サラリーマンとアイドル戦隊と
「みんなー!今日は私たちの応援に来てくれてありがとー!」
その少女の声に、黄色い歓声が沸く。
その背後には、未だ立ち上る何かが爆発炎上した後の煙。
これは花火の演出等ではなく、彼女らもコンサートの舞台上からファンたちにご挨拶…などでは無い。
その証拠に、周囲は荒地で照明等は見当たらない。
そこに居るのは女性5人で構成された正義の味方グループとそのファンたち、そして若干の報道陣であった。
5人お揃いのデザインで色違いの、まるでステージ衣装のようなミニスカゴスロリウェアをまとい、素顔を晒しているが、彼女らは立派な『正義の味方』なのである。
「皆さんの応援のおかげで、今日も滞りなく悪の秘密結社の怪人を倒すことが出来ました。ありがとうございます」
最初の元気の良い、ちょっと背が低めの少女戦士に続き、少し大人びた『お嬢様』然とした少女がゆっくりと頭を下げていた。
他にも、某歌劇団の男役にでも成れるのではないかという雰囲気の凛々しい少女や、まったく表情を変えずに、それでも周囲の連中に手を振る少女、そして他の4人に比べて背が高く、若干態度が悪い、いや、むしろ周囲に対して敵意を持っているかのような、そんな少女と言う取り合わせの、5人であった。
「まゆりーん!今日も元気で可愛いぞーー!!」
「麗子さーん!今日も麗しいですーーー!」
「アキラさま~~!かっこよかったですー!」
「霧子ちゃーん!相変わらず無表情なところが…ハアハア!」
「アイリさま~~!相変わらず不機嫌なところがまたイイ!俺をなじってくれー!!」
「死ね」
一人態度の悪い、というかどうみてもコンビニにたむろしているヤンキーです、ありがとうございました。と言った感じで不機嫌全開なのはアイリさまと呼ばれた少女である。
この5人組は、『アイドル戦隊ナイチンゲール』と呼ばれる正義の味方で、素顔を隠すものが多いなか、全員がその素顔を晒している上に、その誰もが美少女なのである。
その上歌いながら戦うという一風変わった戦闘のため、生で見たいがための熱狂的なファンが付いているのである。
「そ、それじゃー皆さん、さようならー!」
ファンに向かって冷たく言葉を吐くアイリに焦りつつ、まゆりんと呼ばれた元気なおちびちゃんが周囲に愛想を振りまくと、上空から大型トラックサイズの胴体を持つ、ティルトローター機が爆音とともに下りてくるのが見えた。
☆
「やってらんねー」
「ま、まあまあアイリちゃん。あの人たちだって悪気があるわけじゃない…と思う…ような気が…しないでもないと何となく思えなくも無いんじゃないかなとか」
迎えの航空機に乗り込んで席に着いたとたんに、アイリ・ノルデンシュルドは悪態をついた。
諌めようとしているまゆりん――霧島百合香も、半ば以上に同意見の為、あまり強く言えない。
「正直邪魔」
無表情天使とファンにあだ名されている霧子――安藤霧子は、アイリの肩を持つようにぼそりとつぶやいた。
「私も彼らの昨今の振る舞いにはいささか常識を疑っていますわ。アイリさんの憤りも致し方ないかと」
機内に設置されている冷蔵庫から、冷えたドリンクを取り出してはアキラ――神宮寺明≪じんぐうじあきら≫――に手渡すのは、これまたあきれ顔の麗子――神宮寺麗子である。
「まあ、人気があるのは仕方ないでしょ。こんなに綺麗どころがそろっているんだし」
貰ったドリンクをあけ、ぐいっと一口あおってから、明は話の筋をそらした。
いつものとおりなら、毎度毎度恒例となっている、アイリの「辞める。絶対辞める」発言が出るところである。
なのでそれを阻止するためにも取りあえず話題を変えるために口を開いたのである。
「き、綺麗ってなんだよ!そんなのお前らだけじゃねえか!俺は、俺は、俺だってよぉ…」
語尾が小声になるアイリに、他の4人は声に出さずに突っ込んだ。
((((いや、むしろあんたが一番綺麗だからね!?))))と。
☆
この5人、実は同じ高校に通うクラスメートであるが、1名を除き元々は正義の味方などする気はなく、只の気楽な部活動への参加のつもりであった。
