5 力の差
校門前に立っている黒いローブは、全部で五人だった。
一人は、さっきから校門の前で殺戮を続けている。
剣を抜き、意味の分からない奇声を上げながら、動くものを見つけては斬り伏せていた。
一人は、空を旋回するドラゴンの背に乗っている。
悠々とした姿で、まるで地上の出来事に興味がないかのようだった。
もう一人は、校庭の端で寝そべり、腕を組んで空を眺めている。
戦場の真ん中とは思えないほど、無防備で、無関心に見える。
残りの二人が、ゆっくりと校庭の中央へ歩いていった。
そのうちの一人が、突然、膝をつく。
まるで疲れ切ったかのように、あるいは何かに身を委ねるように。
もう一人が、その肩に手を置いた。
次の瞬間、二人を中心に、地面に光が走る。
円を描くように広がっていくそれは、どう見ても魔法陣だった。
何をするつもりなのか。
考えるより先に、背中を冷たいものが這い上がる。
――嫌な予感しかしない。
その時だった。
「うおおおおお!!」
突然、校舎の窓から人影が飛び出していく。
一人、二人ではない。
数十人だ。
「俺の王女ちゃんを返せ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
意味の分からない叫び声が、次々と響く。
多分、目の前であの美女を殺された怒りだ。
それと、昨日手に入れたばかりの力への過信。
自分たちは特別だ。
強くなった。
勝てるはずだ。
そんな思いが、彼らを前に押し出していた。
だが。
ドラゴンの背に乗っていた黒ローブが、ふわりと飛び降りる。
地面に着地した瞬間、土煙が舞い上がった。
煙の中から現れたのは、
思ったよりも背の低い人物だった。
次の瞬間。
虐殺が始まった。
剣も、魔法もいらない。
素手で、殴り、砕き、引き裂く。
男子校生たちが放った魔法は当たっているはずなのに、
黒ローブはまるで意に介さない。
強い力を、
より強い力で、ねじ伏せている。
圧倒的だった。
数秒で、誰もが悟る。
――勝てない。
さっきまで吠えていた連中が、次々と逃げ出す。
背中を向け、我先にと校舎へ戻ろうとする。
プライドなんて、最初からない。
女子の目がないからだ。
すごい剣幕で土下座する奴もいた。
泣きながら謝る奴もいた。
黒ローブは、一瞬だけ動きを止めた。
ほんのわずか、ためらったようにも見えた。
その瞬間。
謝って手を合わせていた一人が、
急に顔を上げる。
手のひらから、赤い光線が放たれた。
至近距離。
直撃。
黒ローブが、うずくまる。
「今だ!!」
誰かが叫び、
生き残っていた連中が一斉に逃げ出す。
汚い手でも、何でも使う。
それが男子校生だ。
だが。
うずくまっていた黒ローブの身体が、
不気味に震え始めた。
骨が軋む音。
肉が膨れ上がる音。
黒いローブが裂ける。
中から現れたのは、
人の形をした何かだった。
全身に鱗が生え、筋肉は異常に膨張し、
背中からは歪な翼が伸びる。
顔は、まだ人間の名残を残しているが、
口は大きく裂け、牙が並んでいる。
まるで――
人がドラゴンになりかけた怪物。
校庭が、急に狭く感じられた。
そいつは、はっきりと怒っていた。
誰も、何も言えない。
声すら出ない。
怪物は、ゆっくりと首を巡らせ、
逃げていった連中の背中を追うように、校舎を見据えた。
そして。
大きく、口を開ける。
次の瞬間、
学校すべてを埋め尽くすほどの火力が、解き放たれた。
灼熱のブレスが、校舎へ向かって一直線に襲いかかる。
「終わった」と誰かが呟いた。




