表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

M10 好きは現場で伝えたい!

 10月になり、日本有数の酷暑地帯・名古屋の暑さも少し和らいだ。

 一週間前、待望のFCイベントのチケットが届いた。俺は2階4列。

 そしてFCイベントは毎回ミッチーが客席に降りてきてくれる。わざわざ2階席も回ってくれる。

 ミッチーを必ず至近距離で見られる、これはFC会員だけの特典だ。

 他にはファンが参加できるゲームもある。過去にはビンゴやすごろくなんかがあった。ゲームの上位入賞者はミッチーから賞品を手渡しでもらえる。

 

 FCイベント前日の金曜日。今日は仕事を終えてから横浜へ行き、村人宅に泊めてもらうことになっていた。

 俺は札幌公演の翌日、ルナに告白してOKをもらったことを村人に報告していた。

 麻衣に言われてから俺はルナとメールのやり取りをするようになった。

 毎日ではない。週に2回くらい。内容はミッチーに関することが多かった。

 デートに誘うことも1000回くらい考えたが踏み出せなかった。

 俺は何をすればいいんだろう。こういうことは経験者に相談するのが一番だと思ったので村人を飲みに誘った。

 仕事を定時で終え、新幹線で新横浜へ。電車を乗り継ぎ、村人に予約してもらった個室のある居酒屋で合流した。


 「予約した村井です」

 「村井様、お待ちしておりました」

 すぐに個室へ案内された。感じのいい女性店員だ。割と客は入っているが騒がしすぎないのも良かった。

 「いい店知っとんねー」

 「そりゃ6年も住んでたら色んな店行くじゃん。で、話って?」

 「いきなりだな。ビール来てからでいいか」

 到着したビールを少し飲み、俺は話し始めた。


 「つまりリョウはルナちゃんに告白してOKもらったにも拘わらず、2ヶ月近く当たり障りのないメール以外何もしてないってこと?」

 「そうだ」

 「てっきり俺は何も言ってこないからうまくやってると勝手に思ってたよ。なんで何もしないの?」

 「何をすればいいのかが分からん」

 「はぁ…」

 呆れ顔の村人。

 「確かにそういうことは学校じゃ教わらないもんな。じゃあ俺なら…」

 「お前なら…?」

 「二人は札幌で別々のホテルに泊まったじゃん?だったら別れ際にキスするとか」

 「キス!?5分前に告白したばっかりなのにそんなのアリか?」

 「アリ、アリ。抵抗あるか?いいんだよ、5分前だろうが。仮に1分前だろうがもうカップルなんだから」

 「世間ではそんなことしとるのか」

 「みんなではないにしろそのくらいやる人は割といる」

 「そういうもんか…」

 「あとデート誘ってみたら?ライブなくても東京行く金くらいあるでしょ?」

 「ある」

 「なら決まりだな」

 村人は無知な俺に色々アドバイスをくれた。今日は相談して本当に良かった。

 もともとそのつもりだったが、今日は俺が全額払った。村人の家でも話は尽きなかった。



 さてイベント当日。少し早めに行って物販に並ぶことにした。

 場所は中野サンプラザ。ミッチーのFCイベントの半分くらいはここで開催されている馴染みのハコだ。

 俺達は11時過ぎに中野駅に到着した。サンプラザは信号が青なら駅から徒歩1分という近さだ。横から見ると三角定規のような形だが、正面である駅側からだとそれは分からない。

 今日は天気が良く、暑くも寒くもないので並びも苦ではない。それに村人という話し相手もいる。

 14時物販開始。俺の前には30人くらいしかいなかったので、欲しかった物はルナに頼まれていた分も含めてすべて買えた。



 ルナが近くのファミレスで待機しているので合流した。

 「おールナ、久し振り。全部買えたでとりあえず確認して。ペンライト、TシャツのM、タオル、パーカー、リストバンド、クリアファイル。間違いない?」

 「うん、ありがとう!暑かった?」

 「いや、今日は暑くも寒くもなくちょうどいいわ。村人という話し相手もおったし」

 「久し振りだね。ところでルナちゃんは名札付ける人?」

 「ずっと付けてます。でも登壇したことはありません」

 「ルナちゃんって他人に知られたくないんじゃなかったっけ。登壇してもいいの?」

 「まぁ…ミッチーと話せたら嬉しいし、それに名札には『ルナ』としか書いてないんです」


 ミッチーのFCイベントには「名札」という制度がある。毎回ファン参加型のゲームがあり、それに参加してくれる人をミッチーが客席に降りてきて必要な人数だけ選ぶのだ。登壇してもいい人は胸に名札を付ける。したくない人は付けない。名札は入場時に全員に配られて各自で記名する。基本的にはどんな名前を使ってもいい。

