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3/10

M3 Euphoric

 俺は東京行きの新幹線に乗っている。大好きなミッチーのライブに向かうためだ。7月X日、今日はツアー5公演の初日。初日というのは特別な高揚感がある。これからミッチーの歌を5回も聴けることへの喜び、そしてどの曲が歌われるか分からない緊張感。ミッチーはもう10年以上歌手活動をしているのでけっこうレパートリーが増えて曲の予想ができない。もちろんこれはいいことだ。

 今日は物販列に並ぶため早めに家を出た。初日に欲しいものを買ってしまえば次回から並ぶ必要はないからな。今日の東京は31℃らしい。普段名古屋の暑さに慣れているとはいえ油断は禁物だ。開演前に体調を崩すのは絶対に避けたいので水分補給は欠かせない。


 ん……。あー、よう寝た。ここはどこだ?名古屋を出てすぐに寝てしまったようだ。多分もう神奈川県入っとるよな?

 ただいま小田原駅を通過、だそうだ。あと30分くらいか。

 ケータイを見るとメールを受信していた。ライブ同行者の村人からだ。

 「おはようございます!なんか早起きしちゃって今、会場向かってる。11時って言ったけど9時前には着きそう」

 なんだと?俺が9時から並んで11時に交代する予定だっただろ?こちらもメールを送る。

 「俺が11時に行って代わりゃいいのか?」

 「いや、俺がたまたま早起きして勝手に向かっただけでリョウは13時でいいから。座ってゲームやってたら4時間なんてあっという間だからどっかでのんびりしといて」

 「大丈夫か?熱中症怖いでしっかり水分取れよ。昼メシ奢るわ」

 「了解。気をつける」

 まあ起きてしまった以上、家で待っていられない気持ちは分かる。だが俺はどうする?俺が家を出る前に言ってくれよ。


 ケータイでネットニュースなどを見ていたらもう品川駅だった。発車してすぐに東京駅到着のアナウンスが流れる。俺は新幹線の車窓から東京国際フォーラムのガラス棟という建物を一瞥した。さて東京駅に着いてしまった。俺はマンガ喫茶の多い神田駅に移動した。駅近くの店に入った俺はフルフラットシートでマンガを読みながらゴロゴロしはじめた。念のため寝落ちしても大丈夫なように12時40分にアラームをセット。

 来期アニメ「恋愛ネイティブ」の原作単行本を読んでいたら眠くなるどころか一気に6巻まで読んでしまっていた。面白い、視聴確定。キャストも調べておこう。


 予定通り12時40分にマンガ喫茶を出た俺はすぐ会場に着いた。何しろ有楽町駅徒歩1分の立地だ。昔はここに都庁があったらしい。

 大きな船のような、ガラス張りのとても特徴的なデザインだ。手前からD、C、B、そして今日ライブが行われるホールAは一番奥にある。キャパは5000人。さて村人を探そう…と思ったが面倒なので電話する。

 「着いたよ。どこにおる?」

 「前から50番目くらい」

 すぐに発見、トイレに行きたいと言うので代わった。物販は予定通り13時に始まり、当然だが欲しい物は全部買えた。開場まで3時間近くあるのでファミレスまで歩くことにした。


