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TSMC6月売上高67.9%増が示すAI半導体景気の現在地――需要の加速、供給制約、設備投資と長期投資の論点

1.ニュースの概要


【事実】台湾積体電路製造、TSMCは2026年7月13日、6月の連結売上高が4,426億8,000万台湾ドルとなり、前月比6.2%増、前年同月比67.9%増だったと発表した。2026年1~6月の累計売上高は2兆4,044億8,400万台湾ドルで、同期比35.6%増となった。月別では1月4,012億6,000万台湾ドル、2月3,176億6,000万台湾ドル、3月4,151億9,000万台湾ドル、4月4,107億3,000万台湾ドル、5月4,169億8,000万台湾ドル、6月4,426億8,000万台湾ドルであり、6月は過去最高水準の月次売上高となった。[台湾セミコンダクター](https://pr.tsmc.com/english/news/3323?utm_source=chatgpt.com)


今回の数字で特に重要なのは、単に前年同月比67.9%増という派手な伸び率ではなく、4~6月期の売上高合計が約1兆2,704億台湾ドルに達したことである。TSMCが4月時点で示していた2026年4~6月期の売上高見通しは390億~402億ドル、想定為替レートは1ドル=31.7台湾ドルだった。今回の月次数字を合計して同レートで換算すると約400.8億ドルとなり、会社予想レンジの上限付近に到達した計算になる。したがって今回の発表は「AI需要が強い」という漠然とした話ではなく、少なくとも売上高についてはTSMCが四半期ガイダンスの上限近くを達成した可能性を示す数字である。[TSMC](https://investor.tsmc.com/english/quarterly-results/2026/q1?utm_source=chatgpt.com)


ただし、前年同月比67.9%増をそのまま半導体需要の実力値と判断するのは危険である。2025年6月の売上高は2,637億1,000万台湾ドルで、同年5月から17.7%減少していたため、比較対象が一時的に低かったという「ベース効果」が含まれる。ベース効果とは、前年の数字が低いことで今年の伸び率が実態以上に大きく見える現象である。それでも前月比でも6.2%増え、1~6月累計も35.6%増えているため、単なる比較上の錯覚だけでは説明できない。AI向け先端半導体の需要が依然として非常に強いことは事実と考えられる。[TSMC](https://investor.tsmc.com/english/monthly-revenue/2025?utm_source=chatgpt.com)


2.ニュースが起きた背景


【事実】TSMCは半導体の受託製造、いわゆるファウンドリーの世界最大手である。ファウンドリーとは、自社ブランドの半導体を販売するのではなく、NVIDIA、AMD、Apple、Broadcomなどが設計した半導体を工場で製造する企業を指す。生成AI向けGPU、AIアクセラレーター、スマートフォン用SoC、ネットワーク半導体、CPUなど、最先端の高性能半導体の多くがTSMCの製造工程を利用している。このためTSMCの月次売上高は、世界の先端半導体需要を比較的早く確認できる重要指標である。


今回の売上増加を支えていると考えられる第一の要因は、AIデータセンター投資の拡大である。クラウド事業者や大手テクノロジー企業は、大規模言語モデルの学習だけでなく、実際にAIサービスを利用者へ提供する「推論」用の計算能力も増強している。学習はAIモデルを作る工程、推論は完成したモデルを使って回答や画像を生成する工程であり、利用者数と処理回数が増えるほど推論用半導体の需要は継続的に増える。


第二の要因は、先端プロセスの数量増加と製品単価の上昇である。半導体では回路線幅を細かくするほど、一般に処理性能や電力効率を向上させやすい。TSMCの3ナノメートルや5ナノメートル級の工程は、成熟工程よりウエハー単価が高い。さらにAI向けGPUでは、複数のチップとHBMを一体化する先端パッケージングも必要になる。したがって出荷個数だけでなく、1製品当たりの製造価値が上昇している可能性が高い。


