ヒーローとして人を救うため、僕はえっちな事をさせられる
思い付き短編です。
タイトル見て「R-18タグ忘れてるよ!」と心配されたかと思いますが、付け忘れではありません。
……そういう事です。
どうぞお楽しみください。
「はっ!」
黒いヒーロースーツに身を包んだ僕は、燃え盛る建物の中から逃げ遅れた人を抱えて飛び出した。
「あ、ありがとうございます……」
「さぁ、早く救急車へ!」
「え、あ、あの、お名前は……!」
「名乗る程の者ではありません! では!」
救急隊が駆け寄って来るのを確認して、僕は思いっ切り跳躍し、火災の起きている隣のビルの屋上へと着地した。
このスーツは耐火耐熱耐衝撃に加えて、パワーアシスト機能もある。
本気で跳べば百メートルは軽いし、一トンの重さの物も持ち上げられる。
その上ヘルメットには赤外線カメラが設置され、バイザーにその画像を映し出せる。
……よし、これで建物内に人はいないな。
大規模なビル火災だったが、死者はゼロだ。
後は消防隊に任せよう。
建物の上を飛ぶように駆けながら、胸に込み上げてくる達成感……!
今までの僕は、ヒーローに憧れるだけの中学生だった……!
でも今の僕は、まさしくヒーローだ!
「善路クン。無事全員助け出せたみたいねぇ」
「う……」
家の近くの公園に着地した僕を、冷たく、しかしじっとりとした熱を帯びた声が出迎える。
振り向くと、白いブラウスにタイトスカートを履いた女が、ヒールの音高く歩み寄って来た。
見た目はとびきり綺麗なお姉さんだが、その中身は……!
「……ゼレネット……!」
「呼び捨てなのはいいけどぉ、もっと親しみを込めて呼んでほしいわぁ」
「誰が悪魔のお前に親しみなんて……!」
「んふふ。まぁ貴方がどう思おうと自由だわぁ。でもそのスーツでヒーローをやれているのはぁ、私のお陰って事、忘れないでねぇ?」
「くっ……!」
まるで獲物を見つめる蛇のような視線を向けてくる。
確かにこいつが作ったスーツのお陰で、僕はヒーローをやれている。
だがその代償はあまりにも大きい……!
「さぁ契約に従って、貴方の情欲に満ちたエネルギーをいただくわぁ」
「こ、ここでか……!?」
「そうよぉ。ヒーロー活動が終わったらぁ、その日の内にもらう約束でしょう?」
「くっ……!」
確かにもうすぐ日付が変わる……!
家に帰っている時間はないが……!
「さ、そこのベンチに座ってぇ」
「……!」
「早くしないとぉ、契約が切れちゃうわぁ。そうしたらぁ、もう貴方ヒーローになれないのよぉ?」
「……わかった」
観念した僕は、ベンチに腰を下ろした。
隣にゼレネットが座る……!
「……始めるわよぉ」
「うっ……!」
ゼレネットの手が僕のに絡み付く……!
こんなの、恋人じゃなきゃしちゃいけない事なのに……!
「うふふ……。随分と強張っているわねぇ……。まだ慣れないのかしらぁ?」
「こんなの……、慣れるわけ……!」
「でもぉ、気持ちいいでしょぉ? わ・た・し・の・手」
「っ……!」
……耐えろ……!
耐えるんだ……!
この時間を越えさえすれば、僕はヒーローであり続けられるんだ……!
「……んふふ、やり返したい? でもダァメ。この時間はぁ、絶対に善路からぁ、私に触れない事ぉ。これがぁ、契約だものねぇ……」
「うっ……!」
「ふふっ、さぁ、エネルギーを吐き出してぇ……」
その間もゼレネットの手はいやらしく動き続ける……!
うぅ、もう……!
「……はぁい、五分経過ぁ。今日のぉ、恋人繋ぎはぁ、これでぇ、おしまぁい……」
「っ……! はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
な、何とか耐え切った……!
それにしてもこの指と指が絡む恋人繋ぎ……!
えっちすぎるだろ……!
いくらエネルギーを取るためとはいえ、普通に握手じゃ駄目なのかよぉ……!
「こ、これでまた事故や災害が起きたら、ヒーローに変身させてくれるんだな……!」
「……えぇ、勿論よぉ……。もっともぉ、またこの恋人繋ぎに、善路がぁ、耐えられるならぁ、だけどぉ……」
「た、耐えてみせるさ……! ヒーローとして人々を救うために……!」
「そ、そぉ……。ならぁ、またねぇ……」
そう言うとゼレネットは、こちらを見もせずに走り去って行った。
……僕の手からえっちなエネルギーを吸った後は、いつもああやって走って帰る。
エネルギーさえ吸えば、後はどうでもいいって事なのかな……。
……それでいい。
僕はヒーローとして、人々を救うんだ!
そのためならあんなえっちな事にだって耐えてみせる!
読了ありがとうございます。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って、この作品を書いたんだ。
じゃあ、一言言おうか。
(´・ω・`) ごめん。
気を取り直してキャラ紹介。
扉善路……扉を「ひ」と読んで、ヒーローから。
ゼレネット……ギリシャ語の月セレネを悪魔っぽくもじってみました。
お楽しみいただけたなら幸いです。