 「リョウはスマホ買わねーの?」

 「俺の周りあんまり持っとる人がおらんで実態を知らんのだわ。そんなにいいか?」

 「LIMEが連絡ツールとして優秀。通話無料だしね。あとは地図が見やすい。ほら、見てみなよ」

 「あー。そうやって指で動かせるのか」


 5分ほどでファミレスに到着した。

 「朝からご苦労さん。全部買えたわ。何でも好きなものを頼んでくれたまえ(笑)」

 「ありがとうございまーす」

 俺達は買ったばかりのグッズを吟味したり、ライブで聴きたい曲について語ったりした。

 「村人は何か聴きたい曲ある?」

 「そうだなー。Together Foreverかな」

 「あー分かる。あれいい曲なのにあんまりライブでやらんよな」

 「(食い気味)そう!そうなんだって!もっと歌ってほしいよね!」

 「あの曲はみんなでクラップするところが楽しいよな。多分ライブで2回くらいしか歌っとらんのじゃないか」

 「リョウは?何が聴きたいの?」

 「キミボクだな。昔は定番で必ず歌ったけど最近は曲数増えたもんで歌われんことが割とある。しょうがないとはいえ、ないとガッカリする」

 「今でも必ず歌う曲って気まぐれな女神くらい?他なんかある?」

 「涙は似合わない」

 「あーそうか。そういえばそうだ」


 会話に夢中になっていた俺達。いつの間にかもう16時近かった。

 「いかん!もう入場始まるぞ」

 「慌てなくても開演までは1時間あるけど」

 「そうやって余裕こいとるヤツがおるで開演が押すんだわ」


 歩いて会場へ戻った。ちょうど入場が始まったところだった。

 列から少し離れた場所にいつもの揃いの法被を着た連中がいた。

 「青法被、だいぶ減ったような」

 「そうだなー」

 青法被とはミッチーの応援団のようなものの通称である。アイドルの現場は知らないが、声優ライブへ行くとよく自作の法被を着た連中がいる。ミッチーのイメージカラーに合わせて彼らは青色の法被で統一している。5年前は30人はいたと思うが今は10数人。君達飽きるの早いね(笑)。

 「リョウって青法被に知り合いいなかったっけ?」

 「おるよ。おるけど今日はあんまり時間ないでまた今度挨拶に行くわ」


 スムーズに列は進み、俺達も入場した。関係者やファンが出したフラワースタンドが鮮やかだった。今日の席は1階8列の中央やや左寄り。良席の部類に入るだろう。

 着席。この会場はなだらかな傾斜になっており、後方でも見づらくはないが前に越したことはない。

 「けっこういい席だなー」

 村人がつぶやいた。

 「誰のおかげ?」

 「ありがとうございます!」

 なんていつものやり取りをする俺達。お茶も買ってあるし、買ったばかりのライブTもさっきトイレで着てきた。東京会場のカラーはオレンジだ。

 これで準備万端…ではないのだ。俺クラスは準備運動をする。もちろんケガ防止のためだ。一旦席を離れ、誰の邪魔にもならなさそうなスペースを探して屈伸したり軽くジャンプしたりして身体をほぐす。

 席に戻り、高まる曲がいつ来てもいいようにMOを3、4本ポケットに用意する。これでようやく準備完了だ。

 先ほどまでステージ上でバンドメンバーもしくはスタッフが歩いていたがそれも終わった。17時。客席の照明が落ちる。BGMがフェードアウトしていよいよ開演だ。ザワザワしていた観客も本番モードに切り替わる。


 ♪♪♪♪♪~

 このイントロ!キミボクだ!1曲目に来るとは!古参ファンならこの曲でシビれない者はいないだろう。

 「あああああ!!!!!!」

 俺は叫び、そしてMOを折った。

 ステージ中央の一番上、ミッチーが現れ階段を降りてくる。薄い水色でふわふわ系の衣装だ。今宵も我々の前に天使が姿を見せた。

 これから始まるライブを盛り上げるにはうってつけの曲。「オイ!オイ!」全力でジャンプする俺。

 「♪もう行かな~いと~」「おーーーミッチー!」

 「♪望みはなんだろう~」「はーいはーいはいはいはいはい!」

 「※※※オイ!※※※オイ!※※※オイ!※※※オイ!」(PPPHと呼ばれる動作。※はクラップ)

 「♪きっと~」「オイ!オイ!オイ!オイ!」

 これだよ。このBメロの転調部分でPPPHから裏1-1(うらイチ)(裏跳び)に移行。サビに向かって盛り上がっていく感がたまらない。脳汁出まくり。

 「♪君の目指した未来~」「おーーーオイ!オイ!オイ!FuwaFuwaFuwaFuwa」

 あーやっぱりキミボクは楽しいな!しかしこの曲はまだやるべきことがある。その時に備えてポケットに手を伸ばした。

 2番の間奏明け、ここだ!ここで新たにMOを折る。通称追い焚き。またもや脳汁ドバドバ。

 ラストのサビを歌い切ってキミボク終了。あー疲れた。まだ1曲目なのにやり切った感がすごい。


 「東京国際フォーラムの皆さ~ん、こんばんは~!中道鞘花です!!最初からすごく盛り上がっていただきとっても嬉しいです。1曲目は君の未来、僕の希望でした。少し久し振りだったかな?今日は中道鞘花ライブツアーSummer Treatへ来ていただきありがとうございます。このツアータイトルは『夏のごちそう』という意味です。皆さん、今日は私の歌でおなかいっぱいになっていってください!」

 今日もミッチーは最高にかわいいよ。満腹になること間違いなし。


 2曲目からはややおとなしめの曲が続いた。しっとり系ばかりではないが、大騒ぎする曲ではないという意味だ。

 6曲目が終わり、バンドメンバー&ダンサー紹介があった。そして

 「次に歌うのは今月出たばかりの新曲です。もちろん初披露です。皆さん聴いてくれましたか?タイトルに『夏』とあるように今の季節にピッタリで明るくも少し切ない、そんな曲になってます。それでは聴いてください。君と過ごした夏」