第三の要因は、AI半導体の需要がGPUだけにとどまらなくなっていることである。GPUを大量に接続するためのネットワークスイッチ、光通信部品、CPU、電源管理半導体、カスタムASICなどにも需要が波及している。ASICとは、特定用途向けに設計された専用半導体である。汎用性の高いGPUに比べ、特定のAI処理で高い電力効率を実現できる場合があり、Google、Amazon、Metaなどが自社開発を進めている。TSMCはNVIDIAだけでなく、多数のAI半導体設計企業を顧客に持つため、AI市場全体の拡大を取り込みやすい。


3.経済学的な仕組みと因果関係


半導体産業では、需要が急増しても供給を直ちに増やすことはできない。最先端工場の建設には巨額の資金と数年の時間が必要であり、製造装置の調達、歩留まりの改善、技術者の育成も必要になる。歩留まりとは、1枚のウエハーから正常に動作する半導体を得られる割合である。この供給の硬直性により、需要増加局面では工場の稼働率が上がり、価格交渉力と利益率が改善しやすい。


TSMCの売上高増加は、おおむね「AIサービスの利用拡大→クラウド企業の設備投資増加→NVIDIAやBroadcomなどへの発注増加→TSMCの先端工程・先端パッケージ受注増加」という経路で生じる。一方、TSMC自身も需要に対応するため設備投資を増やすため、「売上増加→営業キャッシュフロー増加→工場・装置への投資増加→将来の生産能力拡大」という循環が形成される。


ただし半導体には典型的なシリコンサイクルがある。需要が強い時期に各社が設備投資を増やし過ぎると、数年後に供給過剰となり、価格と稼働率が低下する。今回のAIサイクルは従来のスマートフォンやパソコン中心のサイクルより構造的に長い可能性があるが、経済法則そのものが消えたわけではない。長期投資家は需要の強さだけでなく、供給能力がどの程度の速度で増えているかも見る必要がある。


4.世界経済、米国、中国、日本への影響


世界経済に対しては、TSMCの高成長は企業のAI設備投資が景気拡大を支えることを示す。AI投資は半導体製造だけでなく、建設、電力、冷却設備、光通信、データセンター、不動産、送配電設備など幅広い産業に波及する。一方、AI設備投資の規模がGDPを押し上げても、短期間で同額の生産性向上が実現するとは限らない。企業が莫大な設備投資を行った後、AIサービスから十分な収益を得られなければ、投資縮小が世界景気の下押し要因になる。


米国経済では、NVIDIA、AMD、Broadcom、Appleなど米国企業が半導体の設計と販売を担う一方、製造の重要部分を台湾のTSMCに依存している。これは米国企業が自ら工場を大量保有せず、高い資本効率を維持できる利点がある反面、台湾海峡の地政学リスクを抱える構造でもある。米国内での半導体工場増設は供給網の分散に寄与するが、人件費、建設費、運営費の高さによってTSMCの収益性を押し下げる可能性もある。


中国経済にとっては複雑である。AI需要の拡大は中国のデータセンター、電力設備、国産半導体開発を刺激する一方、米国の輸出規制によって最先端GPUや製造装置へのアクセスが制限されれば、海外との計算能力格差が拡大する恐れがある。中国企業が国産AIチップへの切り替えを加速すれば、中長期的には独自の半導体供給網が発達する可能性がある。ただし設計、製造装置、先端露光、HBM、先端パッケージなど複数の技術を同時に高水準へ引き上げる必要があり、短期間でTSMCを完全に代替することは容易ではない。


日本経済には比較的大きな恩恵が期待できる。日本企業は最先端ロジック半導体の大量生産では後れたが、半導体製造装置、検査装置、シリコンウエハー、フォトレジスト、研磨材、精密部品などで高い競争力を持つ。TSMCが世界各地で設備投資を増やせば、東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコ、レーザーテック、信越化学工業、SUMCO、SCREENホールディングスなどに受注機会が生まれる。一方、日本株ではAI関連期待が株価に先行して織り込まれやすく、業績が伸びてもPER、株価収益率が縮小して株価が上がらないことがある。良い企業と良い投資対象は必ずしも同じではなく、購入価格が重要になる。