 「リョウは登壇したことあるの?」

 「ない」

 「俺はあるよ」

 「村人さんあるんですか!すごい!いつですか?」

 「7年前だったかな。すごろくの時」

 「賞品は何でしたか?」

 「サイン入りポスター」

 「その時って他に賞品何があった?」

 「えっとー、ミッチーの私物の帽子とライブで使った旗」

 「旗?旗って何だ?」

 「ライブでダンサーが持って踊った小さい旗」

 「そうか。その中だと帽子が一番羨ましいな」

 「村人さん、ミッチーに指名された時のために何か心構えみたいなものはありますか?」

 「そうだなー、緊張するなってのも無理だしな。一番大事なのは会場の空気を読むこと。大勢に見られてるってことを常に意識して自分の世界に入らない。あと無理に面白いこと言おうとしない」

 「確かにたまに変なこと言ったりスベったりする奴おるもんな。ヘンリーさんがフォローしてくれるけど」

 「分かりました。もし登壇したら気を付けます!」



 そうだ。俺は不意に思い出した。以前からルナに聞こうと思っていたことを。

 「ルナってさ、夜さやでよく読まれるが。何か採用されるコツみたいのあるの?」

 「それ俺も気になるな」

 「コツか…。私はまず普通に番組を聴く。そして本放送終了後に録音したのをもう一度聴いてそこでネタを考える。で、とにかく毎週メールを送る。サボらない。そうすると何度も何度も送ってるうちに私は傾向が分かってきた。佐々木さんがどういうのを採用するのか」

 「あー、構成作家の傾向ね」

 「ルナはどのくらいメール送っとる?」

 「週に平均15通かな。少ない時でも10通は送る」

 「そうなのか。つまりルナクラスでもボツメールはけっこうあるんだ?」

 「そりゃあるよ。相当ある。でもボツったからって損をする訳じゃないんだからどんどん送らないと。それに数打たないと採用不採用の傾向も掴めない」

 「勘違いしとったわ。てっきりルナは送ったのが片っ端から読まれとるのかと」

 「そんな訳ないじゃん(笑)。リョウはどのくらいメール送ってる?」

 「ルナのを聞いたら言うのも恥ずかしいけど、月に1回くらい」

 「ホントに採用されたいんならそれじゃダメだと思うな。多分、常連はけっこう送ってるはずだよ。とにかく継続して。好きならそれくらいやろうよ。ミッチーに名前呼ばれたいでしょ?」

 「はい。勉強になります」

 「ルナちゃん、俺も勉強になったよ」



 俺達は開場の10分前に店を出た。外は少し寒くなっていた。終演後、時計の辺りに集合する約束をした。

 FCイベントは申し込んだ本人の分だけ座席が用意されるので連番はできない。2階席は俺だけだ(泣)。

 なので俺達は一旦別れた。


 俺は着席してスタッフから受け取った名札にいつものように「RYO」と書いた。予定通り17時に開演した。最初に司会者のヘンリー古藤さんが登場。本業はラジオのパーソナリティだが、今ではアニメ・声優イベントの司会を務めることもよくある。

 「それじゃ本日の主役を呼ぼうか。俺がせ~のって言ったらみんなで呼んでくれよ。せ〜のっ」

 「ミッチー!!!!」

 約2000人の拍手に包まれミッチーが登場。白ブラウスに茶色系のチェックのスカート。はぁ…かわいいなぁ…。

 「Garden of Mitchieの皆さん、こんばんは~!!中道鞘花で~す!!今日はここ中野サンプラザにお集まりいただきありがとうございます。今年は久し振りにツアーをやらせていただき忙しくも充実した一年でした。そして今日はFCイベントということで、ライブとは違ったゆる~い感じでやっていこうと思います(笑)。それでは最後までよろしくお願いします!」

 ミッチーのFCイベントは大体、トーク→朗読→ゲーム→歌の順で進んでいく。トークのお題は事前に募集したものを使用する。ゲストを呼んだ回はトークの時間を長く取って朗読がないことが多い。歌は4~6曲程度だ。


