雨の日と、私-a
雲ひとつない晴天だった。
青々と広がる草の原の中、茶色が剥き出しになった直線に、ひとつ歩く影があった。
エノ。季節外れのパーカーを羽織った、その旅人の名前である。
エノは歩き続ける。目的は無い。使命も、義務も無い。ただ、そこに道があるから、道を踏み外したくないから、歩いているらしい。
一度、彼の旅について教えてもらったことがあった。ただ、旅はそこまで面白いものではないらしく、私にはおすすめしてくれない。彼が言うには、自分の旅に目的は無く、旅自体が目的というわけでも無いという。ならどうして旅を続けるのかと聞いても、なにも返してくれない。
多分、それでしか生きられないのだろう。
エノのような人間はどこにもいない。旅なんて馬鹿らしいことをしている奴なんか、世界中どこを探したって見つからないだろう。
だからこそ、エノはエノなのだ。それでしか生きられない。それでこそ、生きている。
エノと、パーカーと、それから私。
雲ひとつなかったはずの青々に、いつの間にか淡色のワタが群がっていた。
そして、
雨が降ってきた。
知っている。