5.金利、インフレ、為替、債券、コモディティへの影響


AI設備投資の拡大は、短期的には景気を押し上げ、電力、建設、技術者、銅、データセンター用地などの需要を増やすため、インフレをやや高止まりさせる可能性がある。特に電力網や発電能力の増設が追いつかなければ、電力価格が上昇し、データセンターの運営コストにも影響する。一方、長期的にAIが企業の生産性を大きく引き上げれば、同じ人数でより多くの生産が可能となり、物価上昇を抑える方向に働く可能性がある。つまりAIは短期的には投資需要によるインフレ要因、長期的には生産性向上によるディスインフレ、物価上昇率低下の要因になり得る。


金利面では、AI投資が経済成長と企業利益を押し上げる間は長期金利が高止まりしやすい。しかし大手テクノロジー企業の投資採算が悪化し、設備投資が減速すれば、景気期待の低下を通じて長期金利を押し下げる可能性がある。債券市場ではAI投資のための社債発行増加も注目点となる。十分な営業キャッシュフローを持つ企業なら借入依存度は低いが、データセンター専業企業や電力会社が大規模投資を負担する場合、財務レバレッジが上昇しやすい。


為替については、TSMCの売上高は米ドル建て契約の影響を受ける一方、決算は台湾ドルで表示されるため、台湾ドル安は換算上の売上高を押し上げやすい。ただし製造装置や原材料の一部も外貨建てであり、単純に通貨安が利益増加に直結するわけではない。日本の投資家が米国株や海外半導体ファンドを保有する場合、円安は円換算リターンを押し上げ、円高は逆風となる。


コモディティでは、AIデータセンター建設によって銅需要が増えやすい。銅は電線、変圧器、配電設備、冷却装置に幅広く使われる。天然ガスはデータセンター向け電力需要に対応するための火力発電燃料として需要が増える可能性がある。原油への直接的影響は限定的だが、建設機械、物流、非常用発電機などを通じた間接需要がある。金については、AI需要そのものより、インフレ、実質金利、ドル、地政学リスクの影響が大きい。


6.株式市場と主要指数への影響


TSMCの売上高が市場予想を上回る場合、最も直接的な追い風を受けやすいのはSOX指数である。SOXは半導体設計、製造、装置などの主要企業で構成され、TSMCの受注増加はNVIDIA、AMD、Broadcomなどの需要の強さを裏づけるためである。NASDAQにもプラスだが、NASDAQにはソフトウエア、インターネット、小売なども含まれるため、影響はSOXより薄まる。S&P500では大型テクノロジー企業の指数内比率が高く、AI設備投資が利益成長につながる限り指数全体を支える。


ただし、市場は現在の好業績ではなく「予想との差」を取引する。前年同月比67.9%増でも、市場がそれ以上を期待していれば株価は下落し得る。反対に増収率が鈍化しても、事前予想より良ければ株価は上昇する。このため投資家は数字の大きさだけでなく、事前の市場予想、会社ガイダンス、株価に織り込まれたバリュエーションを確認する必要がある。


日本株では、TSMCの設備投資増加が製造装置・材料企業に追い風となる。ただし企業ごとに恩恵の受け方が異なる。アドバンテストはAI向け高性能半導体のテスト需要、ディスコは切断・研削工程、東京エレクトロンは前工程装置、レーザーテックは先端露光用マスク検査、フジクラはデータセンター向け光配線などに強みを持つ。キオクシアはNAND型フラッシュメモリー企業であり、TSMCの先端ロジック需要増加が直接そのまま売上になるわけではない。AIサーバーのSSD搭載量増加やストレージ需要の拡大を通じた間接効果が中心となる。


7.AI・半導体・データセンター業界への影響


今回の数字は、AI半導体需要が依然として供給側を強く刺激していることを示唆する。AIサーバーは通常のサーバーより高価なGPU、HBM、高速ネットワーク、大容量電源、液冷設備を必要とするため、1台当たりの半導体搭載金額が大きい。液冷とは、空気だけでなく液体を使ってGPUなどの熱を除去する方式であり、高密度化したAIサーバーでは重要性が高まる。


GPUの性能向上だけではAIデータセンター全体の処理能力は決まらない。複数のGPU間でデータを高速に移動させるネットワーク、GPUへデータを供給するHBM、電力を安定供給する電源設備、熱を排出する冷却設備が必要である。いずれか一つが不足すれば、GPUを設置しても十分に稼働できない。このためAIインフラ投資は「GPU単独の成長」から「システム全体の成長」へ移行している。