 「今から事前に募集したメールを読んでいくぜ。1通目は…千葉県のまりりんさん。まりりんさんは会場に来てるかい?まりりんさ~ん。あ、いたいた。『ミッチーが一人で外食できる店とできない店を教えてください。私が一人で入れるのは喫茶店くらいです』俺なんかは一人でどこへでも行けちゃうけど、まりりんさんは女性だよな。ミッチーは普段外食はするのかな?」

 「はい、一人でよく行くのは喫茶店、ファミレス、ハンバーガー屋さん、セルフうどん。ラーメン屋さんはたまに行きます」

 「ラーメン屋行けるんだ?へー」

 「はい。別に抵抗はないんですけど健康を考えて月一回くらいにしてます」

 「ミッチーはどういう系が好きなの?」

 「何でもイケますけど最近は担々麺ですね。汁あり汁なしどっちも食べます」

 イベントはこんな感じで進んでいく。ミッチーの言葉で言うとゆるい。かなりゆるい。

 トークが終わり次は朗読パート。子ギツネが人間の町に買い物に行く、あの話だ。

 ホールにミッチーの声だけが響く。聴き入る観客。いつも思うんだけど、プロの声優ってすごいな…。


 「いやー良かったなー。俺も物語に引き込まれちゃったよ。それじゃ次はゲームの時間だぜ。ほとんどの人は知ってると思うが、今からミッチーが客席に行ってゲームの参加者を探す。後ろの方も2階も回るから、参加したい人は周りに迷惑のかからない程度にアピールしてくれよな。ステージに上がりたくない人は名札を付けないでくれ。名札を付けてると参加する意思があると見なされるから気を付けて」

 ミッチーが降りてきて今は1階を回っている。参加したい人はミッチーの目を見なきゃいけない。目を逸らすと対象から除外されてしまうから。

 しかし多くの人は目を逸らしてしまう。なぜならミッチーは目力がすごい。そしてこちらの顔をしっかり見てくる。目力に負けないようにといつも思うのだが、つい目を逸らしてしまう。

 ミッチーが2階席に来た。がんばって目を見るんだ!ゆっくりと近付いてきたミッチー。そして俺の左側の階段を上っている時。目が合った─。

 「通路から4番目のえっと…RYOさん。来てくれますか?」

 「はい!」


 キタ────!!!!第1回から参加しとるけど初めてだ!!

 ミッチーは扉から外に出て1階へ降りていった。俺はスタッフに案内されてステージへ向かう。今から2000人の前に立つのか。村人も言っていたが緊張するなって方が無理だ。


 ステージに辿り着いて客席を見たら、やはりすごい人数。そして・・・・登壇した俺の隣にいたのは、ルナだった。ミッチーに指名されただけでもおおごとなのに、ルナも一緒だと!?どうなっとんだ、信じられん。

 1階から4人、2階からは俺だけの計5人がステージに集まった。横一列に並んで、俺が一番右でルナはその左だった。

 「それじゃ、客席から見て右の人から名前を名乗っていってくれ」

 客席から名札は見えないので登壇者は名乗ることになっている。俺が最後に名乗り終えたところで説明が始まった。


 「ゲームの内容を発表するぜ。今回は事前に用意された質問にミッチーが答えていく。そしてステージの5人にはミッチーが答える前にその回答を予想してボードに書いてもらう。多く当てた人から順に、用意された賞品の中から好きな物を選んでいってくれよな」

 「つまりみんな。私の心を読んで(笑)」

 よし、ここはミッチー歴13年の俺が心を読んでみせよう。あ、ルナもだった。他の人は知らないが一人強敵がいることは確かだ。


 「賞品はこれだ。ミッチーの使いかけのボールペン!これ、商売道具じゃないか!」

 「そうなんですけど。半年くらい前に失くしたと思って新しい4色ボールペンを買い直したんですよ。そしたら使いかけのが先週見つかったんで。プレゼントできる物を探してたんでこれにしようって。あ、まだ書けますよ(笑)」

 「それとこれはハンカチ。私物のハンカチだ。あとは袋入りのクッキーが3つ」

 「これは私の手作りです!1袋5枚入りです。心をこめて焼きましたので食べた人は是非、夜さやに感想を送ってください」

 「よし。それじゃとりあえず練習しようか。どんな感じかつかんでもらうために。練習問題。ミッチーが昨日食べた晩ご飯は何でしょう?手元のボードに予想した答えを書いてくれ」

