うんですか・・・!?
にんまり笑う青年と顔を赤くして硬直する少女に、青年の友人が首をかしげた。
「あれ、このマドレーヌ、二種類ある?」
「え、へ?あ、はい。普通のとラムレーズン入りのです。」
「あー。こいつ、酒に弱いから。」
「え?」
「ほら、早く逃げないと食べられちゃうよ?」
何が と指差される方向を見れば、指が青年の口に入れられそうになっていた。
「ひゃぁっ!」
思わず悲鳴をあげつつ指を抱え込む。
「美味しそうだったのに。」
「ゆ、指は美味しくありませんんんんん!!」
「残念。」
笑う顔は壮絶に色っぽくて。
「はいはい。アミーちゃんにこれ以上不埒な真似しないうちに撤収!」
ずるずるずる・・・ と青年が引きずられつつも連れて行かれる姿を見て、はたり と手を振った。
「本日はお邪魔しましたぁぁぁぁ!!またお邪魔いたしますわねぇぇぇぇぇぇ!!!」
確かに青年の唇に触れた指を、もう片方の手で握り締めて頬を緩める。
「幸せです。カウツさま・・・」
またお酒を使ったお菓子を作って持っていきますわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
懲りずに今日も、少女は愛を叫ぶ。