TSMCには先端プロセスだけでなく、CoWoSなどの先端パッケージ能力が重要になる。先端パッケージとは、計算用チップとHBMなどを高速かつ省電力に接続する技術である。AIチップの大型化が物理的・経済的な限界に近づくほど、複数チップを組み合わせるチップレット技術の価値が高まり、TSMCの製造とパッケージを一体で提供できる能力が競争優位になる。


8.メモリー市場への影響


HBMはAI向けGPUの近くに配置される広帯域メモリーで、大量のデータを高速に供給する。GPUの演算能力が高くてもメモリーからデータが届かなければ処理装置が待機するため、HBMはAI性能を左右する重要部品である。TSMCの先端半導体売上高が増えていることは、一般にHBM需要にも追い風となる。


SK hynixはHBMで強い地位を持ち、MicronとSamsungも供給拡大を進めている。需要が供給を上回る間は、平均販売価格、ASPと利益率が改善しやすい。ただしHBMは通常のDRAMより製造が複雑で、歩留まり、発熱、積層、検査などが課題になる。各社が設備投資を急増させ、歩留まりも改善すれば、2027年以降に供給増加率が需要増加率を上回る可能性には注意が必要である。


通常DRAMにもAIサーバーの大容量化による恩恵がある。一方、NANDへの波及はHBMほど直接的ではない。AIデータセンターは学習データや生成データを保存するため大量のSSDを必要とするが、NAND市場はスマートフォン、パソコン、一般サーバーの需要にも左右される。キオクシアを見る場合は「AIが伸びているから必ずNAND価格が上がる」と単純化せず、NANDの在庫、ビット出荷量、設備投資、価格交渉、競合企業の減産・増産方針を確認すべきである。


9.関連企業への影響


NVIDIAには明確な追い風である可能性が高い。TSMCの先端工程とパッケージの稼働増加は、NVIDIAのGPU需要が強いことを示す間接的な証拠になり得る。ただしTSMCは複数企業を製造しているため、売上高増加をすべてNVIDIA向けと判断してはいけない。NVIDIAの長期的な焦点はGPU性能だけでなく、CUDAを中心としたソフトウエア、生態系、ネットワーク、システム販売を維持できるかである。


AMDもAIアクセラレーターの採用拡大が進めばTSMCの生産能力増加の恩恵を受ける。ただしNVIDIAとのソフトウエア面の差、顧客による実運用性能の評価、供給能力が重要になる。BroadcomはAIネットワーク半導体と顧客専用ASICで恩恵を受けやすい。大手クラウド企業が自社チップを増やせば、それはNVIDIAにとって競争要因だが、BroadcomやTSMCには成長機会となり得る。


MicronとSK hynixにはHBM需要を通じて追い風となる。特に確認すべきなのは、売上高だけでなくHBMの量産認定、供給契約、歩留まり、設備投資、DRAM全体の供給規律である。Samsungはメモリーとファウンドリーの両方を持つが、先端ファウンドリーの歩留まりと顧客獲得でTSMCとの差を縮められるかが課題となる。


キオクシアにはAIストレージ需要という中長期的な追い風があるが、NAND価格の変動が業績に強く影響する。AI向け需要だけではなく、競合各社の増産、在庫評価、設備投資負担、借入金、金利負担を見る必要がある。TSMCとは異なり、メモリー企業は市況悪化時に製品価格が急落し、営業利益と営業キャッシュフローが大きく変動しやすい。


10.企業財務とキャッシュフロー


TSMCの2025年通期売上高は約3兆8,091億台湾ドル、純利益は約1兆7,179億台湾ドルだった。2025年のフリーキャッシュフローは約1兆26億台湾ドルとなり、2024年の約8,702億台湾ドルから増加した。フリーキャッシュフローとは、事業から得た営業キャッシュフローから、工場や設備に使った資金を差し引いた後に残る現金である。[TSMC](https://investor.tsmc.com/english/encrypt/files/encrypt_file/reports/2026-01/00fe50f72b38d74e6b9b066398f020f337cd4e9d/4Q25%20Management%20Report.pdf?utm_source=chatgpt.com)