 「練習なんで私がヒントを出しますね。外食です。あんまりヒントにならないか」

 ミッチーが食べそうな物。何だろう。考えても分からんよな。

 「みんな書き終わったかな?もう大丈夫?大丈夫そうだな。はいオープン!佐藤さんはドリア、高橋さんカレー、エディさんラーメン、ルナさんはうどん、RYOさんもうどん。ミッチー、正解は?」

 「私が昨日食べたのは、サンマ定食でした~!」

 「正答者なし(笑)。ちなみにどこで食べたんだい?」

 「近所にある定食屋さんです。前から気になってたんですけど初めて行きました」

 こんなん分かる訳あらすか!練習で良かった。


 「よし、ここからが本番だ。第1問!ミッチーが行ってみたい国はどこ?これは今までに行ったことのない国や地域ってことでいいのかな?」

 「そうです。なので…中国はアニメのイベントで行きましたし、ハワイとイギリスは撮影で行ったことがあるのでそれ以外です」

 「ということだそうだ。それじゃみんな、答えを考えてくれ」

 これは簡単。3年くらい前に夜さやでフランスに行きたいと言っていた。

 「書き終わったようなので見ていこうか。5人は回答を見せてくれ!オーストラリア、イタリア、韓国、フランス、フランス。お、割れたな〜。理由を聞いてみようかな。佐藤さん、なんでオーストラリアだと思ったのかな?」

 「何となく…直感です」

 「ではルナさん。なぜフランス?」

 「3、4年前に夜さやでフランスに行ってみたいと言ってたからです」

 「そうか。果たしてミッチーの答えは?」

 「私が行ってみたいのは・・・・イタリア!」

 「イタリア!正解したのは高橋さん。お見事!…ところでラジオでフランスと言ってたという証言があったな。RYOさんもラジオで言ってたから?」

 「はい、僕も聞き覚えがあります」

 「えぇ~!私、言ったかな~?でも二人も証人がいるってことは言ったんですね。ごめんなさい、今の気持ちはイタリアなのでイタリアが正解になります(笑)。ローマ観光がしたいです」

 ミッチーは心変わりしていた。誰がそこまで読めるんだ(笑)。


 その後も俺は3問目まで全部外していた。一つくらいは当てたい。

 「さあ、次が最終問題。得点経過は高橋さんとエディさんが1ポイント、他の3名は0ポイント。同点で終わったとしても延長戦は行わない。その場合はジャンケンをしてもらう」

 「はい、尺の都合でジャンケンになってしまいます(笑)。皆さん最後までがんばってください」

 「では問題。ミッチーが結婚相手に求める一番大事なことは何か?これはみんな気になるよな」

 これ、かなり初期の頃は心の広い人がいいと言っていた。私が失敗しても許してくれる人がいいって。でも最近この話題出とらんし7、8年も経てば変わってもおかしくはない。さてどうしたものか。

 「みんなけっこう悩んでるようだな。しかしミッチーも言ったようにあまり時間は取れないんだ。…書けたかな?良さそうだな。では5人は一斉に開けてくれ。せーのっ、オープン!心が広い、家事が得意、浮気しない、価値観が合う、価値観が合う。果たしてこの中に正解者はいるのか?それじゃミッチー、答えを教えてくれ!」

 「私が結婚相手に一番求めること、それは…積極的に家事をしてくれるでした!」

 「正解は積極的に家事をしてくれる。ということは…高橋さんの回答が正解だ。得意ならしてくれるだろうからな。ということで優勝は、2ポイントを獲得した高橋さん!おめでとう!みんな、高橋さんに拍手〜。さてプレゼントを選ぶ順番だが、優勝の高橋さん、準優勝のエディさんは確定だな。二人が選び終わって、もし複数の種類が残ってたら佐藤さん、ルナさん、RYOさんでジャンケンをして決めてくれ」


 「ちょっといいですか?」

 「ミッチー、何かな?」

 「この二人すごくないですか?」

 「あぁ。実は俺もすごいと思ってたんだ」

 「皆さん気付いてましたか?ルナさんとRYOさんは練習問題から5回連続同じ答えですよ!」

 なんと俺とルナはずっと同じ回答をしていた。続けてミッチーの口からとんでもないセリフが発せられた。

 「お二人は気が合いますね~。もう付き合っちゃったらどうですか?(ニヤニヤ)」


 「あ…えっと…」

 どうする?どう答えるのが正解?

