表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

13 探索開始

一夜が明けた。


といっても、太陽が昇ったとか、朝焼けが見えたとか、そういう分かりやすい変化があったわけじゃない。

ただ「時間が経った」と、皆んなが感覚で理解しただけだった。


俺は、眠くなかった。


眠気が来る前に、ヒールで押し流していたからだ。

正直、自分でも少し引くくらいには、一晩中トレーニングを続けていた。


合間に、教室の外を少し歩いた。

廊下の角を曲がった先で、ゴブリンと出くわした。


背は低く、緑がかった肌。

歯をむき出しにし、涎を垂らしながらこちらを睨みつけてくる。昨日なら、少しは躊躇していたかもしれない。だが、身体は勝手に動いた。


剣を抜き、距離を詰める。

振ると、手応えは軽いが確実に当たる。

ゴブリンは、断末魔を上げる暇もなく、その場で霧のように消えた。

魔物は、やはり死ぬと消える。

結晶は、残らない。


(……人だけ、か)


そう考えた瞬間、胸の奥が少し重くなった。



「朝」という区切りで、全員行動が始まった。


校舎の探索。

昨日までと、明らかに違う。


教室が、少しだけ広い。

天井が高くなっていたり、奥行きが伸びていたり、寸法が微妙に狂っている。

見慣れたはずの場所なのに、どこか落ち着かない。


(……変質してるな)


藤原も、言葉を発さずに周囲を観察していた。


魔物は、そこら中を歩いている。

数は多いが、統率は取れていない。


軽い戦闘が続く。


鈴木が前に出て、斧を振るう。

俺は後ろから、ヒールでカバーする。

弓や魔法持ちも、距離を取りながら攻撃を重ねる。


連携には、まだ改善点がある。

声が被ったり、一瞬の判断が遅れたりする場面もあった。


それでも、危なげなく勝てていた。


昨日は怖くて動けなかった奴らも、少しずつ戦闘に参加できるようになっている。

剣を握る手は震えているが、それでも前に出て、振る。


確実に、皆んな変わり始めていた。


その途中で、そいつが現れた。


二メートルを超える、豚の化け物。

オークだった。


脂肪と筋肉が混ざったような、異様に分厚い身体。

皮膚は赤黒く、まばらに毛が生えている。

小さな目がぎょろりと動き、荒い鼻息で地面が震える。


「……でかいな」


正直、ゴブリンとは別物だった。


鈴木が正面から受け止め、俺は必死にヒールを回す。

剣で斬っても、一撃では倒れない。

だが、時間をかければ確実に削れる。

最後は、藤原の光の刃が首元を貫いた。


オークは呻き声を残して消えた。


誰も、喜ばなかった。

ただ「勝てた」という事実だけが残った。



探索の途中で、それを見つけた。


倒れた机。

床に残る血の跡。

そして、黒紫色の結晶が、いくつも散らばっている。


魔物のものではない。


誰も、はっきりとは言わなかった。

だが、全員が分かっていた。

助けられなかったクラス。結晶を、静かに回収する。

数は、少なくない。


「……これ」

誰かが言いかけて、黙った。


結晶=人の死。

その考えが、確定的な重さを持って、胸にのしかかる。



その後、他のクラスと遭遇した。


三年生で、人数は十人ほど。

全員、武器を持っている。


向こうにも、製造できる能力者がいるのだろう。

その中に、鈴木のアメフト部の先輩がいた。


「おー、鈴木じゃん」


肩を組んでくる。やけに距離が近い。

馴れ馴れしいが、どこか嫌な感じがした。


「そっちは、人数多くていいな」


視線が、俺たちの装備に向けられる。

探るような目。

情報は、出さない。向こうも、同じだった。

ピリピリした空気が流れる。


「そんな大所帯で、動きづらくね?」


嫌味が投げられる。

藤原が、にこやかに笑った。


「ええ、まあ。今のところ、誰も欠けてませんから」


空気が、一瞬で凍った。


それ以上、言葉は交わされなかった。

互いに、逆方向へ歩き出す。

背中を向けた瞬間、緊張が少しだけ解ける。

だが、安心はできない。


この学校には、魔物だけじゃなく、人間もいる。

そして、人の方がよほど厄介だということを、皆んな理解し始めていた。


廊下の奥で、何かが蠢いた気がした。


探索は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