2 食堂で愛を叫ぶ
魔法学院の食堂で、少女は立ち上がり、そして叫んだ。
「そう。この気持ちは 恋 (キラキラエフェクト付き) なんだ!!」
あぁ、この甘ーくて、コーヒーに砂糖を入れすぎてカップの底で混ざりきらずにどろっどろになったような程、甘ったるくて。
世界の全てがピンクに見えるほどのこの気持ち!!・・・あ、お洒落サングラスしてた。あー。こりゃ、視界がピンクになるよね。そうよね。
「そして、あの方を見つめていると高鳴るこの鼓動。・・・どう見てもひょろひょろのもやしっ子体型にもかかわらず、世界5大山脈に登ろうなんて言い出したと聞いて、もう、私はあの方を見つめるたびに胸が高鳴って高鳴って・・・」
柔らかな曲線を描く胸元に手を当て、よよよっ と儚げによろけ、自分の席へと座る。
「これは間違いなく 恋!!(ピンクエフェクト付き)なのよっ!!」
「うーん。どこから突っ込んでいいのか迷うわね。とりあえず、もやしっ子体型なのに挑戦したの?」
「いえ。そんな無茶は流石に周りから止められましたわ。」
「あー・・・。」
「でも、登山の本を沢山読み、登山に耐えうるような体作りをされていて、早数年。もうすぐ挑戦するとおっしゃっているのを聞きましたわっ!!」
「そうなんだー。結構前から好きだったの?」
「気にはなってたけど、最近、これは恋なんだとようやく気づいたんですわっ!」
「で、アミー。なんでそんな口調なの?」
「恋をしている少女は、こういうしゃべり方なの!・・・わっ!」
「無理矢理付けると、誰かを驚かしているようね。」
「恋する少女なのだからしょうがないだわさ。」
「口調が迷走しているわよ。」
くつくつ笑いながら、愛を叫ぶアミーを眺めながらコーヒーを飲み干す。
「本当にかっこいいんだってぇ。」
「ふぅん。そのおしゃれ・・・なんだっけ。」
「お洒落サングラスのこと?」
「そうそれ。よくそんなガラクタ買ったわね。」
「ガラクタなんかじゃないって!お洒落でしょ?ほらっ!」
かけてみせる少女に、目の前の友人は首をかしげて 微妙 と評した。
「もー!これで世界を見ると、なんとピンク色になるのよ!」
「まぁ、そうでしょうねぇ・・・。」
「そうよ!これをかけて愛しのカウツさまに会いに行ったら、私の気持ちを受け取ってもらえるかしら!?」
「変な人とは思われるんじゃないかしら?」
「えー。そうかなぁー。」
「まぁ、あの侯爵家子息のカウツ様の周りは、お綺麗な淑女の皆様がちょこちょこアタックしては玉砕しているから、キワモノ枠として記憶に残るんじゃない?」
キワモノかー と叫びながらも、記憶に残るという言葉にお洒落サングラスをじっと見つめる。
「よし!今日も愛を叫んできます!!」
「あら、もうそんな時間?」
「うん。ちょっと、今日は準備するものがあるから。」
「そうなんだ。・・・健闘を祈るわ。」
「ありがとう!行ってきます!!」
手をひらひらさせながらも見送ってくれる友人を背に、少女は愛しの彼の元へと走っていった。
「本日もっ!!愛しておりますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
今日もソファに座って読書する青年への後ろへと周り、首筋に両手を回して抱きつこうとする・・・のだが、首を ひょいっ と、横に傾けて少女の大好き攻撃を避けた。
なかなかに慣れた仕草に、少女は恨めしそうな瞳で避けた青年を見つめた。
「うぅぅ、何で避けるんですかぁ!?」
「うーん。君は、なんであともう少しで読み終わるって頃に来るんだろうねぇ。」
「乙女の勘です!」
「すごい勘だねぇ。他には何かわかるの?」
「カウツさまが、私の愛の気持ちにだんだんと絆されていることでしょうかっ!」
「それは、君の願望が混じってない?」
「わかっちゃいましたかー☆」
てへっ と笑う少女に、青年は にやり とした目を向けて本を閉じた。
「で、今日はどうするの?」
「私、最近気づいたのです。カウツさまのことを想うと、胸がきゅーって苦しくなって、そして体温が上がることに!!」
「ふぅん?」
「なので、私の体温を感じていただきたく後ろから襲わせていただきました!!」
どどん と青年の前に仁王立ちする少女に、本日もギャラリーは うわぁ という目線を向けていた。
「だから、私の・・・熱を・・・」
じりっ じりっ と青年に近づく少女に ごくりっ と息を呑む野次馬たち。
「感じてくださいませー!」
だっきー!!
「ちょっと遠慮しておこうかなぁ。」
ひょいっ と席を立って少女の抱きつきを避けた青年に、少女は顔を赤くして上目遣いで睨んだ。
「ヒドイ。私が熱を分けたいのはカウツさまだけなのに。」
「うーん。何故、台詞だけ聞くと、修羅場っぽいのかなぁ?」
「え、修羅場?今修羅場っぽいです!?うわぁぁぁぁ!!すごいすごい!!」
何がすごいのか少女は叫び、青年が座っていたソファの上で跳ねる。
「あ、そうだ!カウツさま、見てみてー!」
「ん?」
「じゃじゃーん!お洒落サングラス!!」
にこっ と笑ってサングラスをかける少女に、近づく青年。
「あぁ、これは珍しい。ディートルフ商会の新商品?」
「そうなんです!試作品だって、もらったんです。かけてみます?」
はい と、サングラスをとって彼がかけやすいようにと、向きを変えて腕を伸ばす。
ん と上体を折り、顔を近づけて少女にかけてもらう姿は仲の良い恋人同士にも見えて、二人の関係を一層謎にする。
「・・・これは、世界がピンク色になるね。」
「そうでしょう?そうでしょう??恋する乙女の視界なんですよ!!」
「そうなんだ。恋する乙女は、色の識別が難しくなるんだね。」
「そうです、そうです。ついでに好きな人の欠点や悪いところも脳内で勝手にいい風に捉えてしまうんですよ?これぞ、乙女マジック!!」
「そうなんだね。」
「なので、カウツさまの欠点や悪いところも私には、いい風にとらえてしまうので、お気を付けてくださいね!」
ソファに座りつつも、サングラスをつけた青年の顔に背を伸ばして顔を近づける。
「・・・欠点や悪いところに気付けずに後悔するのは君の方だと思うけど?」
「まさか!補ってもまだ、余りあるほど良いところを見つけてしまうので、問題ないです!」
「・・・そんなに僕の悪いところや欠点を知ってるの?」
探るような青年の視線にも少女は笑うだけ。
しばらく見つめあった二人は、青年のため息で終わりを告げる。
「君には、これをかけていたくらいがちょうどいいかもね。」
少女は目を伏せ、青年にサングラスをかけてもらう。
「また愛を告げにまいりますわ!」
「はいはい。たまにはお休みしてもいいからね。」
「まさか!私の愛は年中無休のカウツさま限定のバーゲンセールですわぁぁぁぁ!!!」
「はいはい。騒がしてごめんね。」
周りに一言いい、去っていく青年をうっとりと見送りつつ、失礼しましたー! と周りに叫び、少女は学生寮へと帰っていった。
さぁ、明日はどんな風に愛を叫ぼうか。
準備していたのは、いかに気づかれずに背後に忍び寄るかのポジショニングを探していたのです。
す、ストーカーじゃありません! ←