 「実は私達もう付き合ってるんです」

 「言うんかい!」

 思わず心の声が言葉として出てしまった。それほど意外だった。ルナは自分のことを話したがらないと思っていたから。

 「そうだったの?じゃあ私は別々の席にいたカップルの二人をたまたまここに呼び寄せたってこと?すごい!え、付き合ってどれくらいになるんですか?」


 俺は元々関係を隠したかった訳じゃない。ルナがいいのなら俺も正直に答えよう。

 「2ヶ月くらいです」

 「ってことはツアーの最中に付き合い始めたのかな?」

 「ツアー最終日の公演後に僕が告白しました」

 少し会場がザワついた。

 「へー、やりますねー(笑)。デートはどんなとこに行くんですか?」

 「実はまだ…僕達、遠距離なんでそんなに会えないんです」

 「おいおい、ミッチー。そういうことにあんまり首を突っ込むのは野暮ってもんだぜ。ましてこういう場で」


 ヘンリーさん、ナイス。俺は喋っても構わないがFCイベントはファンみんなの物だ。こんな個人的な話、聞きたくない人もいるだろうからな。

 「ごめんなさい。つい我を忘れちゃいました(笑)。最後に一つだけ聞かせてください。お二人の出会いのきっかけはもしかして私ですか?」

 「そうです」

 ルナが即答した。

 「私達が出会えたのはミッチーのお陰で…本当に感謝してます」

 「ではこのコーナーを締めるとしよう。登壇してくれた5人にはミッチーが賞品の手渡しをしてくれる。みんな、5人に拍手を!」

 俺はミッチーから手作りクッキーを受け取ってステージを降りた。席に戻る途中、自分に視線が集まるのを強く感じた。

 ラストのライブパートはいつものように盛り上がったが、ステージでの出来事が予想外すぎて俺はふわふわしたままだった。




 イベント終了。Tシャツのまま外へ出ると寒かったので長袖のシャツを着た。

 俺は村人に電話をした。

「もしもし、あのさ。ちょっとルナと話あるもんで10分か15分くらい待っといてくれん?」

「あれ?ルナちゃんはメシ行かねーの?」

「いや行くけど。すまん、察してくれ」

「そうか、分かった。待ってる」

「後でまた電話するわ」


 そして俺はルナと合流した。

 「お疲れ様〜。村人さんはまだ?」

 「ちょっと離れた場所で待ってもらっとる。ルナ、話したいことがあるんだ。俺ら有名人だであっちの隅っこの方行こまい」

「うん」

 俺達は会場を出て時計の反対側の人影のない方へ歩いた。


 「よし、ここでいいか」

 「なーに?話って」

 俺は一度深呼吸をした。

 「俺はルナのことが好きだよ。ルナはどう?」

 「え、決まってるじゃん。私もリョウが好きだよ」

 「そうか。良かった。俺らってさ、まだ恋人らしいこと何もしとらんが?デートとか」

 「うん」

 「だから俺は決めた。これから最低でも月に一回はルナに会いにくるわ。ライブとか関係なく」

 「嬉しい…。じゃあ私も時々名古屋まで会いにいくね」

 「連絡も毎日するわ」

 「うん!」


 「ところでさっき、なんで付き合ってますって言ったの?」

 「あの時リョウはなんて答えようか困ってたよね。だからとっさに考えたんだ。付き合ってることを公表しても身バレする可能性は低いなって」

 「俺を助けるためだった?」

 「あと…これはちょっと照れるけど、単純に好きな人と付き合えて嬉しいから。それを隠しとくのはもったいないもん////」

 ルナは乙女だった。かわいいなぁ!!


 俺はもう一度、さっきよりも深く深呼吸をした。

 「ルナ、キスしよまい」

 「こんな所で?」

 「こんな所の方が思い出になるが。別に誰かに見られてもええて。さっき恋人であることは公表したんだで」

 「そうだね。いいよ」

 俺は細身なルナを抱き寄せた。

 「リョウは目を開けたままキスするの?」

 「お、すまん。初めてだでよ」

 「フフ、私も」

 俺達のファーストキスは不謹慎にも会場の外でだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 2018年─。