 この曲が出てまだ2週間だが既に100回以上聴き込んだ俺に隙はなかった。これといって難しいところはない。Bメロは裏1-1である。


 ♪♪♪♪♪~

 はいきた。この曲は歌い出しに合わせてケチャ(手やペンライトを下から上に動かす)から。そして俺の場合は間奏に入ったところでMOを折る。MOを使いたいが出だしが静かな曲の場合、伴奏が騒がしくなる部分でMOを折るのが俺の流儀だ。Aメロは特にやることなし。Bメロに入る。

 「オイ!オイ!オイ!オイ!」1小節の2拍目・4拍目で跳ぶ。これをサビの直前まで。

 サビはやることなし。以上、2番も繰り返す。

 そしてそして。ラストのサビ前で追い焚きする。追い焚きをする人はそれほど多くないし新曲なこともあって自分のところだけパァーッと明るくなる。別に目立ちたくてやっている訳ではないが快感には違いない。


 曲が終わると立て続けに演奏が始まった。この曲は13.11(イチサンイチイチ)。ソフトボールのアニメ「ベストバッテリー」のエンディングテーマで13.11とはバッテリー間の距離らしい。とても爽快感のある曲だ。

 新旧のバランスの取れた選曲でライブは進んでいった。


 暗転していたステージに再び照明が灯ってミッチー登場。赤白チェックで胸元にはリボン。

 「楽しい時間はあっという間ですね。皆さん、元気は残ってますか~?おー。元気ですね、素晴らしい。喉渇いてる方は水とかお茶飲んでくださいね。さて、残りはいよいよ2曲です。準備はいいですか?」

 ♪♪♪♪♪~

 きたぞ。村人が聴きたいと言っていたTogether Forever。俺は村人と軽く握手をした。

 「おめでとう(笑)」

 これを聴くのは確かファーストツアー以来。一度も聴いたことない人もいるんじゃないか。優しいメロディとミッチーの歌声。じっくり聴き入った。

 2番が終わると間奏部分でみんなでクラップをする。ホールが一体感に包まれる。最高だ。

 終わってから隣を見るとウルウルしていた。うん、気持ちは分かるよ。

 そして定番の涙は似合わないを歌ってミッチーは退場。会場は暗転してしばしのインターバルだ。


 4、5分続いたアンコール、そして照明が灯った。東京カラーのオレンジのライブTを着たミッチーが再びステージに登場した。

 「東京会場の皆さ~ん、アンコールありがとうございます!改めまして中道鞘花です。ツアー初日にたくさんのファンの方に来ていただいてとっても嬉しいです。久し振りのツアーということもあり最初は緊張しましたが皆さんの温かい声援のおかげで18曲歌い切ることができました。皆さん今日のライブはいかがでしたでしょうか。あ、楽しかった。そう言っていただけると私も幸いです」

 「ソイッターなんかに今日のことを書きたい方もいると思います。でも、これはいつも言ってますが知らない方もいらっしゃるかもしれないので聞いてください。まだツアーは4公演残ってます。なのでネタバレになるようなことは書かないでください。ライブ楽しかったよ、とか今日もミッチーがかわいかったよ、とかそういうのはどんどん書きましょう(笑)。以上私からのお願いでした!それでは聴いてください。気まぐれな女神」

 アンコールといえばこの曲。けっこうハードな曲だが俺は力を振り絞り跳んだ。この曲が終わるといつも俺は汗だくだ。次は何だ?

 ♪♪♪♪♪~

 おっこれは!この気持ちいつまでも!これをライブで聴くのは初めてだ。このアルバム曲は前からいいと思っていた。多分この曲で最後だな。いい終わり方だなー。そして歌い終えると会場は大きな拍手に包まれた。


 「今日のライブは以上でおしまいです。今日ステージを一緒に創り上げてくれたバンドメンバーに大きな拍手を!ダンサーさんもお呼びします。キュートなダンスでステージを彩ってくれたダンサーさんにも大きな拍手を!」

 「本日はお忙しい中、私のライブに足を運んでいただき本当にありがとうございます。今日だけの方も、他の会場も行くよって方も東京でのライブが楽しい思い出になると嬉しいです。以上、中道鞘花でした~!」