元々は、特撮研究会という同好会から端を発したエンターテインメント部がその始まりである。
その活動の一環で、いわゆる小さなお友達と大きなお友達相手のヒーローショーのお手伝いというものがあり、歴代部員はそのショーの舞台に立つことを意識して普段から生活していた。それこそ立ち居振る舞いから言動にいたるまで。
そこまでなら只の特撮ヲタ乙ですんだのだが、今年、神宮寺明が入学してからその活動が大きく様変わりしたのである。
「特撮ヒーロー?それもよし!けれど、どうせやるなら正真正銘本物の『正義の味方』をしようじゃないか」
これが後にエンターテインメント部改め『正義の味方部』となる部室の扉を開き、入ってきた明の第一声であった。
入学式の日から数日、新入生向けの部活勧誘シーズンのさなか、神宮寺明は妹の麗子を連れ、予てからの希望通り、エンタメ部へと足を向けた。
子供のころから仕事やら付き合いやらで忙しい両親に、半ば放置されて育った二人のお気に入りが、特撮番組であった。二人は特撮ヒーローを見て育ち、その後の時間帯に流されるニュース番組で本物の正義の味方を見て育ったのである。
その思い入れは並々ならぬものがあった。
幸いにして、妹の麗子は理想と現実と空想の区別がつく聡い娘だったので、いつも暴走と言うかアクセル全開で生活する姉のブレーキ役であった。
その麗子は、今回もまた明が暴走しないか心配でくっついてきたのである。
二人の入室に反応したのは、部室の隅に佇んでいた長身の少女、アイリである。
彫りの深い、美麗な彫刻も画やと言わんばかりの整った目鼻立ちとその白磁のような頬にかかる、ふわりとカールするプラチナの長髪。
ほっそりとした身体つきと、それに相反するような巨大な胸の丘を真新しい制服で包んだ姿。
どう見ても留学生《外国人》さんですありがとうございました。
並みの心胆の者ならばそこでUターンしていただろう、それほどに見たものに衝撃を与える光景であった。
しかし、明は気にすることなく歩みを進め、己の知る限りの外国語で語りかけながら、目の前でたちすくむアイリに向かっていった。
そして返ってきた言葉と行動は。
「俺は外人じゃねぇーー!!」
うっすらと涙を浮かべながらとても男前な科白を吐き、ピクリとも反応できず笑顔のままの明のこめかみに鉄槌打ちをぶちかます、アイリの姿であった。
☆
懐かしくも惨たらしい過去を思い出した4人は、アイリのコンプレックスを再確認していた。
単純に特撮好きであったために、普通に入部した霧島百合香であるが、そこについてきたのがアイリである。
元々は両親ともに北欧の出身だったアイリの両親は、日本文化に毒された挙句、来日。ついには帰化してしまったのだ。なので、アイリの名前も漢字表記だと野流伝主瑠度・愛理となるのだが、書くのに時間がかかりすぎるのでもっぱらカタカナ表記である。
そして、幼いころから見た目は完璧に外人のため、昔から周囲の心無いガキ共にからかわれたり、目立つが故のいじめにあったり幼女趣味性犯罪者にさらわれかけたりと酷い目に会いっぱなしであったのだ。
唯一の友達が、御隣さんで幼馴染のまゆりんこと霧島百合香である。
が、同じクラブに入ると言いださなければ彼女の人生も(彼女にとっては)それなりに好転していたであろう。
なにしろ中3の高校入試時期から入学にかけての短期間での成長っぷりは、傍で見ていた百合香も嫌になるくらいのレベルであったからだ。
元々の白い肌に浮かんでいたソバカスが消え、親譲りの西洋的美しさの細面が際立ち、くすんでいた灰色の髪は、輝くプラチナの髪になった。
175cmの細身の長身の肢体には、百合香の羨望の的である胸を筆頭に、20cmは身長に差があるにもかかわらず、ほぼ同寸のスカートが入る柳腰。女の百合香ですら噛り付きたくなるような桃尻に、無駄に長く(本人談)細い足が標準装備されたのである。
普通の学生生活であれば、高嶺の花扱いではあるものの、そのさばさばとした気風の良さに容姿が加わる事で、人気者になるのに時間はかからなかったであろう。