 「あ、来たわ」

 キョロキョロしている村人に手を振った。

 「おー」

 「おー」

 「村人さんお久し振りです」

 「カナちゃん久し振りだね。リョウは半年振りか」

 「ところで夜は誰のライブ?」

 「ライブじゃない。漫画家のサイン会があってそれに行く」

 「そうか。ところで今期何見とる?」

 「アニメ見てない」

 「1本も?」

 「1本も」

 「そんなに忙しいの!?」

 「そうなんだよ」

 村人は仕事が忙しく最近はなかなかライブやイベントに行けないらしい。長期出張で関東を離れることもよくあるとか。


 「カナちゃんは何か見とる?」

 「1分1秒は見てます」

 「あー、あれ面白いね。次からミッチー出てくるで楽しみだね」

 しかしアニメも見てない、ライブも行ってないでは村人と話せることがあまりない。

 「村人、夜さやは聴いとる?」

 「最近聴いてない」

 「最近っていつから?」

 「放送時間変わってから」

 「けっこう前だな。じゃあ俊敏なデブさんとか知らん?」

 「リスナー?知らないな」

 「今はほぼ毎週読まれとるぞ」

 「俺が知ってるのはこじママさんとできるだけこってりさん。太ももムチムチさん。それくらいかな。あと杉並ルナさん」

 「杉並ルナさんはもうおらんぞ」

 「え…??は…??どういうこと?」

 「村人さん。杉並ルナはもういないんです」

 「カナちゃんまで…何を言ってんの?」


 ♪♪♪♪♪〜

 「もしもし。あ、着いた?入って左奥の方におるから」

 「誰か来たの?あっ」

 「村人さんお久し振りです」

 「久し振り〜。ていうかいるじゃんルナちゃん」

 「ルナ。村人は最近夜さやを聴いとらんで知らんらしい。名乗ってあげて」

 「三好ルナです」

 「何、三好って?」

 「今、住んでる愛知県の地名です」

 「あー。引っ越したのは聞いてるけど改名したの?」

 「そうです。もう3ヶ月も前から三好ルナです」

 「名古屋とは違うの?」

 「はい。豊田市の隣です」

 「そう言われても地理が分かんねー」


 「お姉ちゃんは新生活で何か困ったことはある?」

 「車を運転するのが怖い。免許取ったばっかりだし。前は転勤のない仕事だったから東京を離れるなんて思いもしなかったよ」

 「田舎ですまんな」

 「もう。そういうつもりで言ったんじゃないって〜。それに全然知らない土地で暮らすのも色々発見があって面白いよ」

 「お姉ちゃん、あっちの方言は分かる?」

 「リョウと話しとるで大体分かるがね。外で分からん言葉があったら帰ってから聞いとるわ」

 「すごいなルナ。もうそんなに話せるようになったか」


 「ところでさ、二人はミッチーの現場でまだ他人の目は気になる?」

 「あのFCイベント以降ってことでしょ?今はもうならんな。人々の記憶も薄れつつあるし」

 「あの時は勢いでペラペラ喋っちゃったんですけど、時間が経つと恥ずかしくなってきました(笑)。だからあれからしばらくはリョウが気を遣ってくれて、会場近くの飲食店に入らないとかはしてました」

 「イベント当日も含めて、俺は知り合い4、5人に聞かれたよ。『もしかしてあの登壇した女の子って杉並ルナ?』って」

 「どう答えとるんだ?」

 「俺は杉並ルナの顔知らないから何とも言えない、って。でもたまに俺とリョウがライブ仲間だと知ってるヤツもいて。そういう時は、リョウとは現場では会うけどプライベートな話はしたことないって言ってる」

 「村人さん、お気遣いありがとうございます」

 「いいのいいの。大したことじゃないって」



 2時間ほど話して解散した。俺とルナは新幹線で帰った。







 3ヶ月前から俺達は三好のアパートに住みはじめた。いずれは分譲一戸建てに移る予定だ。

 二人で何度も話し合った結果、ルナが仕事を辞めてこちらに来てくれた。感謝している。


 昨日、ミッチーのFCの会報が届いた。同じ物が2通(笑)。ライブTもタオルも、CDもDVDも2組ずつある。CD類は売ってもいいのだが、今のところ邪魔とは感じないので置いてある。

 仮住まいなのでポスターは俺とルナがお気に入りのものをそれぞれ1枚ずつしか飾っていない。


 CDラックの上の写真立てにあるのは2012年のFCイベント終了後に村人に撮ってもらった2ショット。忘れもしない、俺達が交際を始めた日だ。

 写真の隣にはラミネート加工したチケット。初めてルナと出会ったライブのものだ。

 俺達二人がこうしているのもミッチーのお陰だ。ミッチー、本当にありがとう。大好きだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