 「ミッチー!ミッチー!ありがとう!」

 最後に枯れた喉で叫んだ俺は会場を後にした。あー、これがあと4回見れるのか。俺は幸せだ。



 俺達は居酒屋の多そうな新橋に移動した。語りたいことが山ほどある。何から話そうか。

 2人掛けの席に通された俺達がビールを注文した直後だった。

 「Together Forever聴けて良かったな~」

 「そうだな。相当久し振りだったから…ん?ちょっとすまん」

 慌ただしくケータイを操作する村人。


 「リョウ、ごめん。彼女に呼ばれた。今日帰っていい?」

 「何~?いつから彼女おるんだ?」

 「3ヶ月くらい前」

 「全然知らんかったぞ」

 「言ってないからな」

 「写真ある?」

 「あるよ」

 「ちょっと見してみい」

 村人のケータイを見た。

 「ほう、かわいいな。なつみんに似とるな」

 「なつみん…石川夏美…?似てるか?」

 「似とるて。サードシングルのジャケ写見てみい」

 「なんでリョウはそんなことまで記憶してるんだ(笑)」

 「伊達や酔狂で声優オタやっとる訳じゃないんだわ」

 「時々リョウにはついていけなくなるな。今、頼んだビール飲んだら帰っていい?」

 「おう。まあしゃーないな。今日のところは」

 10分もせずに村人は帰ってしまい俺は取り残された。なんてこった。


 ところで今日、ミッチーは何歌ったっけ?と1曲目から記憶を辿っていると、有線からとても聴き覚えのある曲が流れてきた。今日は歌われていないが、ミッチーのI love sunshineだった。

 ♪それは眩しく キラキラ輝いて

 (小声で)「キラキラ輝くミッチー!」

 !?!?!?後ろから同じコールが聞こえたんだが?しかも俺より声がデカい。

 俺はそっと後ろの席を見ようとしたが、その声の主は堂々とこちらを覗き込んできた。

 間違いない。杉並ルナだった。


 「あーーーーーーーっ!!!!!!」

 俺も驚いて声を上げたが、またもや彼女の方が声がデカかった。

 周りの客や店員の視線が俺達に集まった。大声を出してしまったので思わず店員に謝った。

 「あなたクスノキさんでしょ!どれだけ探したと思ってるの!朝からずっと探してたんだから!」

 この様子では彼女はだいぶ酔っぱらっている。一体なぜ?そして俺を探していた理由とは?


 「今日のライブ前何やってたの?物販は?」

 なぜか涙目。そしてなぜか俺は激しく責められている。

 「一旦落ち着いて。立ち話もなんだでそこに座りゃー」

 「酔っぱらっちゃったかな…」

 どうやらそのようだ。前回会った時はクールな佇まいだった。今は頬が紅潮している。とりあえず村人がいなくなった席に座ってもらった。

 「この前、クイスペ(Queen Special Live)で会ったでしょ。あの時に私が杉並ルナってバレちゃったから、その日の出来事とか私と隣の席になったとかそういうことを誰かに言ったりネットに書き込まないでほしいって言ったの。私は現場ではひっそり活動する主義だから。でも伝わってなかったからそのあとあなたのことをしばらくネットで探し回った。今日も午前中から会場で探してたの。結局見つからなかったけど」

 「物販はライブ仲間が並んでくれた。というか別にそんなこと言わんでも俺は君のことをあれこれ喋ったりしんよ」

 「そうなの?でも私はあなたのことを全然知らないからどうしても言っておきたかったの。それにあなたが話しかけてきた時、超塩対応しちゃったから私のことを良く思ってないだろうし。今日まで私のことを喋ったりネットに書き込んだりしてない?」

