すぐそこ、インド
しいなここみ様主催『華麗なる短編料理企画』参加料理になります。
「インドに一人で行ってみたら人生変わった!」と友達は言った。
友達はアクティブに一人旅をするタイプではないのに。
あの時、なんでインドに一人で行ったのか聞けば良かった。
そして、どう人生が変わったのか。
謎は謎のまま、聞けずにいる。
友達といっても、ただの部活仲間で当時、部活の中で、私は無口だった。
数年ぶりに高校の部活仲間に会った。
韓国料理屋さんで韓国料理を食べた。
インドで人生が変わったという友達には会えなかった。
今は海外のどこかにいると誰かが言っていた。
それにしても韓国料理が本格的で美味しかった。
お店の中も、お店の人も韓国だった。
一時的だけど、私は韓国に行った気がした。
誰がこの店を選んだか聞いたら、今韓国アイドルにどハマりしている人だった。
韓国には2ヶ月に1回行っていると言っていた。
いいな旅行。いいな連休。
ブラック企業ではないが、常に人手不足の会社で働く私は連休が取れない。
インドにも韓国にも行けないなと思った。
家の近くに小さなお店があった。
今まで何故気が付かなかったのだろう。
看板にはインド料理と書かれている。
私は次の休みに行くことにした。
朝ごはんを抜いて、昼ごはんにインド料理を食べに来た。
メニューには10種類のカレーがあり、ナンもチーズやチョコと迷ってしまうくらい種類がある。
とりあえず、オススメを聞いてみようと店員さんを呼んだ。
「あの、オススメってありますか?」と聞いてみたら、
「ワカラナイ」と言われてしまった。
オススメがわからないのか、言葉がわからないのか…私もわからなくなった。
私は迷って、バターチキンカレーとナンを頼んだ。
ホッとしてメニュー表から目を離すと、視界はインドだった。
店内には大きなインドの国旗とインド映画が流れるテレビ。
店員さんはインドから来たのだろうか…?
私はインドに行ったことがない。
だけど、今ここはインドなんだと思った。
熱々のカレーとナンが運ばれてきた。
そして次に頼んでないのに飲み物が来た。
「あの、これ頼んでません」と私が言うと
「サービス」と店員さんが一言。
「ありがとうございます」と私は頭を下げた。言葉、通じただろうか?
バターチキンカレーは辛くなく、甘く美味しく感じた。
ナンも食感が思ったよりもちもちしていてあっという間に食べてしまった。
「オカアリ、アリマス」と店員さん。
お腹いっぱいになりつつあるが、ナンをもう少し食べたい気持ちがある。
「ナンプリーズ、あっ!スモール?ハーフサイズオッケー??」
もっと英語を勉強しておけば良かった…いや、インドは何語だっけ?
「オッケー」と店員さん。
数分後届いたナンは最初のナンより大きかった。
言葉が全く通じていなかった。
ここはインドかもしれない。
お腹いっぱいvsビッグナンはビックナンの勝利!
私ははち切れそうなお腹で帰宅した。
カレーを食べたら不思議と元気になった。
明日からまた頑張ろうと思えた。
そして私は月に1回、このお店に行くようになった。
この店に来ると日本から離れたインドに来た気分を味わえる。
カレーを食べて元気になれる。
私の1時間の海外旅行。
今の私にぴったりな旅。
すぐそこ、インド。
「インドに一人で行ってみたら人生変わった!」と言っていた友達をふっと思い出した。
いつかどうしようもなく、人生を変えたくなったらインドに行こう。
◇◇◇
インドは私のお守りになった。
どうしようもない時に行ける場所があることが少しだけ私を強くしている。
定年退職後、私はインドに行った。
どうしようもなく人生を変えたいと思ってはいないが、お守りの地に行ってみたいと思ったのだ。
インドに行って人生変わったのだろうか。
わからない。
でもそれで良いと思った。
人生が変わっても変わらなくても私は私なんだから。