しかし、明に目を付けられた事が、アイリの転落人生(本人談)の始まりであった。
☆
「アイリちゃんも、もう少し自分に自信をもてるようになれれば良いのにねぇ」
明の『正義の味方始めました』的な声かけに、百合香は一も二もなく賛同した。
そして、アイリを引きずり込んだのも百合香であるが、正義の味方活動により、自分に自信がつくのではないか?という期待をしてのことである。まあ今のところその成果は上がっていないが。
「三つ子の魂百まで」
心配する百合香に、ぼそりと告げたのは霧子である。
この娘、口数は少ないが、一度口を開くと要点をピンポイントでつくことが多く、明からは一撃必殺娘とか毒針娘などと呼ばれている。
霧子はどういった経緯で集まったのか、と問われれば、いつの間にかアイリのそばに居た、としか言いようがない。
冗談抜きで、高校に入学してクラス分けが行われた時には、もうすでにアイリの横にくっついて歩いていたのだ。常にそばにいた百合香すら気がつかなかった、あっという間の出来事である。
☆
「えっと、あんた誰?」
入学式が終わり、クラス分けにしたがって教室に向かう途中。さすがにアイリも見知らぬ娘がついてくるのが気になった。
「霧子」
「婿?」
一緒にいた百合香も、単語で帰ってきた言葉の意味がわからず聞き返した。
「安藤霧子。近藤という家にだけは嫁ぎたくない。リスキーな名前」
あー、っとアイリと百合香は想像して理解した。
が、実際誰?と再び問いかけた。
「同じクラス。一緒に行こう」
そうなのかと、改めて自己紹介しあった三人は、教室に向かい、そしてその数日後、百合香についてゆくアイリと、その横をチョコチョコと歩む霧子の姿が、クラブ棟に見られたのである。
☆
「それにしても、アイリの成長具合は凄まじい。初見でGカップだったのが、今はHカップ」
コンプレックスゆえに自身の実力の度合いが理解できず落ち込むアイリをよそに、霧子はスカウターによる測定値を皆に告げた。
「んなっ!?」
最近きつくなったブラを代えたばかりで誰にも見せていないのになぜばれた?と顔に出ているアイリをよそに、4人は羨ましそうに口々に言い出した。
「まあ、お姉さま?GですらありえないのにHですって」
「ほおう?そのうち一人サッカーリーグにでも成長しかねないな」
「しねばいいのに」
「私は百合香の胸も好き。つまり、巨乳が素晴らしいのではなくおっぱいが素晴らしいのだ」
5人で姦しくおしゃべりが続く中、背広の男性がパンパンと拍手し、会話の中断を暗に求めた。
「みんな御疲れ様。ちょっといいかなー?」
5人のマネージャーとも言える、5人を本当の正義の味方にしてしまった張本人。
自他共に認める普通のサラリーマン、中肉中背のどこにでも居る彼が、そこにいた。
真バストサイズ表記
・AA ArchAngel (大天使)
・A Angel (御使い)
・B Beautiful (美しい)
・C Cute (可愛い)
・D Delicious (甘美)
・E Excellent (優秀・卓越)
・F Fantastic (感動的)
・G Great (偉大な)
・H Hallelujah (主を褒め称えよ)
・I Ideal (理想)
・J Justice (正義)
・K Kingdam (王国)
・L Legend (伝説)
・M Miracle (奇跡)
・N NotreDame (聖母マリア)
・O Origin (根源)
・P Perfect (完璧)
・Q Quo Vadis (主よどこに行きたもう)
・R Resurrection (復活)
・S Satisfaction (満足・充足)
・T Tsarina (女皇帝)
・U Universe (宇宙)
・V Victory (勝利)
・W Wonderfu (驚嘆)
・X X (未知(数)を表す)
・Y Yahweh (神)
・Z Zero (ゼロを越える物はゼロだけだ)
つまり、巨乳が素晴らしいのではなくおっぱいが素晴らしいのだ。