 「うん。誰にも何も言っとらんよ」

 「本当?杉並ルナに会ったことを広めてやれって思わなかった?」


 なんか自意識過剰っぽいな。ま、余計なことは言わんとこ。

 「確かにあの対応はイラッとしたけど、だからと言って俺はそういうのを言いふらす趣味はないの。そこは分かってほしいなあ」

 「分かりました。あなたのことを信用します、クスノキさん」

 「そんなかしこまらんでええて。リョウって呼んでくれんかな。みんなにそう呼ばれとるし」

 「リョウさん」

 「さんもいらん。『りょうさん』ってこ○亀みたいでしょ(笑)。ところで一緒に飲む予定だった奴が急用で帰ったんだ。少しだけ付き合ってくれん?」

 「じゃあ少しなら…。私もまだ飲みはじめたところだから。あ、そのライブ仲間にも私の話はしてないの?」

 「しようかとも思ったけど他人のことはペラペラ喋らん方がいいと思って言わんかった」

 「そう…」


 「けっこう酔っとるみたいだけど弱いの?」

 「うーん、いつもよりハイペースでお酒飲んだかも」

 「ライブが楽しかったから?」

 「どちらかと言えばずっとリョウを探してたのに見つけられなくてモヤモヤしてたからかな」

 「そうか!じゃ、次回からは心配事がなくなってライブをより楽しめるな!良かったわ~」

 「そうね。私は東京の人間だから次回からは遠征も楽しみなの」

 「あーそうか。俺は名古屋だで次が地元だ。ツアーは全通するよね?」

 「もちろん。ミッチーのライブを欠席したことは一度もないよ」

 「そりゃそうか。天下の杉並ルナさんに失礼なことを聞いた」


 「せっかくだから今日のライブについて語らない?」

 「おう。ルナは…ルナって呼んでいい?」

 「いいよ」

 「ルナは今日のセトリどうだった?印象に残った曲はある?」

 「んー。この気持ちいつまでもが良かったな」

 「だな!あれライブで歌うの初めてだよね!俺も嬉しかった!」

 「ずっとライブ通ってても歌われてない曲ってあるよね」

 「あるね。ルナはファーストライブからずっと?」

 「うん。ライブもそうだしFCイベントも第1回から全部行ってるよ。アニメのイベントも、あと最近はやってないけどストアイベントもあれば行くよ」


 ルナが見た目相応の歳だとすると中学生くらいから通っていたことになる。とんでもない行動力だ。

 「前は接近イベントけっこうあったよね。昔、ポスターお渡し会で俺の一つ前の男がミッチーに告白しとってあれはビックリしたわ」

 「ドンびきした?」

 「いや、俺もやりかねんくらい好きだったでむしろその気持ち分かるわ。でもそういうの見ると逆にこっちは冷静になる(笑)」

 「そうなんだ・・・・。リョウは今日のライブでは何が良かったの?」

 「ベタだけどキミボク」

 「あーあれ盛り上がるよね。ファン歴長い人は大体好きだと思う。1曲目でちょっとビックリしたけど」

 「あれ、曲自体も好きだしライブだとやること多くて楽しいんだ」

 「PPPHから裏1-1とか?」

 「そう。サビもFuwaFuwaできるし」

 「落ち着いた曲もいいけどコールの多い曲はライブの醍醐味だね」

 「あんまりやることはないけどTogether Foreverも良かった」

 「けっこう久し振りだったね。ファーストツアー以来?」

 「だと思う。間奏でみんなでクラップするところ感動的じゃない?」

 「分かるー。会場が一体になるっていうか」

 「じゃあ、今日歌われんかった曲で好きなのは?」

 「えっと…だってかわいいんだもん」

 「なかったね。初期の頃は定番だったけど」

 「曲も好きだけど振り付けも好きなの」

 「あのピョンピョン跳ねるとこでしょー」

 「そう、それ!かわいくてクラクラしちゃう(笑)」

 クイスペで初めてルナに会った時はクール系の女性に見えた。だが今、俺の前にいるルナはとても饒舌で楽しそうだ。

 俺を見つけるという本人の中では一大ミッションを形はどうあれ達成して安堵したか。また先ほどの話からしてライブ仲間はいない可能性が高い。ミッチーファンと会話ができて単純に嬉しいんだろう。

 その後も俺達はミッチーの話題で盛り上がった。


 21時30分。新幹線で帰るタイムリミットが迫っていた。しかしルナがけっこう酔っていて心配な俺。このまま一人にしていいものか。考えた末、ルナを見守ることを選択。

 「それでね、2番に入った時にミッチーがね~。ん…ちょっとお手洗い行ってきます」

 適当なところで止めるべきだったか?でも楽しそうだったしな。ところで明日仕事どうしよう。

 10分くらいして戻ってきたルナが水を頼んだ。「ちょっと飲みすぎた。さすがに帰らなきゃ」

 「一人で帰れる?送ってかんでいい?家はどこなの?」

 「西荻窪。大丈夫、少し頭がスッキリしたから。電車乗るくらいできるから心配しないで」

 話し方が酔っ払いじゃなくなったような気がしたので一人で帰れるだろう。そう思った。

 「じゃ、解散にするか。今日は楽しかったわ。ありがとう。またどっかで会うかもしれんね」

 「うん。リョウは名古屋まで気をつけて帰ってね」

 俺はもう新幹線がないんだよ、と思いながらルナと別れた。その日はカプセルホテルに泊まった。

 今日は色々あったけど楽しかったな。あー、明日仕事遅刻だー。そんなことを思いながら眠りについた。




                                        ─第4話へ続く─


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