表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

4 地獄

朝。


校舎の中は、思ったよりも早く動き出していた。

一夜明けたというだけなのに、昨日までとは空気が違う。


「……青木、頼む」


「はいはい」


水魔法使いの青木が、半ば慣れた様子で手をかざすと、空中から冷たい水が降り注いだ。

即席のシャワー代わりだ。


昨日の夜、無茶なトレーニングを一晩中したせいで身体中が汗臭かったが、水を浴びると一気に目が覚める。

それにしても体は依然として軽い。ヒール便利すぎるだろ、と内心で思いながら、即席シャワーをありがたく使わせてもらった。


教室に戻ると、真っ先に気づく。


――佐々木がいない。


席はそのままなのに、本人の姿だけが抜け落ちている。


(……まあ、あいつなら)


一人でも何とかなる。

森に消えていった背中を思い出しながら、そう思う。


ただ、よく見ると――

佐々木だけじゃなかった。


空いている席が、いくつもある。


「なあ、他にもいなくね?」

「別のクラスも何人か消えてるって」


どうやら、逃げ出したのは佐々木一人じゃないらしい。

現実を受け止めきれなかったのか、あるいは逆に、受け止めすぎたのか。


体育館の前を通ると、妙な噂も耳に入ってきた。


床の一部が割れ、壁には焦げ跡のようなものが残っている。

昨日の夜、誰かが力を使って派手にケンカをしたんじゃないか、という話だ。


物騒すぎる。

未成年の若い男に、突然こんな力を与えれば、ろくなことが起きないのは当たり前だった。


それでも。


一夜明けた生徒たちは、昨日よりずっと落ち着いていた。

混乱はあるが、パニックはない。


現実を、少しずつ受け入れ始めている。

そんな空気だった。


担任の黒岩先生は、朝から職員室に詰めっぱなしらしく、教室には姿を見せない。

教師たちも、相当大変なんだろう。


しばらくすると、購買に残っていたパンが配られた。

数は少ないが、朝ごはん代わりにはなる。


それをかじりながら、自然と話題はこれからのことになる。


「俺、魔導師だしさ、研究とかしてみたい」

「国に雇われたら、英雄扱いじゃね?」

「異世界で一発当てるチャンスだろ」


夢や希望に満ちた話題が飛び交う。

声は明るく、笑顔も多い。


ちなみに俺は、

異世界の可愛い女の子とイチャイチャしたい。

できれば平和に。できれば命の危険なしで。

もちろん、そんなことは口に出さない。

でも、どうせ皆んな同じような事を考えているだろう。


代わりに、能力の話になる。


「見て見て、これ」

「おおっ!」

「ヤバ、マジで魔法使いじゃん」


簡単な発表会みたいになり、教室は笑い声で満たされた。

皆、ゲラゲラ笑い合っている。


この時間が、ずっと続けばいいのに。

そんなことを、本気で思った。


――その時だった。


プパァー、というラッパの音が、校舎を揺らした。


昨日よりも、明らかに派手だ。


窓際に人が殺到する。


校門前に停まっていたのは、

昨日のものよりさらに豪華な馬車だった。


白を基調にした車体には、金や宝石のような装飾が惜しみなく施されている。

明らかに、格が違う。


扉が開く。


そこから降りてきたのは――

息を呑むほどの美女だった。


腰まで届く、光をはらんだブロンドの髪。

朝日を反射して、まるで金の糸みたいに揺れる。


整いすぎているほどの顔立ち。

白い肌に、澄んだ青い瞳。

立っているだけで、周囲の空気が変わる。


ドレスは上品で、無駄な露出はないのに、

その存在自体が、完全に“別格”だった。


「……やっば」

「女神って実在するんだ……」


男子校は一瞬で沸騰した。

興奮しすぎて、窓から身を乗り出し、落ちかける奴までいる。


美女は、魔法で声を拡張し、静かに話し始めた。


自分は、この国の王女であること。

勝手にこの世界へ連れてきたことへの謝罪。

そして――元の世界へ戻る方法を知っている、ということ。


教室は、一瞬で静まり返った。


話は続く。


この世界の現状。

他国との戦争。

助けてほしい理由。


そして――


「どうか、この世界を――」


そこまで言った瞬間。


首が、飛んだ。


理解する前に、

轟音が響いた。


爆発。


衝撃波。


窓ガラスが、音を立てて砕け散る。


校門前に、

黒いローブをまとった数人が立っていた。


次の瞬間、

護衛たちが次々と倒れていく。


いや、殺されていく。


駆け寄ってきた騎士たちも、

まるで玩具みたいに切り捨てられ、吹き飛ばされた。


王女のそばにいた護衛は、必死に剣を振るい、少しだけ粘った。

だが、急に動きが止まり、その場に膝をつく。


そして――倒れた。


男子校生達は、言葉を失った。


悲鳴も出ない。

誰も、動けない。


助けに向かった三千人規模の軍勢も、

空から現れたドラゴンによって、一瞬で蹂躙された。


炎。

咆哮。

破壊。


すべてが、あまりにも一方的だった。


――昨日まで、普通の高校生だった俺たちは、

今、本物の地獄を目にしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