TSMCの2025年の投資活動による純キャッシュ流出は約1兆115億台湾ドルで、主な要因は設備投資だった。財務活動による純流出は約1兆1,020億台湾ドルである。設備投資額が極めて大きいにもかかわらず、十分なフリーキャッシュフローを維持していることは、TSMCの事業競争力を示す。[TSMC](https://investor.tsmc.com/sites/ir/annual-report/2025/2025%20Annual%20Report_E.pdf?utm_source=chatgpt.com)


ただし、売上高増加だけでは財務の健全性を判断できない。投資家は営業キャッシュフローが純利益と同様に増えているか、売掛金や在庫が過度に増えていないか、設備投資後もフリーキャッシュフローがプラスかを確認すべきである。先端工程への投資が膨らみ、減価償却費も増えるため、将来の稼働率が低下すると利益率が急速に悪化する可能性がある。


研究開発投資も重要である。半導体製造では次世代工程を継続的に開発しなければ競争力を失うため、研究開発費を単なるコストではなく将来の参入障壁を作る投資として見る必要がある。ただし研究開発費が増えても顧客の量産採用につながらなければリターンは得られない。TSMCの強みは、技術開発だけでなく、多数の顧客の設計情報、製造ノウハウ、歩留まり改善、装置メーカーとの協力関係が積み重なっている点にある。


11.短期・中期・長期の影響


短期、数日~3か月では、TSMCの4~6月期売上高がガイダンス上限付近に達した可能性が半導体株の心理を支えやすい。ただし正式決算では粗利益率、営業利益率、設備投資計画、次四半期ガイダンスがより重要になる。売上高が良くても海外工場のコスト上昇や先端工程の立ち上げ費用によって利益率が市場期待を下回れば、株価が下落する可能性がある。


中期、3か月~2年では、AI学習用から推論用への需要拡大、カスタムASICの普及、HBM供給能力、先端パッケージ増設が主要テーマになる。最大の論点は、大手クラウド企業の設備投資が継続するか、その投資がクラウド売上高やAIサービス収入に結びつくかである。AI半導体メーカーの売上高が増えても、最終顧客が十分な収益を得られなければ設備投資は減速する。


長期、2~10年以上では、AIがクラウドサービス、自動運転、ロボット、医薬品開発、製造業、金融、国防、量子コンピューティングの制御・解析などへ広がれば、計算需要は構造的に増える可能性が高い。一方、アルゴリズムの効率化によって同じ処理を少ない計算量で実行できるようになれば、半導体需要の増加速度が鈍る可能性もある。効率化は半導体需要を減らす場合もあるが、利用コスト低下によって用途を増やす「ジェボンズのパラドックス」が起き、総計算量が逆に増える可能性もある。


12.強気・中立・弱気シナリオ


強気シナリオでは、AI推論需要が想定以上に増え、大手クラウド企業の設備投資が年率20~30%程度で拡大を続ける。NVIDIAのGPU、BroadcomなどのカスタムASIC、HBM、ネットワーク需要が同時に伸び、TSMCの先端工程と先端パッケージが高稼働を維持する。この場合、TSMCの売上高成長と利益率が高水準で続き、SOX、NASDAQ、日本の半導体製造装置株が中長期的に上昇しやすい。ただし株価上昇が利益成長を大幅に先行すると、好業績でも調整が起こる。


中立シナリオでは、AI需要は伸びるが、成長率は徐々に正常化する。大手クラウド企業は投資を続ける一方、投資効率を厳しく選別し、一部のAI関連企業では受注が鈍化する。TSMCは高い稼働率を維持するが、前年同期比の増収率は現在の30~60%台から低下する。株価は業績拡大とバリュエーション調整を繰り返しながら、長期的には緩やかな上昇となる。


弱気シナリオでは、AIサービスの収益化が遅れ、クラウド企業が設備投資を削減する。同時にTSMC、Samsung、Intel、メモリー各社の供給能力が増加し、稼働率と価格が低下する。米中対立や台湾海峡の緊張、輸出規制、景気後退も重なれば、半導体企業の売上高、粗利益率、フリーキャッシュフローが同時に悪化する可能性がある。高PERの半導体株は利益の減少以上に株価が下落しやすく、SOXは市場全体より大きな調整となり得る。


13.投資家が確認すべき指標


今後はTSMCの四半期売上高だけでなく、先端工程の売上構成比、粗利益率、営業利益率、設備投資額、海外工場のコスト、先端パッケージの生産能力を確認すべきである。NVIDIA、AMD、Broadcomではデータセンター売上高、受注残、粗利益率、在庫、次四半期ガイダンスが重要となる。Micron、SK hynix、SamsungではHBM売上高、DRAM・NAND価格、ビット出荷量、設備投資、在庫日数、フリーキャッシュフローを見る必要がある。


マクロ面では、米国の政策金利、10年国債利回り、インフレ率、企業の設備投資、電力需要、銅価格、台湾ドルと米ドルの為替を確認する。AI需要が強くても金利が大幅に上昇すれば、将来利益の現在価値が低下し、高PER株には逆風となる。またクラウド大手の設備投資額だけでなく、クラウド売上高と営業キャッシュフローの伸びを比較し、投資が収益に転換されているかを見ることが重要である。


14.結論


今回のTSMCの6月売上高は、AI向け先端半導体の需要が2026年半ば時点でも非常に強いことを示す重要な数字である。4~6月期売上高は会社予想の上限付近に達した可能性があり、AI設備投資が単なる期待ではなく、TSMCの実際の売上高へ転換されていることが確認できる。一方、前年同月比67.9%増には2025年6月の低い比較対象によるベース効果も含まれるため、成長率の見た目だけで過度に強気になるべきではない。


長期的には、TSMCはAI、スマートフォン、自動車、ネットワーク、カスタム半導体など複数の成長市場に対し、製造基盤を提供する「半導体産業の通行料型企業」に近い立場を持つ。どのAIチップ設計企業が最終的に勝つかを完全に予測できなくても、多くの有力企業がTSMCを利用する限り、同社は市場全体の成長を取り込みやすい。ただし地政学、海外工場のコスト、巨額設備投資、技術競争、顧客集中、半導体サイクルというリスクは残る。


ユーザーのように10年以上の運用を前提としてS&P500、NASDAQ、SOXを保有する場合、今回のニュースは長期投資の方向性を否定する材料ではなく、AI半導体需要の継続を裏づける材料と評価できる。ただしSOXや個別半導体株はS&P500より値動きが大きく、好況期に期待が過剰に織り込まれやすい。したがってS&P500を中核とし、SOXやNASDAQを成長枠として組み合わせ、個別株は企業の競争優位性、キャッシュフロー、バリュエーションを確認しながら限定的に保有する考え方が合理的である。


長期投資家が注目すべきポイント


・TSMCの6月売上高は前年同月比67.9%増だが、前年の反動も含まれるため、1~6月累計35.6%増を基調として見る

・4~6月期売上高は会社予想上限付近に達した可能性があり、AI需要は実際の売上高に転換されている

・今後は売上高よりも粗利益率、営業利益率、設備投資、フリーキャッシュフロー、次四半期ガイダンスが重要

・AI投資の持続性は、クラウド企業が設備投資に見合うAI収入と営業キャッシュフローを得られるかで決まる

・GPUだけでなく、HBM、ネットワーク、先端パッケージ、液冷、電力、光通信まで含めて見る

・MicronとSK hynixはHBMの恩恵が大きいが、供給増加による将来の価格下落に注意する

・キオクシアはAIストレージ需要の恩恵を受け得るが、NAND市況と財務負担の確認が不可欠

・日本株では製造装置・検査・材料企業に恩恵が及ぶが、高いPERでは好決算でも下落し得る

・TSMCはAIチップ企業間の勝敗にかかわらず製造需要を取り込みやすいが、台湾海峡リスクは消えない

・S&P500を中核、NASDAQ・SOXを成長枠とし、半導体好況時にも過度な集中を避けることが重要


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